戦後処理
ホワイトドラゴン国の王となった高木は、色々な判断と決断に迫られていた。
「ラズウルに与していた貴族は全員処刑すべきです。この千載一遇を逃せば、この機会に国の膿を全て出さなければ!」
ミリスが捕虜となっている、ラズウル国の重臣から末席にある貴族まで、一律に処刑する事を強く提案した。
「それでは本当に有能な人材まで失う事になります。今は国が傾き困窮しているのです、使えるものは何でも使わなくては。優秀な人材とは得難いのです」
メリーナがミリスの極端なやり方を否定し、高木に人材確保こそ最重要課題である事を知らせる。
「今まで民を苦しめていた王を、見て見ぬ振りしていた貴族達も同罪でしょ!」
「ミリス。貴方は感情的になり過ぎだわ、政治と感情は切り離しなさい。竜星王と貴方と私で国が回ると思うのかしら?辺境領主である彼らの力が必ず役に立つ、過去では無く未来を見なさい」
メリーナはミリスに対して的確な指摘で黙らせた。
「メリーナの言っている事は正論だ」
実際ここ数日は酷く多忙を極めた。高木もコチラの世界では平均3時間くらいしか寝ていない。それでもなんとか瓦解しかけた国を維持出来たのは、メリーナの力による所が大きい、彼女の召還でホワイトドラゴン国に呼び出された、帝国の有能な文官や武官の働きにより、国の体裁を辛うじて保てているのが現実だ。
「竜星様」
ミリスがメリーナとの言い争いの最中、高木がメリーナの肩を持った為、シュンと意気消沈してしまった。
「だがミリスの言っている事も正しいんじゃないかな。国民からすれば結局は王も貴族も虐げる者に変わりは無い。ならば彼らに問おう、守るべき民が困っている今、幾ら財産を寄付するのか。どれほど身を削れるかで、民からの信頼の回復も測れるんではないかと思います」
「蓄えを寄付させる事により、貴族への不信感を取り除く訳ですね」
「ラズウルの遺産は全て使い果たして、国庫は空になってしまったからね」
「寄付した金額によっては処刑でよろしいですか?」
「仕方ないんじゃないかな。この期に及んで保身を計るなら、国民のガス抜きに一役買って貰おう」
「はっ」
「かしこまりました」
前述した通りホワイトドラゴン国は、メリーナ率いる帝国の有能な人材によって動いている。内側がボロボロで穴だらけの船が助っ人で優秀な船員達のおかげで沈没せずにいる。船長が警戒すべきは乗っ取りだが、高木はメリーナに全幅の信頼を置いていた。何故ならば。
少し前のやり取り。
「竜星王」
「なんでしょう?メリーナさん」
「今回、我が帝国とは停戦では無く、同盟になったので何か要求しましょう」
「要求ですか?要求と言っても何をすればいいか」
「まず食料と仮設のテントを用意させましょう。後はお金ですね、これはあっても困りません。それに人足を数百人程度送らせて...」
「メリーナさん、大丈夫なんですか?そんなに要求して」
「帝国からすればゼウス王国を挟める、この国の軍事価値は計り知れません。引っ張れるだけ、ギリギリまで引っ張りましょう」
「ではお任せします」
「はい、任されました。あと私の信頼している部下を、呼び出してもよろしいでしょうか?」
「構いませんが」
「良かった。あの子達が居れば復興は大幅に早まります」
メリーナとのやり取りを思い返して、高木はメリーナに深く頭を下げ、感謝の意を伝えた。
「私は私が出来る当たり前の事をしているだけです」
メリーナは照れ臭そうに執務室から出て行った。
「ミリスさん」
「はい」
「復興の要は貴方です」
「私ですか。私はメリーナと違い何も出来ずにいます。役に立てて無くて、悔しい気持ちと恥ずかしい気持ちで一杯です。そんな私が本当に皆の為に役立てるのでしょうか?」
「国民からすれば、メリーナも帝国の人も所詮他所者なんだ。でもミリスは違う、この地で生まれ育った紛れもない領民だ。同じ苦難を乗り越えた同志に指示されるのと、他所者に指示されるのでは湧き上がる感情も違ってくる。君にしか出来ない事が沢山あるんだ、力を貸してくれないか」
高木の問いかけに臣下の礼を尽くす様に、ミリスは膝をつき高木の手を取ると宣言した。
「全力で皆が安寧に過ごせる国に致します」
執務室とは名ばかりの崩れた天井にひび割れた壁、西日が割れた壁から差し込み、高木とミリスを照らす。
「ホワイトドラゴン国王陛下」
兵士が高木を呼ぶ。
「どうかしましたか?」
「魔王アンドー様からの使者が参られております」
「アンドー?この忙しい時に何用だ、全く...分かりました。玉座の間で待つ様に伝えて下さい」
高木は平服から正装に着替えると、アンドーなる魔王の使者と会った。
「これは新たなる魔王様。私は序列第3位、魔神の準右翼にして絶拳の魔王アンドーの補佐。シュルツと申します、お目にかかれ光栄です」
シュルツは一礼した。




