第179話 世界への頂に向けて
<オーラ視点>
まさか、こんなにも早く故郷に来ることになるとは思わなかったな。
以前クオン達と訪れて以来か・・・
ワシが再び故郷の里へ立ち寄ると、門兵をしている仲間が直ぐに見つけてくれた。
『オーラ、オーラか♪そうか、また戻ってきたのだな』
『なに、少し寄っただけだ』
『ワハハ それでも良い、さあ入れ姉御さん達も喜ぶだろう』
『すまぬな』
ワシは、久しぶりに故郷の里に足を踏み入れ我が家へと歩み続けた。
立ち行く仲間達は、ワシの顔を見ると誰もが喜んでくれた。
あんなにも弱かったワシに優しくしてくれた仲間達には頭が下がる。
以前来た時に強く成ったワシを見て、心の底から喜んでくれた掛け替えのない仲間達である。
出会う者達に挨拶をし我が家に足を向けると、懐かしき姉上達が出迎えてくれた。
『オーラおかえりなさい♪』
『ただいま帰りました姉上』
『オーラ、オーラ帰ってきたのね♪』
『今日は1人なのね、ゆっくりしていけるの?』
『うむ、勝手ながら一週間ほど寄せて貰おうと思っている』
『入って父上と母上も喜ぶわ♪』
『今だ道半ばであるから、叱責されるだろうな』
『そんな事、気にしないで良いわ早く早く♪』
『うむ』
久しぶりに会う両親も姉達同様、快くワシを出迎えてくれた。
ワシなどのために馳走を用意してくれ、最近の話しなどを語ってくれた。
ワシも相変わらずクオン達と鍛え精進している事を告げると、皆喜んで聞いてくれた。
唯一母上様だけは怪訝そうな表情でワシの目を見つめていた。
『オーラ1つ聞いても良いですか?』
『もちろんです母上』
『貴方は何故そんなにも生を達観したような表情をしているのです?』
この言葉にワシは心底驚いた、母上には何もかも見透かされているのだろうか。
『オーラ・・・もはや私では貴方の強さを推し量る事も叶いません、この短期間でどれだけ強くなったのですか?』
『この私が内包された貴方の力に恐怖さえ感じます』
『それだけの力がありながら、何故死を覚悟しているのです?』
『そ そんなオーラ?』
『・・・参りました母上様』
『今のワシは以前此処へ来たクオンよりも、遥かに強いでしょう』
『ええっ そ そんなに強くなったのオーラ?』
『遂にクオン殿を超えてしまったのですか?』
『す 凄いじゃないオーラ♪』
『いや違うのです姉上、今のクオンはワシなど比べ物にならん強者になっておる』
『それだけでは駄目ですか母上?』
『見縊って貰っては困りますよオーラ?貴方がどんな決断をしようともです』
『・・・これは言うつもりは無かったのです母上』
『ワシは、いやワシ等は一週間後に真龍王バハムートに挑むことにしました』
『なっ 』
『ええええええええっ』×姉達
『な なんと、それがどう言う事か分かって言っておるのか?』
『分かっております父上、しかし時は満ちたのです』
『ワシの悲願であった龍種は倒しました、しかし龍族に生まれ最強を目指すなら』
『真龍王を倒した時に初めて我が道が成ったと言えるでしょう』
『本当に人の身で勝てると思うのですか?』
『フハハ あのクオンですら真龍王の力は計れぬらしい』
『命を賭してでしか真龍王の力は計れぬのです母上』
『見事、見事ですオーラ・・・まさかあの弱かったオーラが、そこまでに至ったとは』
『私は龍族の強者として育ちましたが、そこに至るまでには届きませんでした』
『ここまで感動で身が震えた事はありません』
