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アルパカの夢

「アンナ、行きますわよ」


リーゼがアンナを迎えに来て連れて行った。鈴木は地平線に吸い込まれていく、太陽を見つめながら冒険の風を身体中に受けて、壮大なこの世界と繋がっている、そんな気がした。


「さてとりあえず、コイツの性能を確認するか」


アポロンを少し出て近場で狩りを行う。夜間の戦闘だが鈴木には猫の目がある為、昼間よりも涼しく視野は変わらないので、むしろモンスター狩りは捗った。オンリースイートの斬れ味は抜群で、固い装甲の巨大亀を一振りで斬り倒し、彷徨う骸骨騎士の甲冑も豆腐を切る様な感触だった。


「素晴らしい買い物をした」


鈴木は新しいスキルで試行錯誤していた。オンリースイートを錬金複製で、モンスターに投げつけるとサクリと刺さり、一撃で屠る事が出来る。


「インフェルノ」


鈴木の魔法スキルで業火が発生し、モンスターを次々と巻き込み焼き殺していく。鈴木はインフェルノの特性に一つ気づいた。炎なので形はイメージした通りの形になる、但し火力に比例して魔力と精神力を削られる事がわかった。


「インフェルノ!」


鈴木は自分をイメージして業火を操ると、炎の人形が生まれ分身の様に動かす事が出来た。魔力の消耗が激しい為、長い時間使用する事は不可能であるが、インフェルノにはアシッドレインよりも、無限の可能性を感じる。そろそろ気力が底をつきそうなので、アポロンに帰る事にした。


「金貨5枚分か、まずまずの成果だな」


モンスターから出た銀貨を集計すると、意外と短期間で高収入を得た。鈴木は帰り道で鍛冶屋に寄って話を聞いてみる事にした。


「鎧に風と水の属性付与をして貰いたいんだが、幾らくらいかかる?」


「そうですね...鎧なら白金貨1枚でしょうか」


「白金貨!?」


「ええ、鎧の面積で考えるとこれが妥当かと、また二つ以上の属性付与は一級鍛冶屋しか出来ませんから。それと鎧の素材はなんですか?」


「確か金剛鋼と言っていたな」


「えっ!金剛鋼なんですか?」


「ああ」


「お客さん、先にそれを言って下さいよ。白金貨1枚どころじゃないですよ、その素材なら白金貨10枚は貰わないと」


「そんなにするのか?」


「当たり前でしょう、属性付与を定着させるのに技術と手間を考えたら、それでも採算合いませんよ」


「ちなみ兜なら」


「...そうですね、見積らないと何とも言えませんが、白金貨1枚から2枚は必要ですね」


「ありがとう、検討するよ」


無知とはいえ武器屋の主人に、無理難題を言ってしまった事を、心の中で謝罪しながら城へと戻った。城の広間ではキッシュとメドラウトが談笑していた。


「おう義兄弟、調子はどうだ?」


「まあまあかな」


「そう言えば親父殿と同じ、金剛鋼の鎧が部屋にあったけど、あれを装備するのか」


「そうしたいのは山々だけど、重くて着て戦え無いよ」


「あれ100Kg近くあるからな、一回黙って着た事があるけど、少し重いよな」


「少しなんてもんじゃ無いよ、しかも漆黒だから陽の光を吸収して、日中は着られたもんじゃ無い」


「あれは属性付与しないと使えない代物だからな」


「兜は武器屋の主人に付けて貰える約束になってるけど、鎧の方は白金貨10枚必要だってさ」


「それくらいはかかるだろうさ、なんと言っても金剛鋼は属性付与が最も、し難い金属と言われているからな」


「そうなのか?」


「だからこそ魔法耐性にも優れ、親父殿曰く魔法ダメージの体感は半減と言っていた」


「対物理、対魔法共に最強クラスの防具ですね。よくそんな国宝級の装備品を、手に入れられましたね」


メドラウトが興味を示したので、城下町にある武器屋で売っていた事を伝えた。


「金剛石を加工出来るなんて、余程の名工なのでしょう。明日一緒に連れて行って下さい!」


メドラウトは少年の様に目を輝かせて、鈴木に同行の許可を求めた。話を聞いているとメドラウトは武具に関する興味が強く、いつもはおっとり天然さんだが、こんなに饒舌になるとは驚いた。興奮したメドラウトを尻目に、キッシュが試しにあの鎧をサンドバッグにして殴らせろと言うので。


「新品の白金貨4枚の鎧をおもちゃにさせる訳ないだろ」


と丁重にお断りした。そうこう話をしている内にアンナとリーゼが戻って来たようだ。


「これは...マテラの長女と次女の女神を顕現させた様だ」


「羞花閉月とはこの事ですね、千言万言を費やしても表現し得ないとはこの事ですね」


男性陣からの礼讃に満足そうにポージングをするリーゼに、少し恥ずかしそうにリーゼの後ろに隠れるアンナが立っていた。アンナの装備品はライラックを基調とした薄手のローブで、腕と太ももが透けて見えて清楚さの中に色香を兼ね備えていた。


「太助さん、あんまりじろじろ見られると恥ずかしいです」


「あら、アンナ。太助はそういう雄ですわ、やらしい事は雄としては自然で優秀ですのよ」


「リーゼったら!変な事言わないで」


「太助、ご感想は?」


「ああ、良いんじゃないか」


「ムッツリは感心しませんわ、メドラウトやキッシュの様に素直に褒め称えるのが良い雄でしてよ」


リーゼが何を言っているのかは、ちょっとよく分からないがアルパカの夢に出てくる、パーティードレスに少し似ている。主人公がデザインしたライラック色のドレスに対して、ライバルがデザインしたグリーンゴールドが基調のドレスは、攻撃的で気品に溢れていた。正にリーゼが着ているプレートアーマーをドレス化した様な感じである。甲乙つけ難い、黎明の旅人の女性陣のファッションショーはあのドラマを彷彿とさせた。

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