特急の追加料金は
目が覚めた時には昼を過ぎており、暑さで目覚めた。喉がカラカラで汗が吹き出し、肌着をびっしょりと濡らしていた。汗を拭うと濡れた肌着を脱ぎ、ベッドのシーツを取り外した。村長に日頃の洗濯はどうしているのかを確認すると。
「ああ基本は井戸の水を使うんだが、有料でよければ魔法使いに頼むといい。ただし水魔法が使える奴じゃないと駄目だぞ、魔法使いは酒場か真っ当な奴だったら魔法使いギルドにいるから訪ねてみなさい」
ベタベタの汗臭いシーツの上で寝るのは地獄だ。鈴木はミーシャとの約束の時間に余裕は無いものの、我慢出来ずに魔法使いがいる、魔法使いギルドという所に急いで向かった。村人に尋ねながら魔法使いギルドを探し当てた。
「ここに魔法で服やシーツを洗ってもらえると聞きまして」
「はい、承っていますよ。肌着は銅貨2枚、シーツは銅貨5枚です」
「お願いします!」
鈴木が昨日の戦闘で手に入れたお金を取り出そうとすると受付の人が続けて話かけてきた。
「特急仕上げになさいますか?」
「なんですか?それは」
「追加料金で一枚につき銀貨一枚でこの場でお返し出来ますが」
「そんな事が出来るんですか!お願いします」
鈴木は少し興奮気味に財布袋から銀貨2枚と銅貨7枚を取り出して受付に渡した。
「はい、では少し離れていて下さい」
受付の人と思っていたが、どうやらこの人も魔法使いのようだ。棚に立て掛けていた身長と同じくらいの大きな杖を持ち出すと、何やら呪文の様な言葉を呟き始めた。最初は水魔法、何も無い所から急に水が出現すると、凄い勢いで水流を作り、あっと言う間に球体となった。水の球体に洗濯物を入れると汚れや汗を洗い落とし、洗濯が終わるとその水を下に敷いていた桶に落とす。次に風魔法で乾かす、風が舞起こるが局地的にしか風は吹いておらず、受付の人の近くにあった帳票は揺らぎさえしなかった。たった数分で洗濯乾燥まで行ったのだ。
「ありがとうございました」
鈴木は余りの手際の良さと初めて見る魔法にホクホクしながら村長の家に戻った。この感動を村長と共有したくなり興奮冷めやらぬテンションで話すと。
「洗濯なんかに銀貨使うような奴は、貴族か余程のきれい好きじゃな」
と少し呆れられてしまった。
「ちなみに鎌とかあります?」
「あるがどうした?」
「アリアケ草を刈るのに貸して頂けないでしょうか?」
「遠慮せず持って行ってくれ、外の納屋にあるはずだ。それとアリアケ草を持ち帰るのに背負子があると便利だから持っていきなさい」
「ありがとうございます」
鈴木は納屋にあった鎌を取り、背負子を背負ってミーシャの待ち合わせ場所に向かうと先にミーシャが待っていた。本当にあの男勝りな言葉使いでなければ側から見れば、どこぞの国のお姫様だと言われても納得してしまうだろう。そんな事を思いつつミーシャに声をかけた。
「お待たせしました」
「あんた、女を待たせるとは良いご身分じゃないか、もう少し役に立つ様になってから、こういう事はするんだね」
ミーシャが鈴木を睨みつける。鈴木はたまらず反論してしまった。
「ミーシャさんも昨日は僕を何時間も待たせましたよね?」
「半人前のくせに文句があるならパーティーを解散しようじゃない」
ミーシャは報酬として支払った銀貨の半分を取り出し、鈴木に返そうとした。
「すいません...」
この見知らぬ土地で生活のために冒険をしなければならない状況下、鈴木はすぐに営業モードに入りミーシャに謝罪した。ふんっとミーシャは差し出した銀貨を自分の財布袋に戻すと、足早に村の入り口に向かって行ってしまった。鈴木はばつが悪かったが、付いて行くのが最良の手である事を理解しているので、ミーシャの後を小走りで追いかけた。
村の入り口に到着するとミーシャが舌打ちをして不機嫌そうに言い放った
「今日は辞めだ」
「そんな、さっきのは謝罪したじゃないですか」
「違う、あれを見ろ」
ミーシャが指差す方向をよーく見ると明らかにおかしい空気の淀みが見えた。昼過ぎなのにそこだけ夜というか光が差していない感じ、不自然極まるその淀みの中に何やら動いている物体がいた。