『貴方は疾うにこの母を超えていたのですね・・・』
『ですが道敗れた時、見事に果てろとは言いません逃げなさい、逃げるのです』
『恥も外聞もありません、生きてまた帰って来なさい』
『良いですねオーラ』
『分かりました母上、このオーラその時は仲間全員を担いででも戻ってきます』
次の瞬間まるで全身が凍り付くような威圧を浴びた。
『ぐっ こ これは』
『きゃあああああああああああ』
『くっ 』
遥か彼方から発せられたとハッキリと分かる程の距離から、凄まじい威圧が放たれている。
こ これは、まさか真龍王・・・
いや、違う・・・これはクオンの威圧だ、間違いない。
まさか、クオンの奴たった1人で戦いに行ったのか・・・いやクオンは、そんな奴では決してない。
そ そうか、分かったぞ フハハ 実にクオンらしいではないか♪
『くぅぅ な なんたる殺気ですか・・・こ これは、まさか?』
『御安心を母上、あれは間違いなくクオンの威圧です』
『あやつは、あの真龍王に対して宣戦布告をしに行ったのでしょう』
『あの威圧は真龍王に向けた挨拶だと思われます』
事が成されたのか、クオンだと思われる威圧が消えていく。
『ハァーハァーハァー 』×姉達
『・・・フフフ 何とも恐ろしい挨拶があったものですね♪』
『し 信じられぬ、どれだけの広範囲に威圧を放ったというのだ』
『父上様、あれが今のクオンです・・・』
『フハハ あやつにだけは生涯勝てる気がしません♪』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
<時は少し遡りクオン視点>
皆と別れ俺が向かったのは禁忌の山と呼ばれる場所だ。
そう俺は、決意を込めて真龍王バハムートに会いに行った。
禁忌と呼ばれるその山に近づくと、飛んでも無い存在が確認できる。
その中でも6体の存在は別格だった。
五大龍と真龍王バハムートで間違いないだろう。
本物の強者は、その存在を隠す必要も無いのだろう、これだけの存在感を持っていれば何処に居ても容易に見つけることができるのに苦笑する。
生物としての格の違いに尊敬の念を抱く程だ。
俺はそのまま真龍王の下まで行こうかと思ったが、踏み止まった。
目的を忘れるな、俺は何をしにきたのかを思い出し始めて<真龍王之威圧>を全開で解き放った。
間違っても人里では出来ないだろう、普通の人ならばこの威圧だけで命を落とすのが想像できたのだから。
自分自身の威圧に空気がビリビリと震えるのを感じながら、真龍王達に意識を向けた。
予想通り俺に気付いてくれたのか、真龍王を筆頭に無数の龍達が集まって来る。
眼前に真龍王バハムートが対峙すると、俺は<真龍王之威圧>を解除した。
『やはり、お主か♪』×真龍王
『フハハ たった1人で何をしに来た?まさか戦いに来たのではあるまい?』
『ああ 永く待たせてすまなかった今日は宣戦布告に来たんだ』
『なにっ 宣戦布告だと?』
『そうだ、行き成り来て戦ってくれなんて言うのは失礼だろ?』
『一週間後だ、一週間後に俺達6人で五大龍、そして真龍王バハムートに挑みに来る』
『今日は、それを伝えに来たんだ』
『フフ フハハハハハハハ まさか、この我に宣戦布告をしに来る者が居るとは思わなかったぞ♪』
『我と戦いたくば何時でも何処でも我の眼前に立てば良い、何時いかなる時でも受けて立つのが龍と言う生き物なのだから』
『流石だな♪だが俺はそれを良しとしなかった、俺達は真正面から最強に挑みたいんだ』
