プロローグ
拙い文章ですが主人公と一緒に冒険に出かけて頂けると幸いです。
「誰でもいい、俺の話を聞いてくれ。俺に起こった信じられない月日の記憶を」
ポツリポツリと中年の男が語りだす。身体は逞しく筋肉隆々、顔は無精髭を剃らず眼は血走っていた。硬い岩の上で焚き火で暖を取り、ゆっくり、その積年を絞り出しながら...。
「あれは30年前に突然起こった、俺は只の夢だと思ったんだが」
男が語っている最中に、大きな叫び声や獣の咆哮が周辺から上がり、突如現れた巨大なムカデの様な化物、凶悪な面構えをした深海生物の様な獣に襲われた。辺りは不穏な空気に包まれ、夜なのに空は燃え盛る様に真紅に染まっていた。
「お前達の顔を見るのも飽きた、いい加減消えてくれ」
男は本当にくたびれた様子で呟くと剣を手に取り、鎌で草刈りをする様に、難なく自分より何倍も大きな巨体を狩っていく。
「ガレスの勇者よ、貴様に殺された仲間の怨みここで晴らす!」
魔王を名乗る一人がモンスターを次々と召喚し、先ほど男が倒した数よりも、更にモンスターの数を増やし、辺り一面を怪物達で埋め尽くした。その様は日本風に例えると百鬼夜行のようだ。
「お前達に仲間意識があったとは、ウジ虫が敵討ちとは何十年ぶりに感動したぞ」
「馬鹿にするな!」
魔王が亜人の従者をけしかけてくると、従者は虎の様な怪物に変身し、男に襲いかかる。その攻撃は常人には見る事すら出来ず、凶刃にかかるところだが、男は小さな溜め息をつくと、面倒くさそうに一瞬消えた。次の瞬間攻撃してきた虎の様な亜人の後ろをとり、カウンターの一撃で魔王の従者をあっさりと斬り殺した。
「まさかここまで強いなんて...」
「逃げよう」
「待て!ここでこいつを殺さなければ、我等が追い詰められて殺されるだけだ」
魔王達が撤退か応戦か叫び合っている最中、男がにたーと笑う。それは恐ろしい顔で、積年の恨みを晴らすべく、只々殺すのが楽しいそんな表情で、魔王達に歩み寄る。
「ひぃっ、殺さないで」
泣き喚き命乞いをする者、逃げ出したが追いつかれた者、必死の抵抗をした者、悉く一撃で屠られ、荒野に残ったものは死屍累々と、辺りに蔓延する鉄の匂い、焚き火の跡だけだった。魔王と召喚された怪物達が全滅すると、淀んだ空気が綺麗になり、空は晴れ満天の星が顔を出した。
「さぁ、お前達が人から奪ったものを返してもらうぞ。あの世とやらで後悔でも懺悔でもしていろ」
男が地面に浮遊している、様々な色の発光体を物色し始めた。
「これは持ってる、これは...クズだな。外ればっかりか。まぁ何十年もこんな事続けていればこうなるか、ここらが潮時かね。唯美、敬太。頑張ったよ、頑張ったんだ。でもこれにはクリアやゴールなんてものは無い、何十年も探したが見つからなかった。もう楽になってもいいよな?もしも許されるならお前達ともう一度家族になりたい...愛しているよ」
男は空に輝く星々を眺めながら、幾星霜を振り返って、男泣きをし、己の剣に手をかける。自死を決意し首に剣を当てた瞬間、頭に直接響く声を聞いた。
習得スキル 真愛の心を習得。これによりこの世に存在する全ての魔法及びスキルの獲得を確認しました。
頭に響くアナウンスが終わると、突然眩しさで目が眩んだが、見た事の無い色の発光体を発見した。純白に輝くその発光体の輝きは、今までに見た事が無い程、明るく夜の漆黒を白に塗り潰していた。
「これは...」
男がその発光体を手にした時、眩い光が全身を包み込む
「くっく、はははは。あーあ、そういう事かい」
男の身体が一層強く光出す。
「誰でもいい!俺の話を聞いてくれ!俺に起こった信じられない月日の記憶を!」