表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/352

ミーシャの申し出

sayaから肩パン4発を喰らい、なんとか解放された。居酒屋で解散となったが、sayaと陽菜は年頃も近い為、連絡先を交換していた。鈴木は陽菜のコミニケーション能力が、向上した事に手応えを感じつつ、帰宅する為パンパンの満員電車に乗って、10駅程揺られると気持ち悪くなりながら、最寄り駅に到着した。


「少し呑み過ぎたかな...」


鈴木は無理しない程度に急いで家路につく。何故なら駅から家まで徒歩で20分はかかる、正直早く帰って風呂入って歯を磨いて寝たい。月明かりと街灯、民家から漏れる光に照らされた道を、早歩きで進みながら微風を感じながら自宅に到達した。


「ただいま」


鈴木は酒が残っているので、シャワーで済ませ水を飲む。大分眠気に誘われているので、ボーッとしながら歯を磨いてスマホをチェックしているとsayaからのメッセージが入っていた。


「陽菜ちゃんと友達になりました」


良かった良かったと思いながら、4発殴られた肩が少し痛む。鈴木はベッドに入り目を瞑って、30分くらいフワフワな感覚を楽しんでから眠りについた。


クリスタルパレスのベッドは寝心地が最高だ。寝具が良いと目覚めもスッキリする。鈴木はスッと身体を起こし顔を洗った。カーテンを開けると何処までも続く地平線が広がり、美しい砂浜に透明度の高い海が視界に入りラグジュアリーな気持ちにさせる。


「ん〜!今日はゴートクラーケンとの戦いに備えて準備するか」


鈴木は荷物袋の中身を出し整理整頓を行う。必要品を携帯し、装備品のメンテナンスをする。鍛冶屋に出していたオンリースイートと革鎧を鍛冶屋で受け取り装備した。金剛鋼の兜を被り、オリハルコン糸のマントを付けると一端の冒険者が完成した。


「夕方までまだ少し時間があるな」


鈴木はウォームアップがてら、装備品を全て外し誰もいない足場の悪い砂浜の端で、鞘に入れたままのオンリースイートを振り回す。1時間程運動していると、こんな所に来客があった。


「あの」


声をかけて来たのはミーシャだった。


「この数日探してたんだけど、やっと会えた」


「ミーシャさん、どうかしましたか?」


「どうかなってるのは貴方でしょ。私を助ける時にノラ魔王を殺して、ゴートクラーケンを倒さないといけなくなったって」


ミーシャの表情は暗い。多分この数日で自身に罪の意識を、植え付けてしまったのかもしれない。鈴木は汗を布で拭うとミーシャに笑顔で答えた。


「大丈夫ですよ、ミーシャさんと別れてから沢山の戦いがあって俺は強くなったんです」


「ノラ魔王を倒すなんて...」


「ゴートクラーケンでしたっけ?あんなちょっと大きいイカを倒すなんて朝飯前ですよ。むしろイカ焼きにして朝飯にしてやります」


鈴木は傾きかけた太陽を背にミーシャに心配をかけまいと大風呂敷を広げる。


「心配しなくても大丈夫、俺には俺以上に強い仲間がいるから」


心配そうに見つめるミーシャの顔は年相応に見える。最初に出会った時にはたくましく、老練の冒険者に見えたが鈴木の目には、いつの間にか可愛らしい少女に映る様になっていた。


「まっ、待ちな!」


ミーシャが立ち去ろうとする鈴木を呼び止めた。


「このままじゃ、私の気が済まない。ゴートクラーケン討伐に私も連れて行きな」


ミーシャの思いがけない申し出を受けたが、鈴木は丁重にお断りをした。


「是非参加して貰いたいんですが、今回は定員が5名なので連れて行けないんですよ。多分帰って来る頃には全員ちょっと疲れてると思うので、南港まで出迎えの馬車を用意して頂けると助かります」


ミーシャは少し抗議してきたが、約束の人数を越えてしまう為、連れて行けない事を根気強く説明して、なんとか納得させる事に成功した。ミーシャの手前、ああは言ったが、鈴木は今のミーシャをゴートクラーケン戦に連れて行った時のリスクを考え棄権させた。彼女の腕は間違い無く、一流の冒険者だが6大魔獣との戦いにおいては正直戦力としては厳しいだろう。鈴木はミーシャにそんな空気を微塵も匂わせず、定員を理由に押し切ったのだ。


「わかった、帰りを港で待ってるよ」


「ありがとうございます」


ミーシャ師匠と別れ、一度ホテルへ戻り汗を流す。サッパリして頭を布で拭いていると、陽が更に傾き夕方になりつつあった。鈴木は装備品を装着し完全武装するとホテルのエントランスにて、黎明の旅人を召集した。


「さてイカ狩りだ!」


「キッシュさん、やる気満々ですね!クラーケンって食べられるんですかね?」


「変なものを食べておなかを壊しても知りませんわよ。アンナ」


「アンナさんは本当に食いしん坊ですね。キッシュは泳げないのは大丈夫なの?」


「最悪、難破したら板にでもしがみつくさ」


大仕事を前にいつものように軽口を叩くメンバーに鈴木は深々と頭を下げる。


「どうした?急に」


「すまない、皆。俺が我がままを通したばかりに迷惑をかける」


「事情はキッシュから聞きましたが、褒めて差し上げますわ。弱きを助け、強きを挫く、雄らしいじゃありませんか」


「事情はどうあれ、仲間を助けるのに理由はいらないんですよ」


「お前がやらなかったら、俺がやってたさ。あれを見逃すくらいなら魔獣でも魔神でも殺ってやるさ」


「頭を上げて下さい、リーダー。皆の気持ちは一つです、ゴートクラーケンをやっつけましょう」


「ありがとう」


鈴木はスッと姿勢を正すと出陣の号令を出した。南港までは歩いて20分くらいで着いた。そこには見た事の無い大船団が海を覆い尽くしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