第169話 上級ダンジョン「ヘラクレス」 新たな友達
次のフィールドである地下61階に踏み立つと、そこは荒野のように緑のない平地だった。
強く吹く風が砂と枯れ草を舞い上げている。
かと言っても水中に比べれば全然進みやすいので、まだ安心した気分で先へと進む。
俺達も逞しくなったもんだ♪
流石荒野だけありサボテンがあると思ったら、おもいっきり魔物だった。
サボニードルと言うらしいが、無数の針を飛ばしてくるので厄介極まりない。
俺達が張った強固な<ライトシールド>に弾き返されず、シッカリと突き刺さって来る。
こりゃあ盾だけなら穴だらけになるところだ。
普通に現れるブラックサイクロプスも、今までみたサイクロプスとは比べ物にならないぐらい強い。
確実に中級ダンジョンのラスボスより強いだろう。
そんなのが5体6体と纏めて現れる、俺達は上級ダンジョンの手応えを感じながら先へと進んで行く。
少し落ち着いてきたかと思ったら、次は大量のデーモンが襲い掛かってきた。
黒を基調とし赤いラインが入った、禍々しい姿は見かけ通りの強さだ。
魔法はドカドカ撃ってくるし、パワーも桁違いだ。
最近スッカリ慣れてきた手加減スキルの事も忘れ、全力で薙ぎ倒していった。
『や やっと休憩出来るかな?』
『やっばいとこ来ちゃったわね~ 』
『フハハ 手応えがあって良いではないか♪』
『良い訓練と言えば、良い訓練かニャ?』
『フフ 手加減をしなくても良いのが良いですわ♪』
『まあな、色んな技が試せて良いがサジタリウスの皆を連れて来なくて良かったな』
『いくらローラ達でも泣いちゃうわよ?』
『フハハ 流石に厳しいだろうな♪』
『ところで何か居るのですが、あれは何ですの?』
『えっ?』×全員
ライカが指さす方向には、とても小さいのにセクシーな衣装を着た女性がプカプカと浮かんでいた。
俺達を品定めするように、こちらを見ているようだ。
『・・・なんかライカをちっさくしたようなのが浮かんでるわね?』
『あの、いくら私でもあんなに露出の多い服は来ませんわ』
『あっ ちっさい羽根がある、ひょっとして悪魔族なのかな?』
『ロックの言う通り、背中にコウモリの羽みたいなのがあるニャ』
『フハハ 小さいが確かにライカに似ておるな♪』
『ライカ以上に目のやり場に困るけどな♪』
『あら、そうなのですか?』
『あっ しまった・・・』
『フフ ごめんなさいね?』
『分かった分かったから、勘弁してくれ』
ライカに揶揄われながら失言したことを後悔する、あんなに胸の谷間がハッキリ見える服が着ているのだから仕方ないのだが。
そんな話しをしていると、プカプカ浮かんでいた羽の生えた女性はライカの所へ飛んでいき頭の上にチョコンと座った。
『・・・類は友を呼ぶ』×全員
『皆で声を揃えて言わなくても良いですわ』
『ですが、フフ 貴女可愛いですわ♪私のお友達になってくれますか?』
『・・・♪』
何も言葉を発しないが、笑顔になり首をコクコクと上下に動かしている。
どうやら友達になってくれるようだ♪
【サークルがサキュバス(夢魔)の<テイム>に成功しました】
【サキュバス(夢魔)の潜在能力<魅力>が開眼されました】
【サキュバス(夢魔)が種族スキル<魅了><硬直>を取得しました】
『おっ 仲間になってくれたみたいだな、それにしてもサキュバスだったのか』
『知ってるのクオン?』
『ああ 俺の国では有名な悪魔だったんだ、まあ悪魔事態仮想の生き物だったんだけどな』
『フフ 不思議ですね♪』
『では、貴女の事は「サキさん」と呼ぶことにしましょう♪』
『・・・♪』
『んふふ 気に入ったみたいね』
『フフ 私はライカよ、これから宜しくねサキさん♪』
『・・・♪』
『私はミュウよ宜しくねサキさん』
『あたいはムーアニャ宜しくニャ、サキさん』
『僕はロックって言います宜しくねサキさん』
『俺はクオンだ宜しくなサキさん』
『・・・♪』
サキさんは微笑みを浮かべ俺達に挨拶をしてくれているようだ。
でも念願の友達が出来てライカはとても嬉しそうだ。
『さて、念のため<鑑定>してみるか』
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【ステータス】
名前:サキさん
