奇跡の力
村に着く頃には、すっかり陽も沈みかけて、夕暮れの中でパーティーを解散させた。
「お疲れ様でした」
ミーシャが初めて鈴木に敬語を使った為、鈴木は喫驚した。動揺が顔に出ているようで、ミーシャがクスクス笑うと、冒険の助言をくれた。
「先輩冒険者の言う事は素直に聞く事、支持には必ず意味があります。それは経験から得たものが多いので理不尽でなければ従って下さい。今は夜間の冒険は控えて下さい、出現するモンスターの性質が変わるので危険です。あとは魔王に近づかない事、命は一つしかありません。最後に冒険者を続けるなら、仲間を探して下さい。自分では解決出来なくても、仲間と一緒になら乗り越えられます。以上を踏まえて、残りのアリアケ草を回収して下さい」
ミーシャはペコリと一礼するとその場を去ろうとした。
「あの!ミーシャさん。いやミーシャ先生にパーティーに入って頂く事は出来ませんでしょうか?」
ミーシャは一瞬言葉を詰まらせたが、哀しそうな顔をしながら。
「ごめんなさい、私にはやらなくてはならない事があるから」
鈴木は彼女の背中を見送る事しか出来なかった。初告白を断られた様な、甘酸っぱい切なさを感じながら、鈴木は背負子を村長宅へ持って行き、回収した分を納品した。
「ありがとう、こんなに早く納品してもらえるとは。あと数日もかからなさそうだね」
「いえ、今日中に終わらせて来ます」
「もう陽も沈み夜だ。回収なら明日にした方がいい」
「今出来る事は今したいんです」
鈴木は村長の制止も聞かず村を出て、アリアケ草を取りに洞窟へと一人で向かった。普段の彼ならそんな事はしなかったはず、ただミーシャの勧誘に失敗した、モヤモヤを少しでも紛らわせる為、彼女の助言をすっかり忘れてしまっていた。道中モンスターと戦闘になった。昼間は余り見かけない飛行型モンスター、成犬くらいの大きさの団子虫に羽が生えた様な見た目だ。鈴木は何度となく短剣をモンスターに突き立てるが、羽付き団子虫の装甲を貫く事が出来なかった。
「やばい、全く効いてない」
勇者スキルで底上げされているステータスを持ってしても、今の能力ではこのモンスターを倒す事は出来なさそうだ。羽付き団子虫数匹に囲まれながら、ジリジリと追い詰められていく。幾度と噛みつかれ、引っ掻かれ。飛び回りながら、勢いよく硬い装甲で突進してくるのだから、たまったものではない。逃げても相手は飛んでいる為、すぐに追いつかれ追撃にあってしまう。羽付き団子虫は、餌が弱っている事に気づき、チキチキと歯を鳴らす。ご馳走がもう少しで食べられる、そんな会話をしている様だった。進退が極まった鈴木は現状を打開する策を巡らす。ダメージが蓄積し瀕死になりかけた時、ある方法を思いついた。
「リカバリー!」
鈴木が大声で呪文を叫ぶと、みるみる傷が癒されていく。裂傷や打撲によるアザが消えて、身体が元の状態に戻った。痛みが無くなると鈴木は全力で逃走した、みっともなくても、ダサくても、とにかく走り続けた。虫に食われるのは嫌だ、その一心でモンスターから逃れきった。なんとか洞窟に入るとしゃがみ込んで涙が出てきた。落ち着きを取り戻して洞窟を探索する、唯一の救いは外と違って、出現するモンスターが変わらなかった事だ。人食いコウモリやゴブリンを駆逐しながら第6階層に到着した。背負子に残りのアリアケ草を乗せ、背負うと直ぐに洞窟を出る事にした。
第3階層辺りで致命的なミスに気づく。
ひたっひたっ
あの足音が近づいて来る。かなり時間が経っていたので、魔王は居なくなっているものだと、勝手に思い込んでしまっていた。すぐに隠れる、身を屈め息を殺し、恐怖と戦いながら存在を空気にするように心がけた。その甲斐あってか魔王の足音が違う道に入って行くのが聞こえた。鈴木は胸を撫で下ろし、足音が消えたのを確認すると、立ち上がり出口に向かおうとした瞬間。
「見つけた」
おぞましい声で、顔は、はっきりと見えなかったが、ニタリと笑う魔王の顔を最後に意識を失った。




