高木流生花
「何だ?その汚いガキ共は」
「魔人です、人類の敵ですよ。最近勇者様が新しい武器を購入されたと聞きまして、試し斬りに使われてはどうかと」
「お前、気が利くな!よしよし、いいじゃん、いいじゃん。ガキだから柔らかそうだし、新しいこの剣も傷まずに性能が試せるな」
男勇者が剣に手をかけ子ども達に凶刃を向けようとした瞬間。
「待てよ、悪趣味もここまできたら笑えねーって、最近のテーマパークは夢をぶち壊しにくるのが流行りなのか?」
高木が止めに入った。
「あん?誰だお前。格好は冒険者みたいだな、もしかして俺達の仲間か」
男勇者は高木の格好から勇者か冒険者であると判断したようだ。
「やり過ぎなんだよ、見てて反吐か出る。取り敢えずパークの責任者を連れて来い、説教してやる」
高木が怒っていると。
「何やってんの!ソイツが魔王でしょ」
女勇者が男勇者に助言した。
「コイツが?」
「魔神のお膝元のココに一般人や、まして勇者が一人でいる訳ないでしょ」
「それもそうか」
「とにかく早く責任者を」
高木が男勇者に近づいて抗議している最中、高木は男勇者の拳を喰らい地面に倒れた。
「ラッキー、生まれたてホヤホヤの魔王GETー。お前は何のスキル持ちかな?」
男勇者は倒れた高木に追撃の蹴りを喰らわす。
「ぐっ、げほげほっ」
蹴りの痛みで咽せてしまった。
「さぁ、今から君死ぬんだけど、どんな気持ち?」
男勇者はニヤニヤしながら剣をちらつかせる。絶対絶命かと思われた時、連行されて来た子ども達が高木と男勇者の間に立ち塞がる。
「なんだよ、なんですか?まさかコイツを守ろうとしてるのか。笑える」
男勇者が最前列にいる子どもの眼前に剣先を近づけ脅した。
「お兄さんは今機嫌が良いから、退けば痛い思いしなくて済むぞー」
最前にいる子どもは無言で男勇者を睨みつけた。
「何だその目はー!潰してやろうか」
グッと近づく剣先に瞬きせず、真っ直ぐ見据える子ども。
「何だコイツら気持ち悪い。いいや死んじゃえよ」
男勇者が剣を子どもに突き刺そうとした刹那。
「やめろー!!」
高木が怒りの雄叫びを上げた。
我が主よ、存分に我が力をお使い下さい
爽やかで聡明な声が頭に直接響いた。すると子ども達が淡い金色のオーラに包まれ、男勇者の剣が子どもに触れた瞬間に粉々に粉砕した。
「へっ?」
男勇者は人を刺す感触を予測していたので、全く手答えが無く、ボロボロとふ菓子の様に壊れ、消えていく愛剣の様を見て自身の目を疑った。
「馬鹿!何ふざけてんだよ。クロスハリケーン!」
女勇者が魔法を放ち一網打尽で殱滅を試みるが、オーラを纏う魔人の子ども達には傷一つ付ける事が出来なかった。
「何が起こってるの?」
両勇者が茫然自失になっているところを、子ども達が群がり男女の悲鳴が上がると勇者の遺体は消えていた。
「なんだよコレ。意味が分からない」
「お兄ちゃん魔王様なんでしょ?」
「そんな設定だったな」
「ならミリス姉ちゃんを助けて!」
「ミリス...。さっきのダークエルフの子か?」
「変な奴に連れて行かれちゃった。ここは僕たちに任せて助けに行って、あっちだよ」
高木は魔人の子どもに言われるがまま、勇者陣営に乗り込んだ。
「ウィズリーランドのパレードってゲスト参加させてたっけ?」
ここに来てようやく高木は違和感を感じ始めていた。
「いやいや、じゃあなんですか?いわゆる異世界に転生しちゃったの?魔神を名乗る変態...いやオネエさんが魔王とかなんとか言ってたなー、ちゃんと真面目に聞いておけば良かった」
高木は半信半疑になりながら少し後悔した。男女が言い争っている天幕に着いた。
「大人しくしろ」
「誰がお前の様な野獣に身体を許すものか!」
パチン
平手打ちした音が聞こえた。
「うるせーな、さっきからいいから開けよオラ」
「やめろ!」
「誰も助けに来ねーよ。しかもお前ダークエルフだろ?混血なんか誰も気にしたりしねーから」
この言葉の後、テントからすすり泣く声が漏れた。
プチッ
血管が切れた音がした。多分切れたら大変だけど間違いなく切れたね!!あーもう男の風下にも立たせられない程のクズだ。高木は足音を忍ばせ近くにあった花瓶を手に取ると思い切り男の頭に振り下ろした。
ガシャン!
花瓶は見事に粉々になり鈍器としての生涯を終えた。立派な最後だった。
「誰だ?俺様の頭に何か打つけた奴は」
頭から血をタラリと流しゆっくりと振り返る男。
「頭にお花が咲いてたので、生けたいのかと思いまして」
高木はにっこりと満面の笑顔でハキハキと答えた。つられて男が笑い返す。
「ははははは」
「はっはははは?」
男の顔にみるみる怒気が現れ、暴れ出した。
「ただでは殺さねー、八つ裂きにしてやる!」
男が大暴れするものだから、テントが揺れ支柱が折れて崩れてしまった。高木は崩れ行くテントの中で、ミリスの手を取り間一発で脱出に成功した。
「貴方は?」
ミリスの瞳には涙が浮かんでいる。
「許さねー、あの猿野郎」
ミリスの手を取り、怒りに震えながら走る。
バカーン
テントと支柱がまとめて吹き飛んだ。
「待て、この糞野郎!」
「ウンコはお前だ、バーカ」
高木は柄にも無く冷静さを欠き、低俗な悪口で罵った。とてつもない勢いで追いかけて来る、野蛮勇者に追いつかれそうになるとミリスが高木の手を振り払った。