LV:150
種族:サキュバス(夢魔)
潜在能力:<魅力>
種族スキル:<魅了><硬直><コクーン><炎ブレス><炎結界><雷体><放電><剛腕><剛体><収納><真空鎌><氷塊><五属ブレス><ブレス強化>
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【アンサー サキュバス(夢魔):数多くいるサキュバスの中でも希少であり最も稀有な存在】
『・・・・・・・』×全員
『やっぱり特殊な個体なんだ?』
『変わってて良いじゃないか?』
『ニャハハ クオンはセクシーな服が良いニャ♪』
『こらこら、オーラとロックじゃあるまいし?』
『お おい、それはないだろう?』
『そうですよー でも小さいから有りなのかな?』
『フフ サキさんは衣装を変えれますか?』
『・・・♪』
サキさんは首をコテンと傾げている、とっても可愛いが衣装は変えられないらしい。
『・・・無理みたいですわね』
『まあ、良いじゃありませんか♪』
『そういうことにしておくか・・・』
『もう、クオン喜んじゃってー 』
『ご 誤解過ぎるぞ?』
『あはは♪』×全員
俺達はこれで全員小さな友達が出来た事に喜びあった。
特にライカはずっと皆を羨ましがっていたから嬉しそうだ♪
小さな友達達も、それぞれ会話をしているように鳴き合い楽しそうにしている。
楽しみながらも先に進んで行くと、いよいよ地下70階のボスの気配を感じ取った。
『いよいよか・・・ロック、オーラ今度は俺達3人で行こうか?』
『はい』
『おう』
『もう既に様子を見る様な余裕はない、最初から全力で行こうと思う』
『開幕から弱点属性のシンクロ魔法を放つぞ』
『『了解』』
『ミュウ達は俺達のサポートをしてくれ』
『『『了解』』』
俺達が戦闘態勢に入ると、まるで闇の中から現れる様に巨大がヘビが姿を現した。
【ウロボロス】
余りにも有名な、その名前に俺も身構えてしまう。
『氷属性だ<フリーズ>で行くぞ!』
『『おう』』
ウロボロスが出現して数秒も経っていないだろう、俺達3人はシンクロ魔法を発動する。
『『『<フリーズ>!!!!!!!!』』』
頭の中で≪神の声≫が響く。
【条件を満たしました。≪シンクロ魔法≫が発動します!!!】
突然3人の左手の紋章が浮かび上がり輝き出す!!!
次の瞬間3人から放たれた<フリーズ>により、辺りの空間が静止した。
俺達以外動くものが存在しない氷の世界がそこにあった。
対象となるウロボロスだけではなく、そこにある全てが凍り付いていた。
しばらくその幻想的な光景を眺めていると、凍り付いた世界は音を立てて砕け散りウロボロスは光の粒子となって消えていった。
シンクロ魔法は、かなりの魔力を消費するのは分かっていたが、ミュウ達がふらついていたのも納得だ。
膨大な魔力を持つ俺達でも、急激に魔力を消費すると辛い物がある。
だが、この強大なウロボロスが一瞬で凍り付く絶大な威力は筆舌に尽くし難い。
今度はミュウ達が俺達を支えてくれて、少し照れてしまう。
【条件が満たされました!召喚魔法<サモン>に「ウロボロス」が登録されました!】
【これから召喚魔法<サモン>により「ウロボロス」を召喚可能になりました!】
新たにウロボロスも召喚出来るようになり、俺達はハイタッチして喜びを分かち合った。
『んふふ やっぱりクオンでもキツかった?』
『ああ 体験しておいて良かったよ』
『ありがとうムーア』
『ニャハハ お返しですニャー♪』
『悪いなライカ』
『フフ どういたしまして♪』
『でも凄い威力ねシンクロ魔法は、あんな凶悪そうな魔物が一瞬なんだもの』
『それだけに扱いが難しいけどな』
『さあ、お楽しみといこうか?』
『もちろん♪』×全員
俺達は光の粒子となって消えて行ったウロボロスの跡に、輝く黄白金宝箱を見つけた。
『おお~~~♪』×全員
『今度は黄白金宝箱か、こりゃ期待も高まるな♪』
『ニャハハ 罠は無いみたいニャ、開けてみるニャー♪』
宝箱はムーアの仕事なので、俺達は後ろから宝箱の中身を確認する。
すると中にはポーションの様な物が6本入っているだけだった。
しかし、今までに見た事も無いような蛍光色に光るポーションだった。
俺は恐る恐る<鑑定>してみることにした。
