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鈴木がフルヘェイスの兜の涼しさを堪能していると、人集りが出来ていた。


「なんの騒ぎだ」


鈴木は人集りの方に歩み寄ると大道芸の一座が芸を披露していた。綱渡りや野獣使い、一際観衆の目を引いたのは刀使いの技で、目にも止まらぬ速さで落ちた枯れ葉に、数度連撃を与え、枯れ葉を粉々に斬った。その連撃は鈴木の目にミーシャの連撃よりも早く映った。歓声が上がり大道芸のパフォーマンスは盛況に終わると、鈴木はサイフ袋から銀貨一枚を投げ銭カゴに入れた。


「ありがとうございます」


先程の刀使いがチップに対するお礼を言ってきたので。


「お見事でした」


鈴木は刀使いの腕前を褒めて一礼する。刀使いも仮面をしており、仮面同士が話す奇妙なシチュエーションとなった。刀使いの声色は女性のもので綺麗な黒髪ロングポニーテイル、鈴木は何処か懐かしい、そう思わせる女性だと思った。佇まいと言うか姿勢と言うか、顔は見えないが凛とした雰囲気を感じる。夏の暑さを忘れ爽やかな風を楽しんでいると、突然向こうの方が騒がしくなった。


「きゃー」


「逃げろー」


鈴木は慌てて騒ぎの方に走って、現場に到着すると魔王軍の残党らしき落武者が、目を血走らせながら通行人を斬りつけていた。


「一人でも道連れに死んでやる」


落武者の足下には二人の被害者が血を流して倒れていて、落武者の剣からは被害者の血が滴り落ちていた。


「やめなさい!」


「なんだ貴様?お前から地獄に送ってやる」


刀使いが落武者を制止し標的になったようだ。鈴木は二人の動向に注意しつつ、被害者に近づき容体を確認する。息は浅いが致命傷では無いので、すぐさま回復魔法で救護を行う。背中からバッサリ斬られた傷はみるみる消え、2人の被害者を安全な場所まで誘導すると、刀使いと落武者の果たし合いを遠巻きに見守る。


「今ならまだ間に合うわ、大人しく捕まりなさい」


「ここで縛に就けば嬲り殺されるのは必定、せめてお前を道連れに死んでやる!」


落武者の瞳は血に飢えた獣の様に、説得が通じる相手では無い事を物語っていた。落武者が血塗れの剣を振りかぶり、刀使いに突進した。刀使いは真正面から斬り結び一太刀で落武者を無力化すると。


「この人を衛兵に引き渡して下さい」


峰打ちで失神させた落武者を拘束する為、髪を縛っていた紐で落武者の手首を縛り上げると観衆から歓声が上がった。刀使いは謙虚に、声援に対して綺麗にお辞儀をすると一座の馬車の中へ消えて行った。


「お見事」


鈴木は刀使いの快刀乱麻の働きに小声で称賛を送った。殺すのでは無く落武者も戦争の被害者なのだと、慈悲を見せた心意気に昔の時代劇を見ている様な錯覚に陥る。


「仲間に欲しい」


鈴木は刀使いに一目惚れした。あれ程の使い手を如何にして仲間に引き込むか思案したが、良い案が見つからず正面突破を計った。鈴木は馬車まで行くと乗降口をノックした。


「はい」


刀使いが顔を出したので直球で勝負をする。


「俺達の仲間になって下さい!」


「はい?」


「黎明の旅人と言う冒険者パーティーを組んでいるんですが、是非お仲間になって頂けませんか?」


「生憎、今の暮らしが気に入っておりますので」


「そこをなんとか!」


「ごめんなさい、冒険とかそういうのは辞めました。お引き取り下さい」


刀使いは馬車のカーテンを閉め、鈴木との会話をシャットアウトした。


「あんた何してるんだ?部外者は離れてくれ」


大道芸の人に叱られ、鈴木はやむなく撤退した。


「どうにかあの人を仲間に出来ないだろうか」


鈴木は刀使いを仲間にしたくて、あーでも無いこーでも無いと色々考える。一つ不思議なのはアンナやリーゼ、メドラウトにキッシュを仲間にした時とは違う感情が働きかけていた。それがなんなのかは鈴木自体も分かっていない、執着心なのか城に戻る鈴木の足取りは重かった。しばしの休憩をはさみ陽が傾き始めた。


「皆準備は出来たか?」


「はい、大丈夫です」


「いつでもよろしくてよ」


「準備万端です」


「さっさと竜なんかシメちまおうぜ」


黎明の旅人は竜退治へとハデスとの国境付近にある山脈に向けて出発した。オーガの村を抜け山脈にある湖に着く頃にはすっかり夜中になっていた。


「そろそろ件の場所です、荷物はここに置いて行きましょう」


メドラウトの提案で荷物袋から戦闘に必要品だけを取り出して、臨戦態勢に入った。


「ショウタイムの始まりだ!」


キッシュが湖へと近づき大声で吠えた。


ゴゴゴゴゴ


地鳴りの後に水面が膨張し首長竜が姿を現した。その姿は巨大で月明かりに照らされ、逆光で見えづらくなった顔が不気味だった。首長竜の咆哮は山脈に響き渡り開戦の狼煙を上げた。首長竜の水圧ブレスが噴射されると黎明の旅人は全力回避した。当たらなかった水圧ブレスは地面を抉りその威力と危険性を物語る。


「散開!標的にならないように動きながら黙らせてやれ」


鈴木の指示で黎明の旅人は湖を囲む様に陣取ると、メドラウトとアンナが水魔法を発動させる為の詠唱を開始した。キッシュは湖に入ると危険な為、近場の岩を砕き、砕いた岩を蹴り飛ばして竜に攻撃をしている。


「私一人でも十分ですわ」


リーゼは羽を出して飛空し、空から首長竜を大戦斧で急襲した。思わぬ反撃に首長竜も水圧ブレスで応戦する、リーゼとキッシュによる攻撃はダメージを与えているものの致命傷には至らなかった。

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