『最強・・・最強か♪』
『依然と比べ格段と強く成ったようだな、我に挑むその心意気は見事成り』
『フハハ 一週間か、待ち遠しくてたまらぬではないか♪』
『真龍王様、我々が先ですぞ?』×黄龍
『心配せずとも好い』
『クオンよ、我ら6体と戦いたいのだろう?』
『俺達は6人だ、対等の勝負ってのはそう言う事だろ?』
『フフ 真龍王様と我ら五大龍を同時に相手すると言うのか?』
『フハハハハハハハハハハハハハ』×五大龍
『『『『『面白い♪』』』』』
『毒の様な退屈な日々を送る我らに、何とも血沸き肉躍る事を言ってくれるではないか♪』×黄龍
『こんなにも楽しませてくれるとはな♪』×赤龍
『フハハ 愉快でたまらぬ♪』×白龍
『先ほどの威圧と言い、その振る舞い我らに劣っているとは思えんな♪』×緑龍
『それでこそ楽しめるというものよ♪』×青龍
『宣戦布告確かに受け取った、我ら万全の状態で受けて立とうぞ』
『ありがたい、心中を察してくれた事に感謝します』
『では、一週間後に必ず』
俺は真龍王と五大龍に視線を配り終わると、ゲートを開きその場を後にした。
『フハハ 我の眼前から消えよったか♪』
『<転移魔法>の様なものでしょう、気配が感じられませぬ』
『待った甲斐があったというものだ♪』
『それにしても、あの者の威圧・・・まるで真龍王様と見紛う程でしたな』
『それ程だったのか?』
『我らも驚いたぐらいです・・・』
『人の身で我と同程度の威圧を放ちよるか』
『流石は神に見込まれた者よ、良い楽しみができたものだ♪』
『我らも楽しみです♪』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は一度サークル本部へ戻り自室のベッドに寝転がった。
今になって身体が震えている事に気付いた、これは武者震いなのか・・・それとも本能が真龍王に恐怖しているのかは分からない。
唯1人なのに真龍王を前にして、襲い掛かろうとしてる自身を必死に押さえつけていた。
俺はこんなに無謀な人間だったのか・・・時は熟したと判断したのは間違ってなかったと言う事か。
じいちゃん、俺は真龍王と戦うよ・・・もし勝つことが出来たら、じいちゃんの事が何か分かるかも知れない。
じいちゃんの事って言うか、俺は誰なのかが分かるかも知れないのか。
どちらにせよ、もうすぐだ・・・
正直、今日相対して改めて思ったが勝率があるかどうかすら分からない。
俺達最大の攻撃であるシンクロ魔法を使っても、通じるかどうか・・・
だが既に賽は投げられた、考えても仕方がない後は戦うのみだ。
あはは 一週間は長すぎたかな、身体を押さえつけるのが大変だ♪
さて、そろそろ行くか。
俺が先ず向かったのは、俺がこの異世界に来て最初に訪れた辺境の町エルドラの近くにある平原だ。
到着してみると少し懐かしい、そうここでキョロキョロしながら辺りを見回したんだったな。
初めて見る植物やスライムで異世界だと分かったんだった。
あの時、じいちゃんは靴を履いたまま寝ろと言った。
そのお陰で異世界に来ても靴を履いてたんだよな。
鞄の中に入っていた物と良い、じいちゃんは間違いなく俺が異世界に飛ばされる事を知っていた。
普通の地球人に、そんな事が分かる訳がない。
それに初めて真龍王に会った時、俺に「異世界から帰ってきた者」と言った。
何故異世界から来た者じゃないんだ?
何故帰ってきたと言う言葉を使った?
