晴耕雨読
「なんだあれは?」
「魔王さ」
「魔王?」
「あれは出てくるのを待ってるね。今日は大人しく村から出ない方がいい」
ミーシャはもう一度軽く舌打ちをすると諦めたようだ。今日は絶対に村の外に出ないように釘を刺された。ミーシャ曰く、魔王は村には入れないらしいが、遭遇戦となるとどんなモンスターよりも強いらしい。ミーシャ自身は戦った事は無いとの事だが、ミーシャよりも数段強い彼女の師匠が、あっさりと魔王に殺されたそうだ。
「魔王ってダンジョンや城の最深部にいて、出歩くものじゃないですよね?」
「何を言ってる?寝ぼけた事を...魔王はそこら辺にウジャウジャいる。城にいるのは魔王十将軍くらいでノラ魔王なんてザラでしょ」
「魔王十将軍...ノラ魔王?」
「その名の通り十将軍は魔王の将軍で誰も手がつけらない。ノラ魔王はもしかしたら一国の軍隊を当てれば勝てるかもね、でもあいつら人間の住む国や街、村には入ってこれないから戦って犠牲を出すアホな国は無いって訳」
ミーシャが闇に向かって石を投げると見た事の無い、大きな火柱が村の入り口に突如現れた。その巨大な炎は目測で10メートルは上がり、熱がこちらに伝わる程だった。
「あんなの相手にしたくないだろ?」
ミーシャはそう言うと村の酒場に向かっていった。信じられないが、あの火柱はノラ魔王が放ったもの、のようだ。戦えばただ殺されるだけの一方的な虐殺にしかならない、徐々に消えゆく火柱を見ながら鈴木はそう思った。
「そうそう暇なら魔法使いギルドに行くといい、自分で魔法を身につけるなり、せっかく出られないんだ、修行でもしな」
ミーシャは振り返らず、手をヒラヒラ振りながら去って行った。鈴木は魔法ギルドに向かう事にした。朝、見た魔法や魔王が放った火柱を見て、自分でも使ってみたいと思ったからだ。魔法ギルドに着くとさっき受付してくれた人が、少し戸惑いながら話かけてきた。
「どうかされましたか?もしかして先ほど洗った服にまだ汚れが残ってましたでしょうか?」
「いえいえ、すいません。ここで魔法が学べると聞きまして」
受付の人は安心すると営業スマイルで魔法の話をしてくれた。
「まずは適正を見ましょう。この石像の前に跪いて下さい、次に心を空っぽにしましょう。無心になって下さい」
鈴木が言われた通りにすると
「んー」
受付の人は悩みだした。
「あのー」
「ああすいません。あなたの適正が少しわかりづらかったもので、そうですね色々な色が混ざり合っていますが、白が基調になっているので回復系魔法をお勧めします」
鈴木は広場の老人の言葉を思い出しながら、回復系魔法を覚える手続きを取った。学費は全財産では足りない為、ローンを組んだが金貨3枚分ほど借金をしてしまった。ところで魔法はすぐに使えるものではないらしい、魔法の仕組みや呪文を覚えないといけないようで、何年か学ぶ必要があるそうだ。現代のコンピューターのプログラミングと六法を頭に叩き込む感じに似ている。想像以上に魔法を覚えるのは難しかった。
「まずは週一回ペースで教えますので、それまでにこの本をここからここまで読んでおいて下さい」
受付の人が示したページ数は分厚い本の半分くらいだった。鈴木は村長の家に戻るとある事に気がついた。
「しまった、もしかして装備を先に買うべきだったんじゃ」
鈴木は頭を抱えながら持って帰ってきた本を読み更けっていた。気がついた時には夜中になっていて、一日で指定されたページを楽々越えて、一冊読み切ってしまった。書いてある内容を要約すると、具体的なイメージと持っている魔力が要で、呪文は発動する為のトリガーの役割らしい。今回は回復魔法書なのでとても読みやすかった、研修医時代を思い出しつつ時間を忘れ没頭した。