【アンサー エーテル:超越者へ至る奇跡の雫】
『・・・・・・・・・』×全員
『いよいよ 人間を辞めるニャ?』
『こ 怖い事言わないでよムーア?』
『それにしても、これはワシでも身構えるな』
『超越者って何でしょうね?』
『フフ 言葉通りにとっても良いのではないですか?』
『俺もライカの言う通りだと思うな・・・』
『とりあえずは保留だな?』
『賛成』×全員
そして俺達は、いよいよ最終エリアである地下71階に辿り着いた。
そこは広大な鍾乳洞の様なフィールドで、一切の光がない暗闇だった。
俺達は光属性魔法を持っているので視界は問題ないが、それでも此処を進むのは勇気が要りそうだ。
『うわ~ 光を当てると薄紫色に見えるわ♪なかなか幻想的な光景ね?』
『ああ 闇に閉ざされているのは勿体ないな』
『ニャハハ 声が響いて面白いニャ♪』
『うわーうわー ここも何か鉱石がありそうですね♪』
『フハハ ロックはブレなくて良いな♪』
『フフ 世界には、こんな美しい光景もあるのですね♪』
『上級ダンジョンの地下71階まで来ないと、見れない光景だからな貴重と言えばそうなるな♪』
『早く早く行きましょうリーダー♪』
『お おい、慌てるなってロック♪』
俺達はロックに急かされながら広大な鍾乳洞の探検を開始した。
闇に閉ざされていた空間なのに、当然の様に魔物が襲ってくる。
大白入道と言うトカゲの様な魔物が次々と現れるので薙ぎ倒しながら進む。
武器から伝わって来る手応えが、この魔物の強さを感じさせる。
アダマンタイト製の武器が無ければ、苦戦したのは間違いないだろう。
流石は上級ダンジョンの深層域だけあり、俺達も手加減スキルを忘れてしまいそうになる。
それからも紫のコウモリや、無色透明なスライムを発見していく。
名前はパープルバットとクリアスライムと言うらしい。
特にクリアスライムは光を当てても完全な透明であるため、肉眼では発見が非常に難しい。
俺達は日頃から<気配感知>の訓練をしているので、危険と言う訳ではなかったが初見殺しなのは間違い無いだろう。
だが面白いのは、このクリアスライムがドロップする炭酸ボールは液体に入れると高炭酸水になるようだ。
これがあれば炭酸飲料が作れると思い、俺は1人でニヤニヤしてしまった。
『・・・・・・・』×全員
『な なんで皆そんな目で見るんだ?』
『そんなにニヤニヤされたら、また悪い事考えてると思うのが当たり前でしょ?』
『誤解過ぎるぞ?俺は悪い事なんて考えてないからな?』
『ホントかニャー?』
『こらこらムーア信じろって、信じてたら帰ってからきっと良い事があるぞ?』
『フフ 少なくとも何か良い事を考え付いたと言う事ですね♪』
『まっ 帰ってからのお楽しみだ♪』
『フハハ 今聞いても無駄だろう?』
『僕は大人しく楽しみにしてます♪』
『ロックは良い子だな~♪』
『そんな良いか足したら私が悪い子みたいでしょー 』
『あはは ミュウも楽しみにしてろ旨い飲み物作ってやるからさ♪』
『もう、分かったわよー 』
もちろん皆に協力して貰ってクリアスライムを根絶やしにする勢いで狩りまくったのは言うまでもない♪
魔物も問題なく倒せるとはいえ、強敵なのは間違いなく安全のためにも休憩をしながら歩を進めて行った。
俺達にしては時間が掛かったとはいえ、様々なドロップアイテムや素材を回収しながら地下80階へ辿り着いた。
地下80階は大空洞になっており、間違いなくボスが居る気配が伝わって来る。
この勢いのままボス戦へと行きたいところだが、念のためにも長い休憩を取ることにした。
『クオンの事だから、このままボス戦かと思ったわ?』
『言っとくけど俺は慎重派なんだぞ?』
『んふふ 分かってるわ♪強すぎて分かり難いけどね?』
『フハハ 慎重なのもクオンの強さだろう?』
『僕は勘の良さが大きいと思いますね』
『ニャハハ クオンの勘の良さは異常ニャ♪』
『あれは、もはや予知と言っても良いかも知れませんね』
『説明が付かない事も全部、勘の良さで片付けちゃうからね?』
『・・・褒めてるんだよな?』
『もちろん♪』×全員
『どうだか♪』
『それよりも最悪を想定した作戦を考えたから聞いてくれ』
『ゴクッ・・・』×全員
『クオンそれほどなの?』