ひょっとしたら俺とじいちゃんは、この異世界の人間なのか・・・
俺が転生者だったからユニークスキルを持っていたのではなく、この異世界の人間だったからユニークスキルを持っていたのか。
どちらかなんてのは今は分からない。
真龍王を倒した時、全てが分かるのだろう。
こりゃ絶対に負けられないな♪
俺は新たに決意を固めながら、懐かしい景色を見ながらエルドラに向けて歩を進めた。
しばらく歩くとエルドラが見えてきた、そういえばエルドラを見つけた時は嬉しかった事を思い出す♪
門兵をしているガルドさんが立っていた。
今思えばガルドさんは命の恩人だ、この人が居なかったら俺は異世界に来て早々に命を落としていただろう。
それなのに俺は何の恩返しもしてないのに気付き自分を恥じた。
『おおっ クオン君じゃないか♪』
『お久しぶりですガルドさん♪』
『本当に久しぶりだね♪立派になったじゃないかクオン君』
『以前は助けて頂き、ありがとうございました』
『いやいや、門兵として当たり前の事をしただけだよ』
『ミュウちゃんは一緒じゃないのかい?』
『はい、今日は一緒じゃないんですけど今も同じパーティで仲良くしてます』
『そうか、それは良かった♪痛た・・・』
『どうしたんです?』
『いや年は取りたくないね、少し腰を痛めてしまってね門兵失格だよ♪』
『丁度良いタイミングで来たみたいですね、ちょっとこっちへ来てください♪』
『お おい、どうしたのかね』
俺はガルドさんを連れて人目に付かない路地に入ると、<ラストヒール>の魔法を掛けて上げた。
もちろん、<ラストヒール>までは要らないんだけど、感謝の気持ちから最高の治癒魔法を選ぶのは当然だった。
ガルドさんの身体が淡い光に包まれ、消える頃には腰どころか全身の怪我まで治ったはずだ。
魔力を込め過ぎたのか、少し若返ったようにも見える。
『こ これは治癒魔法・・・治癒魔法まで使える様になったんだね♪』
『おお~ 腰が痛くない・・・凄いじゃないかクオン君』
『いえいえ ほんのお礼ですから♪』
『いやいや 何かお礼をしなければならないね』
『あはは まさか、こんな事で恩返しになるとは思ってませんよ♪』
『ああ そうだ、クオン君に言っておかなければ』
『今村の中にガラの悪い冒険者が来ているから、十分気を付けてくれたまえ』
『大丈夫ですよ、今の俺は以前とは比べ物にならないぐらい強くなりましたから』
『あはは そうかね、だが過信は禁物だ注意だけは怠らないようにね』
『はい、ありがとうございます』
『門兵の仕事が終わったら、食事でも奢らせて下さい』
『あはは 私が奢らなくてはいけないぐらいだよ?』
『いや本当にお願いします』
『それなら御馳走になろうか♪』
『はい、楽しみにしてますね♪』
俺はガルドさんと別れ、次はまたお世話になった陽だまり亭のラウラさんに会いに行った。
陽だまり亭に入るとキョロキョロとラウラさんを探すと直ぐに見つかった。
『おや、クオン君じゃないか立派になったね~♪』
『お久しぶりですラウラさん、よく名前を憶えてくれてましたね♪』
『あはは お客の顔と名前は忘れないよ♪』
『以前はお世話になりました』
『あはは 律儀な子だね~ そんな事気にしなくてもいいのにさ♪』
『いえいえ 本当にお世話になりましたから』
俺はラウラさんにも何か恩返しをしたくなり、ガルドさんみたいに何処か身体に痛いとこがないか調べてみる。
すると案の定右膝を痛めている様だ、幸い今はお客も居ないので直して上げる事にした♪
『ラウラさん、ちょっと此処に座って貰えますか?』
『えっ どうしたんだい?』
『良いから良いから♪』
『フフ 分かったわよ♪』
『<ラストヒール>!!!』
俺が治癒魔法を掛けるとラウラさんは、とても驚いたようでアワアワとしているのが可愛い♪
『どうです?右膝は?』
『えっ い 痛くない・・・まさか今の治癒魔法なのかい?』
『はい、ついでに全身の怪我も治しておきましたよ』
『うわ~ 凄いじゃないか♪治癒魔法まで覚えたんだね』
『ありがとう、ずっと痛くてね苦労してたんだよ♪』
『俺に何か作るよ、食べて行きな♪』
『いえいえ 俺の方がお礼しなきゃならないので、何かして欲しい事があったら言って下さい』
『何言ってんのさ、怪我を治してくれただけで十分だよ♪』
『俺次は冒険者ギルドへ行ってきますから、本当に何かあったら言って下さいね』
『良いよ良いよ、本当にありがとね♪』
『はい♪』