業
家に着くとソファーに腰掛けアクビが出た。散歩したら眠たくなってきたのでソファーで横になり目を瞑る。
「やあやあ、鈴木 太助さん。久しぶりですね」
鈴木が気がつくと一度訪れた事のある、時空に迷い込んでいた。
「あんたは?」
「カルデアですよ。ハデスの時にお会いしたじゃ、ありませんか」
カルデア クロノスは優雅にお辞儀すると真っ白な世界にポツンと置いてある、テーブルと椅子に鈴木を誘うとポットで紅茶を淹れ、皿に用意されたクッキーを食べるように勧めた。
「なんで俺はここに居るんだ?どうなってる」
鈴木はカルデアに質問をぶつけると。
「鈴木さんあっちでお昼寝しちゃったでしょ?明け方まで続いた魔怪獣との戦いで、こっちの身体はまだ寝てるんですよ。意識を取り戻すまで、もう少し時間がかかりそうなので、せっかくなら鈴木さんとお話がしたくて御足労頂いた訳です」
カルデアはニッコリ笑顔でそう答えると、ソーサーを持ち淹れたての紅茶を鈴木の元に置いた。
「ここといい、ゲームの世界も一体どうなってるんだ?」
鈴木は困惑しながらカルデアに、今まで起こった不思議な体験の原因を質問した。
「あの子にあれだけの仕打ちをしたんだ。カルマだよ」
「?」
カルデアは鈴木に聞こえるか聞こえないくらいの声量で呟くと、今度ははっきりと聞こえる声で答えた。
「この世界に呼ばれたんですよ」
カルデアは指でゆっくり宙に円を描くと、そこにはクリスタルパレスのベッドで眠っている鈴木の姿が映っていた。カルデアが指をスクロールさせると、画面が変わりアンナの姿が映った。アンナは丁度起床するところの様で着替えの最中であった。
「おおっと失敬。思いがけず目の保養をさせて頂きました」
カルデアは急いでもう一度スクロールする。すると画面はアリスを映し出した。どうやら周辺の音まで聴こえてTVを観ている感覚だ。
「お嬢、本当にいいんですかい?」
「今回の遠征はここまでにすれば、まだ再起がかけられます。これ以上深追いして万一、ゴートクラーケンの討伐に失敗したらハート家はもちろん、アリスお嬢様の身も無事では済まないのですよ!」
アンガスとリアがアリスを必死に説得している場面だった。
「ここで辞めてもジリ貧です。ハート家が6大魔獣の呪縛に苦しめられた、この1000年の間、かつてここまで6大魔獣を追い詰めた事はあったでしょうか?ここです!ここに私の全てをベットします」
アリスは真っ直ぐに2人を見据えると、哀しい笑みを浮かべた。
「アリスお嬢様」
「どこまでもお供しやす」
リアとアンガスはアリスに頭を垂れ臣下の礼を尽くす。
「貴方達には苦労ばかりさせるけど、もう少し付き合ってね。では直ぐに捜索隊を出しなさい」
「御意」
カルデアがまたスクロールして場面を切り変えた。
「あれは?」
「実際に起こっている事です」
鈴木が次の場面に目を移すと。
「こんなもんに命なんか張れるか」
「ハート家もお終いだな」
「悪い事、言わねーからリップルさんもよしときな。犬死にだよ」
「あんたら、それでも海の男か!?ゴートクラーケンを野放しにして平気なのか」
「出会って死んだら天命だが、戦って死ぬのは自死に等しい」
「俺達も明日は参加を見送らせて貰う」
今日の明け方まで共に戦い、残っていた船長達が言い争っている場面が流れている。どうやら離反者が増えて、明日の討伐戦の参加者は更に減るようだ。
「明日の6大魔獣のリベンジマッチに君達、黎明の旅人は参加するのかい?」
「ああ、そのつもりだ」
カルデアは空になったティーカップに紅茶を淹れながら鈴木に質問した。
「仲間が死んでもいいのかい?君は代償を払えば生き返る事が出来るが、あの子達はそうはいかない。死んだら終いなんだ、あの船長達の言っている事は至極真っ当で、アリスや君やリップルが言っている事の方が異常なんだよ」
カルデアは指でスクロールする。また画面が入れ替わると先程の船長の一人にフィーチャーされた。
「ただいま」
「お帰りなさい、貴方」
「パパお帰りー」
そこには家族に出迎えられ一人の夫、父親に戻る海の男の姿があった。
「今日ゴートクラーケンとの戦いで死んだ者達にも家族がいた。君にそれを背負う覚悟はあるのかい?苦楽を共にした仲間の生死を預かる覚悟が」
「.....」
「さてそろそろ、目が覚めそうですね。また会える日を楽しみに待ってます」
鈴木はソファーで意識を取り戻すと、目を擦りながらコップに水を入れると一気に飲み干した。眠っていたのは30分程だが、首周りや脇、背中を中心に汗をかいてビショビショに濡れていた。
「気持ち悪い」
鈴木は服から下着、全て脱いでシャワーを浴びて寝汗を流す。カルデアに言われた言葉を思い出し、色々思案する鈴木であった。風呂場から出てスッキリすると珍しくアイスを食べる。コンビニのやつでは無く、アイスクリーム屋さんで購入する、ちょっと良いやつを冷凍庫から出して、ゆっくり溶かしながらスプーンを準備した。




