最強の仲間達
滞在して数日間、酔っ払いや羽目を外した若者達が騒ぐ事は毎日だったが、今日のそれは明らかに違う様相だった。鈴木は外の様子が気になり窓から窺うと、人々が逃げ惑い混乱状態に陥っていた。
「何事だ?」
鈴木は明かりに照らされた道や、夜の闇に浸食された路地を目を凝らしながら見つめていると、逃げて来る通行人を追いかける様に異形の物達が出て来る。
「何で魔物が街中に!?」
鈴木が驚ろいていると、アンナが部屋に入って来た。
「太助さん!」
「アンナ、あれは一体?」
「私にも分かりません」
「一階のロビーに逃げて来た人達が、避難しているようですわ」
リーゼが合流した。
「とりあえず、キッシュとメドラウトに」
「呼んだか?義兄弟」
「僕も居ますよ」
黎明の旅人が全員集合した。
「何が起こってるんだ?」
「ロビーに居たんですが、避難して来た人達が魔物に襲われたと言ってました」
「魔物が何で街中にいるんだ?」
「放って置いたら被害が拡大してしまいますわ」
「魔物共をぶっ飛ばしに行くか?」
平和ボケしている鈴木の混乱を他所に、パーティメンバーは自分達が出来る事を考え、動き出していた。黎明の旅人がクリスタルパレスから出て、周囲の状況把握に努めると、どうやら南西側から避難して来ているようだ。
「まずは周辺の雑魚を一掃しますわよ」
魔物の奇襲による、動揺したリーダーの代わりに、リーゼが指揮を執る。
「爆ぜろ!」
キッシュの強烈な回し蹴りにより、魔物が吹き飛びコインと化した。半魚人の様な魔物や異常に大きい人面蟹、ヌルヌルしたウツボらしき怪物が、次々と湧き出しては逃げ惑う人達を襲っている。メドラウトの妙技なる槍捌きとリーゼの絶対なる怪力無双、キッシュの華麗な身のこなしから繰り出される武術に、アンナの的確な魔法攻撃によって徐々に戦線が押し戻されて行く。鈴木がパーティメンバーの強さを実感しつつも、パーティー最弱であろう自分に情けなさや苛立ちを覚えた。
「さぁ太助。貴方の出番ですわよ」
いじけている鈴木に突然スポットライトを当てたのはリーゼだった。
「早く皆さんの手当てをして下さい」
アンナが鈴木に自分のすべき事を教える。鈴木が我に返り周囲を見渡すと、魔物に襲われ傷付いた人達が倒れていたり、傷口を抑えながら辛そうに逃げていた。
「何を考えているんだ、まずは目の前の事に全力で当たろ」
終始ネガティブな思考になっていたが、仲間の奮戦と怪我をした子どもを見て、鈴木は目を覚ました。
「リカバリー!」
集中力を最大限引き出すと、逃げ惑う者や倒れて動け無い者、この瞬間に襲われ、怪我を負う者を同時に癒した。
「流石だな」
「見事ですわ」
「太助さん、凄い」
「リーダー、パねぇ」
太助の奇跡の治癒魔法に黎明の旅人のメンバーは感嘆の声を上げた。負傷者がみるみる回復していく中、現在、魔物に噛まれ怪我を負った者も、牙が抜けた刹那には癒されていた。
「さすが義兄弟だ。回復を専門にしている魔法医でも、ここまで見事な回復魔法は使え無いだろう」
黎明の旅人が周囲の魔物を一掃し、安全になった事を確認すると、負傷者だった者達をクリスタルパレスに誘導し、魔物達が沸いてくる南西側へと歩を進めた。途中何度も襲われている人達を救いながら、元凶と思われる海中ダンジョンに到達した。
入り口は魔物で埋め尽くされ、蠢く魑魅魍魎が跋扈し魔物の足元には、逃げ遅れた人達の死体が無残に転がっていた。
「行くぞ!」
「おう!」
「はい!」
「よろしくってよ!」
「行きましょう!」
鈴木の掛け声に同調した黎明の旅人は、烈火の如く有象無象の雑魚を蹴散らした。あるものはメドラウトの槍で貫かれ、あるものはキッシュに弾き飛ばされ、あるものはリーゼに圧殺され、あるものはアンナの魔法に塵と化した。そしてあるものは鈴木のスイートハートによって露と消えた。
「押し込めー」
鈴木の号令により指揮官(初級)が発動し、黎明の旅人の勢いに拍車をかけた。溢れ出ていた魔物達を撫で斬りにして、鈴木は敵を殲滅した事を確認した。
「ここから出て来てたのか」
「酷い臭いですね」
血の池が出来て、辺りを鉄の臭いで充満させていた。
「鼻が曲がりそうだ」
魔物の体臭と血の臭いが混ざり、鼻の良い獣人には吐き気を催す程の悪臭に、キッシュが辛そうに顔を歪める。
「とりあえず中に入って確認しよう」
警戒しながらゆっくりと進む。キッシュとリーゼを前衛に鈴木とメドラウトを中衛に置き、アンナを後衛とすると魔物の巣窟であるダンジョンに侵攻を開始した。第二階層に続く道は、昼間に訪れた時とは違う、薄明かりに照らされた通路には死体が転がっていて、夜の海を泳ぐ魚達は不気味に見えた。
「来るぞ」
ゾロゾロと地底から這い上がって来る怪物達を倒しながら、第二階層の階段に到着した。
「これは...」
「ここを塞いでいた冒険者だな」
そこには第一犠牲者である冒険者達がボロ雑巾の様に横たわっていた。抵抗の痕跡が残っており、最後まで足掻いて魔物の侵略を防ぎ、逃走を図った者は一人もいなかった。




