スキルガチャ
「何でこんな事をした!」
留置所での取り調べに対し高木は黙秘を貫いた。死人に鞭打つ行為に思えたからだ、ましてや最愛の妹である。朝から晩まで取り調べは行われ、罪人に相応しい粗末なディナーが振る舞われる。
「まっず」
高木は文句を言いながら、食べ物を無駄に出来ない性分で完食した。
「.....」
高木も十分エリートコースを邁進していたのに、先日のあの事件で全てを失った。突然全てを奪われた、復讐したのだから被害者ぶる気は無い。だが釈然とせず、モヤモヤと内に広がる真っ黒い何かを感じていた。留置所は何もする事が無いので、食後少しして横になる事にした。高木が眠りに就くと、見知らぬ男が立っていた。
「僕は留置所にいたはず、ここは?」
「あら、いらっしゃい。アンタも迷える仔羊ちゃんね」
新宿二丁目に居そうなレディ?がお尻をフリフリしながら近づいて来た。
「ここは?貴方は?」
「オーケー、OKー。何千、何万回同じ説明してるけど、優しい私は教えてあげちゃう」
レディ?はウィンクしながら質問に答えた。
「私はアンタがこれから行く世界で魔神と呼ばれる存在。ここはその世界に行く為の準備場所、とでも言うべき場所かしら」
「魔神?」
高木が胡散臭いレディ?に疑いの眼差しを向けると。
「信じられないわよねー。でもアンタは彼方の世界で全てを失ったわ、だから魔王として奪いなさい」
「魔王って」
高木が鼻で笑うと。
「あんたは奪われたんだ、なら奪い返しなさい。大事な妹を」
魔神は高木の薄暗く濃い闇の部分に、手を突っ込みかき混ぜる様に焚き付けた。
「いーい?殺し奪えば、いつか可愛い妹ちゃんは帰って来るわ。人の目なんか気にする必要無いの、本能と欲望を解放しなさい」
魔神はキャスター付きのガチャガチャを高木の前に運んで来た。
「何ですか?それ」
「あ〜ら!アンタ、ガチャも知らないの?そっちでは流行ってるって聞いたから、このシステムにしてるのに」
魔神は頬を膨らませて星柄の金貨を高木に二枚渡した。
「回しなさい。アンタがこの世界で生きる為のものよ。雑魚スキルなら即死、金玉か虹玉を一回でも引ければ、上々ね」
「金に虹の玉?」
「排出率はこちら〜」
そこには銅玉70%、銀玉 20%、金玉9.9999%、虹玉0.0001と汚い字で書いてある、ホワイトボードを持って来た。
「さぁ、運命を勝ち取りなさい」
魔神に言われるがまま、高木はコインを一枚入れガチャのハンドルに手をかけた刹那。
「我を呼ぶ者は誰ぞ?共に修羅とならん」
脳内に響く声が聞こえた気がした。高木は気を取り直しハンドルを回すと、虹色に輝く玉が排出された。
カランカラ〜ン
「大当たり、やるわね!アンタ」
虹色に輝く玉をボーッと見つめていると、魔神が耳元で囁く。
「その虹玉をゴックンしなさい。きっと良い事があるから」
魔神の長い付けまつ毛がパタパタ開いたり閉じたりしている。高木は意を決し虹の玉を飲み込んだ。すると胃から虹色の光が漏れて収束する。
固有スキル 魔法無効を獲得
「あらあら。いきなりチートスキル引いちゃうなんて、有望過ぎない」
「何だこれ?」
「全ての魔法スキルを無効にする」
高木の身体には変化が見られない。
「さあ、もう一枚あるわ」
高木はもう一枚の星金貨を入れガチャを回す。
「我が主よ。お待ちしておりました、存分に我が力をお使い下さい」
最初に響いた声は低音で歴戦の勇士の様な声だったが、今回は爽やかで聡明な声が心に響く。
「まあ、二回とも引くなんて。何千年振りに期待しちゃうわ」
高木と魔神の目の前には虹色の玉が転がっていた。
「これ虹しか入って無いんじゃないですか?」
「ふふ、魔皇に成るべくして成る魔王に相応しい嫌みね。いいわもっと私を楽しませて頂戴」
魔神は高木が虹玉を飲み込む瞬間を恍惚とした表情で見つめた。
固有スキル 絶対庇護を獲得
「またエゲツないスキルねー。その力を守る為に使うのか、滅ぼす為に使うのかはアンタ次第。アンタと言う異分子が入る事によって起こる反応。この世界に躍動を与えてね」
魔神の興奮が最高潮に達しようとした時。
「じゃあ、行ってらっしゃい。それと死んだら、お終いだから気をつけてねー」
「えっ!?最後何て?」
高木が気づき目を開けると、そこには曇天で暗い世界が広がっていた。
「何なんだよ、一体!」
高木が辺りを見回すと一人の青年男性が立っていた。
「あのここは?」
「ここは終わりと始まりの村です」
「白昼夢でも見てるのか...」
「魔神の使徒として魔神の言葉を授ける。まずは南南西に行き、皇都や王都にいる勇者を狩るのだ!行け」
何を言っているのかさっぱりだが、コイツが日本語通じないのとヤベー奴なのは良く分かった。高木は直ぐに使徒を名乗る男から離れ、歩きながら身体を見ると身体は皮鎧に覆われ、腰には短剣、ポケットには星金貨とは違うコインが入っていた。