『ああ 間違いなく俺達が戦った中では最強だと思う』
『だが、あの時のドラゴンまでの強さは感じない』
『かと言っても余力を残す事はできないだろうな・・・』
『最後のボス戦は俺達の友達にも参加して貰おうか』
『キュキュキューーーー』
『クークククーー』
『ムーームーー』
『ミーミミミー』
『コンコンッ♪』
『・・・♪』
『あはは 皆やる気になってくれて嬉しいよ♪』
俺はどうやったら効率的に俺達の全力を出せるのか皆と相談し、後悔する事が無いよう話を詰めていった。
当然ながら最低でもダンジョンワープが出来る魔力は残しておくつもりだが、ボス戦は何があるのか分からない。
ダンジョンワープが使えない事も想定して作戦を組み上げていった。
皆で心行くまで相談するのも悪くない、俺達にしてはかなり時間を掛けて真剣に楽しみながら作戦を立て終わった。
これでもしも駄目なら、仕方ないと思えるまでに。
だが、俺達は最後の最後まで諦めない事を誓い、最後の戦いに挑み立った。
もはや皆に緊張や油断も無く、全力を出す、その一点に心を統一できた。
大空洞のなか歩を進めると、行き成り現れるまでもないのか巨大な猛獣の姿を視界に捕えた。
その猛獣は猛る事もなく、ただ静かに佇んでいるだけだが、その圧倒的な存在感は目を瞑っていても感じられるのは明らかだった。
有り得ないぐらいに盛り上がった筋肉に、高密度の魔力を纏った紫の体毛が重く美しい。
【ベヒーモス】
凶悪な角、鋭くとがった牙、雄々しい毛並み、巨大な爪、どれをとっても猛獣ベヒーモスの名に恥じる事の無い姿容姿だった。
俺達に勝てるのか?誰もがそう思っただろう、しかし、それを口に出す者は無く今から始まる戦闘に全力を出す。
その想いだけを胸に秘め、微笑みを浮かべながら戦闘に入った。
先ずは小手調べのつもりだったのだろうか、ベヒーモスは巨大な角を俺達へ向け突進してきた。
は 速い、俺達でも回避が難しい凄まじいスピードでベヒーモスが迫りくる。
『オーラ、俺とロックが付く3人で止めるぞ』
『おう』
『はい』
俺達最強の盾であるオーラの後ろに俺とロックが付き守りを固める。
女性陣は空を身を投げ俺達のサポートに回ってくれた。
カー坊の<神秘の光>とオーラの<ファントムシールド>に俺とロックが加わり万全の状態で迎え撃った。
『ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』
『『『ぐはっ 』』』
『クオンッ』
『ロックッ』
『オーラッ』
エンペラーイーグルさえも止めたオーラの<ファントムシールド>に俺とロックが加わったにも関わらず、俺達は簡単に弾き飛ばされ何度も地面にバウンドした。
な なんて突進だ・・・オーラの青幻の盾は無事みたいだけど、俺達3人掛かりでもベヒーモスの突進には耐えられないようだ。
俺達のライトシールドも叩き割られ、結構なダメージを食らってしまったがミュウ達が直ぐに<ハイエストヒール>で回復してくれた。
『GUGOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!』
ベヒーモスは己の力を誇示するように大空洞全体が震えるほどの、凄まじい咆哮を上げている。
『ぐぅ・・・やっぱり普通の戦闘では歯が立たないか』
『くっ すまん皆、ワシでは止められんようだ』
『いてて 物理的な力では、敵わないみたいですね』
『仕方ない・・・皆覚悟を決めようか』
『クオン、作戦通りやるのね?』
『ああ 今度は俺達の力を見せてやろう』
『おう、次はワシらの番だ』
『目にもの見せてやるニャー 』
『僕も全力で行きますよー 』
『フフ 魔族の血が騒ぎますわ♪』
『よくもクオン達をやってくれたわね、絶対に許さないんだから』
『どうやらベヒーモスは雷属性の膜を体表に纏って、あのバカげた攻撃力を発揮しているようだ』
『作戦の実行は土属性でいこうか、色々と対策はしたがそれでも厳しいと思う、皆頑張ってくれ』
『了解』×全員
俺達は練りに練った作戦を実行することにした。
正直これは、もしもの時のために考えていた作戦だが俺達は少し上級ダンジョンのラスボスを未だ舐めていた様だ。
俺達6人と6匹の全力攻撃を受けて見ろ、ベヒーモス!