精鋭
アイスを食べ終わり、カルデアの問いかけにずっと悩んでいた。
「馬鹿馬鹿しい、なんで夢のゲームの事をこんなに真剣に悩まなければならないんだ。アホらしい寝よう」
鈴木は誰に言い訳するでも無く、大きな一人言を呟くと歯を磨き就寝した。
目蓋を閉じていても、眩しい太陽の光が明るく照らし、起床の時間である事を大きなお世話で教えてくれる。
「アッツ!暑い」
鈴木は飛び起きる様にベッドから出た。夏の嫌な暑さは薄くなったが、窓を閉めカーテンをせずに直射日光を受ければ、こうなる。
「アンナに洗って貰おう」
汗まみれになった寝間着を畳んで、駄賃の銅貨を用意した。鈴木は陽の高さから集合時間まで少しある事を確認すると、メドラウトを除く黎明の旅人をエントランスに集合させた。
「何だ?義兄弟」
「改まって、どうかしましたか?」
買物に出ていたメドラウトは不参加で、アンナとキッシュが前のめり気味に話を聞いて、リーゼが眠気まなこでボーッと聞いている。
「やはり今回のゴートクラーケン討伐は俺一人で行こうと思う」
鈴木の思い詰めた顔を案じていた、2人からは安堵の笑みが溢れた。
「下らない事で私の貴重な睡眠時間を割かないで頂きたいですわ」
リーゼは怒って自室へと戻って行った。
「リーゼ嬢の言う通りだ。下らない事言ってんなよ、義兄弟」
「そうですよ!メンバー全員で決めた事をリーダーだからと勝手は出来ません」
キッシュとアンナは責める感じでは無く、諭す様に鈴木に答えた。
「しかし、今回の件は俺が勝手にした事が発端だ。お前達の命を賭ける訳にはいかない」
「前にも言ったが、あそこでお前がやらなきゃ俺がやってたさ」
「冒険者稼業していたら、いつの日か死ぬかもしれません。でも仲間の為なら黎明の旅人のメンバーは、本望じゃないですかね。少なくても私はそうです」
キッシュとアンナは強い意志を秘めた瞳で鈴木を見据える。鈴木は説得しても無駄だと悟り、深く頭を下げた。
「皆さん、どうしたんですか?」
メドラウトが両手一杯に買物袋を抱えて歩み寄って来た。
「聞いて下さいよ!太助さんたらゴートクラーケン討伐を1人で行くって、言い出したんですよ」
「メドも行くよな!」
「...もちろん!行きますとも」
メドラウトのこう言うところが憎めない。一度解散して丁度良い頃合いに再集合する事になった。時間ぎがまだ少しあるので、大船団の状況を把握する為に本部のある南港に向かった。
「思った以上にいないな」
鈴木の目の前に広がる景色には大小の船が数隻あっただけで、当初の十分の一の戦力まで低下していると思われる。海沿いを歩きながら本部にふらっと入ると、アリスが海図に穴が空くくらい凝視していた。
「アンガス、そこの分度器を取って頂戴」
アリスは集中し過ぎて、入って来た人物をアンガスと間違えているようだ。
「この戦いがハート家最後の大勝負になるか、外竜王パルスジャヴァウォックへと続く路なのか...。必ず勝利しましょう」
その執念と積年の思いが伝わってくる。分度器を渡されたアリスはまだ鈴木である事に気づいていない。邪魔にならない様に鈴木はテントから静かに出た。
「おい!アンタ来てくれたのか。ありがとう」
テントから出るとアンガスが駆け寄って来た。
「ありがとう、ありがとう!」
アンガスは何度も何度も鈴木に感謝を伝えてくる。
「これが最後の戦いかもしれない、アンタ達みたいな一騎当千の猛者に参戦して貰えれば、これ程心強いものは無い。この戦い勝てる!そんな気がするんだ」
アンガスの目には涙が溜まって今にも溢れそうに見える。2人は固い握手を交わすと指定された時間と場所で再開した。
「集まってくれた、ここにいる全ての戦士と船員に敬意と感謝を表します。これがゴートクラーケンとの最後の戦いです」
アリスは力強く剣を天高く掲げた。
「おおー!!」
大船団は一夜にして姿を消し、残ったのは10隻にも満たない小規模な船団に変わり果てている。が、残った者は命を捨てる覚悟で魔怪獣に挑もうとする命知らず達、士気は高く殺るか殺られるかの殺気をギンギンに漲らせ、心地よい緊張感を漂わせていた。
「出発ー!!」
アリスの号令で船団は先日交戦した海域を更に南下し、ゴートクラーケンを捜索した。1時間2時間と時間は過ぎるが広い海域でゴートクラーケンを探すのは至難である。刻一刻と時間だけが過ぎていった。
「夜になったら魔法使いの方々の魔法で誘い出す算段です」
陽が暮れ海が鎮まりかえる。旗艦から合図が鳴る
カンカンカン
「サンライト」
船団の魔法使いが一斉に魔法を詠唱し、船団の中心が昼日中の様に明るくなった。
「奴が出て来たら、皆さんはよろしくお願いします」
トッピル船長は舵をゆっくり切りながら、船上にいる傭兵達に指示を出した。十分二十分待てどゴートクラーケンは出て来ない。魔法の効果が切れ暗くなるが、もう一度サンライトで明るくして誘い出す。1時間、一刻が過ぎても大型イカ野郎は雲隠れして姿を現さなかった。




