魔神の十翼
鈴木が呼びだされた時間の少し前、ここはポセイドンにある摩天楼の最上階。
「ようこそお歴々の皆様、魔王総会にご参加頂き誠にありがとうございます。今回は序列第一位の魔王補佐である、七眼の魔王ハルトレーゼが司会進行役を務めさせて頂きます」
七眼の魔王を名乗るハルトレーゼが美しい一礼を行い、進行を続けた。
「初めに序列第一位。魔神の主右翼にして破壊と創造の魔王。ククリル様!」
最初に紹介されたククリルと呼ばれる魔王は返事をせず手を上げて反応した。
「続きまして序列第三位。魔神の準主右翼にして絶拳の魔王、アンドー様」
「おいっ!」
アンドーが軽い感じで返事をした。
「序列第四位。魔神の準主左翼にして百罰の魔王、アングリコ様」
「うるせーな、いるよ!見りゃ分かんだろ」
「失礼しました。では序列第五位。魔神の副右翼にして雷神の魔王、山田様」
「ほい!なーハルちゃんさー、序列とかどうでも良いと思うねん。仰々しくせんと一翼目ニ翼目でええんとちゃうの?」
「あの...」
ハルトレーゼが困惑していると風神の関根が助け船を出した。
「山田さん。彼にも役目があるのです、困ってるじゃないですか」
「せやかて時間の無駄やわー。まぁしゃーないな」
山田が黙るとハルトレーゼは紹介を続けた。
「序列第六位。魔神の副左翼にして風神の魔王、関根様」
「はい!」
関根は指までピンと伸ばし返事をした。
「序列第七位。魔神の準副右翼にして人形支配の魔王、マリアンヌ様」
「は〜い」
マリアンヌは気の抜けた返事でネイルをいじっていた。
「序列第八位。魔神の準副左翼にして天地開闢の魔王、鈴木アルフォンス様」
「ここに」
アルフォンスは目を瞑り、腕を組みながら返事をした。
「序列第九位。魔神の補助右翼にして反逆と兵器の覇者の魔王、モルドレッド様」
「うぇ〜い!上げて行こうぜ。あっヒュ〜」
モルドレッドのノリに誰も反応しない中、一人パリピ状態になっていた。
「こほん!えーではご紹介致します。今回新しく魔王十将軍を拝命し、序列第十位となりました。魔神の補助左翼にして魔人の守護者の魔王、高木様です」
「皆さん初めまして、魔王十将軍がなんなのかは分かりませんが、仲良くして下さい」
高木の紹介に一早く噛み付いたのは、アルフォンスだった。
「魔人の守護者とは大層な二つ名だな」
「天地開闢さんには負けますよ」
「あっ!?」
アルフォンスが席から立ち上がり、高木に向かってガンを飛ばす。
「魔人の守護者さんも天地開闢さんも冷静になりなよー」
明らかにマリアンヌはけしかける様に仲裁役を演じている。2人の間でバチバチに火花が散っているのを見兼ねた、山田が間に入った。
「まあまあ、お二人さん。若いから血の気が多いんやろうけど、今日は只の顔合わせなんやから笑顔でいよーや」
「雷神!手前ぇには未だアポロンでの借りがあるんだからな」
先程までニコニコしていた山田の顔が阿修羅の様に怒気を帯びた。
「ガキが誰に向かって生意気な口効いとんじゃワレ!簀巻きにしたるど」
山田が片鱗を見せたところで関根が出て来た。
「山田さん、子ども相手に大人気無いですよ。アルフォンスさんも事情はお察ししますが、我々と同盟にあるアポロンを攻撃したのは如何なものかと」
関が穏やかな口調で諭すと山田、アルフォンス両名は口を噤み席に座った。
ギスギスした雰囲気が会場に蔓延していく。
「何々、皆んな仲良くしようぜ。ラブアンドピーース!」
モルドレッドが重苦しい空気を一切読まずアゲアゲで1人盛り上がっている。
「モル君さー。その話し方どうにかならんか?めっさ気に障るねんけど」
「ごめんねー。ちゃん山、これが俺の生きる道だから〜」
「うざっ!」
辛辣な言葉をマリアンヌが投げかける。
「うぃ〜」
モルドレッドはカコッ!と舌を鳴らし、マリアンヌに向け、指で銃を作ると撃つマネをしながら、ウィンクをした。
「おえ〜キモーい」
マリアンヌはケタケタ笑いながら、モルドレッドを指差し大笑いした。
「そう言えば、モルドレッドさん。また国を一つ滅ぼしたそうですね?」
「やってやりましたよ!ばちこーんっと」
「あんまり無茶はしないで下さい。均衡が崩れます」
「それが俺等の務めっしょ!関チャソ」
モルドレッドは反省の色を見せず、椅子に背もたれしながらユラユラしている。
「皆様!そろそろ本題に入ってよろしいでしょうか?」
痺れを切らしたハルトレーゼが進行しようとした時。
「おい!待てよ」
アングリコがハルトレーゼに待ったをかけた。
「まだババアが来てねーじゃねーか」
アングリコの発言でモルドレッドとマリアンヌによって解された空気が一変した。
「アングリコ様。今の発言は撤回して下さい」
ハルトレーゼの諫言に激昂したアングリコが歩み寄り、襟首を掴む。
「誰にものを言ってんだコゾー!百回地獄見てみるか?」
アングリコの傍若無人ぶりに場が静まり返る。カタッと椅子の足が床に当たる音がした。
「あ?」
アングリコが振り返ると目前にアンドーの顔があり、息がかかる距離にいた。アンドーはもの凄く恐い笑顔でアングリコに質問した。
「ババアってのは、グランドマザーの事を言っているのかな?」
アングリコがピタリと動きを止めた。
「ん?聞こえなかったかな。もう一度聞くぞ、ババアってのは我等が偉大なる母君。グランドマザー、いや鏖の剣鬼と謳われる魔王の事ではあるまいな」
「...はいっ」
アングリコの視界には恐ろしい熊の様な魔王は勿論、ククリルとモルドレッドを除いた魔王が、席から立ち上がり、アングリコに殺意を向け睨んでいた。アングリコの血の気が引き、今までの勢いは全く無くなり、意気消沈しながら席に戻った。
「えー、申し訳ございません。序列第二位。魔神の主左翼にして鏖の剣鬼の魔王」
ハルトレーゼは一拍置くと。
「オンリースイート様は今回欠席でございます」




