異世界あるある
高木が途方に暮れていると。
「へへっ、にーちゃん。迷子かい、良かったら俺達にお金を恵んでくれよ」
カツアゲと曇天が相まって高木を更にブルーにした。
「いいから出すもん出せよ」
カツアゲ野郎が近づいて来て襟を掴み上げる、高木は軽く去なしたつもりが吹き飛ばしてしまった。
「えっ!?」
「えっ!?」
高木とカツアゲ野郎達は思いもよらない出来事に、驚きの声を同時に上げた。ぶっ飛ばされたカツアゲ一味の一人は土煙に覆われ気絶している。高木は昔やってた合気道を無意識に使ってしまう事があり、暴漢に絡まれたりすると偶にやってしまうのだ。
「野郎!ヤル気だな」
「ぶっ殺してやる!」
カツアゲ一味から強盗に格上げされた、強盗野郎達は短剣やナイフを出し、殺気を放っている。
「待て!今のは」
「うるせー!」
「やっちまえ!」
高木は強盗達の攻撃を躱し落ち着く様に試みるが、興奮状態の為、聞く耳を持たない。仕方無く高木は制圧を開始した。屈強な男達があれよあれよと、一人また一人と高木に組み伏せられていく。
「何だコイツ!魔法でも使ってるのか?」
強盗達が相手の強さを計り間違えた事に気づいた頃には、戦力のほとんどが無効化していた。
「アカンアカン、君らみたいな三下君じゃ話にならんよ。死人が出ない内に早よ消え」
騒動に気づき男が仲裁に入った。
「げっ!雷神だ」
「やばい逃げろ」
「なんやあの子ら、けったいな」
「ありがとうございます」
「えっ、それワシに言うとん?どっちかー言うと、あの子らを守ったつもりなんやけど、にーさんオモロイな」
日本の昔話に出てくる赤鬼の様な風体がノシノシと近づいて来る。顔は強面だがよく口角が上がって、人情味のある人の様だ。
「ワシ山田言います、にーさん新しく魔王になった人かいな?」
「魔王ですか?」
「魔神のネーサンに会わんかった?」
「魔神を名乗る変な人には会いましたよ。そう言えばそんな事言っていた様な...」
「もしもオーガの村に来たら寄っててな。大体そこに居るから、ほな気張りーやー」
雷神と呼ばれた男は笑顔で手を振りながら何処かへ行ってしまった。
「これからどうしよう...」
高木が途方に暮れていると、見目麗しい女性が横を通り過ぎて行った。褐色の肌に藤色髪のダークエルフが、高木をチラリと道端の石ころを見る目で、一瞬目が合ったがそのままスルーして去ってしまった。
「綺麗な人だったなー、モデルさんかな。しかし良く出来てるな。いつの間にウィズリーランドに来たんだろう、コスプレしてる人も多い、ってか俺以外全員か」
高木は街並みを見渡し、テーマパークに来ていると錯覚していた。御膳立てはあったが異世界にいると言う認識に直ぐ順応出来る人間は少ない。高木は街中を散策しながら、美味しそうな匂いに釣られ店先で鼻で深呼吸する。
「おっ!お客さん、どうだい一本」
焼き鳥の様な香ばしい匂いが高木の胃袋を刺激して腹を鳴らす。高木はポッケや財布を探したがお金が見つからず、購入を断念しかけた時。
「何だ文無しか、その財布袋は飾りかい?」
露天の店主が指差す所に視線をやると、どうやらコインが入っていた袋の事を言っているようだ。
「残念な事に、この中は何処かのスロットメダルしか入って無いんですよ」
高木は袋から銀貨を取り出すと店主に見せた。
「金持ってるじゃないか、冷やかしだな」
「これで買えるんですか?」
「当たり前だろ、それだけありゃ十本は買えるぞ」
高木は不思議そうに銀貨を見つめ、店主に差し出す。
「何本だい?」
「買えるだけ」
「あいよ!」
店主は一本おまけしてくれて焼き鳥の様なものを11本渡してくれた。匂いはタレが美味しそうで口に入れると牛肉に近かった。
「美味しい!これ何の肉ですか?」
「それはバッファローアントの肉だ、魔物の中でも安価で美味しい肉さ。あんた食べた事無いのかい?」
「バッファローアント?聞いた事無い品種だな、でも美味しい」
「そりゃ、良かった」
高木が三本程食べ終わる頃には腹に溜まっていた。
「見た目より結構ボリュームがあってジューシーだから、お腹一杯になって来ちゃった」
食べ物を粗末にする事が出来ない性分の高木は、額に脂汗を浮かばせながら完食を決意する。4本目の串に手を伸ばした時、視線を感じるのでその方向を見ると、小さな子ども達が高木を凝視していた。子ども達の服はボロボロで良く見ると、ほとんどの子の頬がこけていた。
「食べるかい?」
高木が優しく声をかけると、子ども達は物陰に隠れ様子を伺っている様だ。高木がもう一度声をかけると一人の男の子が近寄って来て、高木からバッファローアント串を奪い取り走り去った。高木は少し驚いたが様子を伺っている子ども達に、再三勧めるとあっと言う間に群がられ、バッファローアント串は一瞬で消えた。
「たははは」
揉みくちゃにされ髪の毛が少し乱れたが、高木は笑顔で子ども達を慈しむ様に見た。一度高木を見たが礼も言わず、子ども達はクモの子を散らす様に消えた。




