第15話 クローク・ロック
俺達は依頼を受けた後、アラバスの町から徒歩1時間ほど掛かる山にあるという、黒鉄が採取できる洞窟を目指していた。
『クオン君、あれじゃないかな?』
そこは木々が少なくゴツゴツとした岩だらけの山だった。
『うん見つけた、遠くにあの小柄の男性がツルハシを持って走っていくのが見えた』
『あ~ ほんとだ、あの子だね』
『急ごうか』
◇ ◇ ◇
僕は鍛冶屋の親方に弟子にして貰えるよう誠心誠意、頼み込んだ。僕の人生で1番必死だったかもしれない、僕にはもう後がない、努力は自分でも限界までしてきたつもりだ、寝る間も惜しみ調べ練習し考えた。
しかし、どうしても、どうしても、分からない。どうしたら良いのか?僕は途方に暮れ最後の望みで鍛冶屋の親方に縋った。その努力も実って、ようやく親方の許可が取れそうだ、なんとしても黒鉄を手に入れて帰る。
しかし、僕は必死さの余り魔物の事を忘れていた、でも帰る訳にはいかない、帰ったとしても護衛を雇うようなお金もない。
幸いこの洞窟は昔父さんと何度か来た、魔物にさえ注意すれば大丈夫だ、僕は慎重に探索し微かな記憶を頼りに黒鉄を探す。
この通りに見覚えがある、やった確かに此処だ、この先で採掘したはずだ、喜んだ矢先ヤミコウモリが飛び回っているのを発見する。
ヤミコウモリはコウモリと呼ぶには余りにも大きく獰猛で、しかも一度咬まれると血を吸われながら死ぬまで放してくれない厄介な魔物だ。
僕の武器と呼べるものは安物のツルハシと腕力ぐらいだ。
そう僕はドワーフだ、永年の練習でハンマーを振るっていたお陰で腕力はある。
だが、恐怖で足が震える。咬まれたら終わりだ。僕にはおそらく剥がせない、自然と涙がでる、でも、でも、震える足を抑え僕は必死になって走るが、やはりヤミコウモリが襲ってきた。
僕はツルハシを振りかざし迎撃しながら走る、奥に狭くなっている通路が見えた、よしあそこまで行ければ助かる。
一縷の希望が見え、通路に差し掛かるところ右足に激痛が走る。咬まれた!僕は痛みを堪え通路に飛び込む。
ぐぅぅ 狭くなっているとはいえ、それでもヤミコウモリが襲ってくる。僕は上段に構えたツルハシを渾身の力を振り絞り振り下ろす。
「ギギッ」っと言う悲鳴が上がった。運よく胴体へ命中し1体を倒したところ、他のヤミコウモリ達が逃げてくれた、すかさず右足に咬みついているヤミコウモリ目掛けてツルハシを振り下ろす。胴体へ刺さり倒したが、まだ剥がせない、ツルハシを放し両手でヤミコウモリの口を抉じ開けて、ようやく放してくれた。
ふぅーふぅー 僕は血を吸われたせいか朦朧とする頭を振り払いながら先を急ぐ。
見つけた、確かに此処だ、僕はようやく採掘場所に着きツルハシを振るう、見えている場所は粗方取り尽くされており、深く深く掘り進める。
カツーン、カツーンと洞窟内にツルハシの音が反響する。
数十回にも及ぶ採掘の結果ようやく黒鉄らしき塊を発見する、やった、これだ僕は喜び勇んでツルハシに力を込める。
黒い鉱物はようやく岩壁から剥がれ落ち下へ転がる。しかし必死になりすぎて回りを見ていなかった。
しまった・・・振り返ると、いつのまにか10匹ぐらいの魔犬に囲まれていた・・・・・
僕は僕は此処で死ぬのか・・・・ツルハシを持っているためか魔犬はすぐには襲ってこなかった。
「グルル グルル」魔犬の唸り声が耳に残る。しかし死ぬわけにはいかない父さんとの約束を守るためにも生きないと、なんとしても生き残ってやる。
僕は覚悟を決めて絶望的な状況の中、迫りくる魔犬相手にガムシャラになってツルハシを横殴りに振る、何匹かに当たり吹き飛ばすが逃げてはくれない。どれぐらいの時間が立ったのか、もう腕が動かない。
右足が痛い、滝のように汗を掻き、体がふらつく。
満身創痍の中、魔犬が一斉に飛び掛かってくるのをスローモーションのように見ていた。恐怖のためか悔しさのためか、分からないが涙が頬を伝う。父さん とうさん ごめん・・・・・
バチィーンと凄まじい衝撃音が洞窟内に響き渡る。
『ギャン』
『ふぅ~どうやら間に合ったわね』
少年に今にも襲い掛からんとした魔犬がミュウのムチで弾け飛ぶ、俺は少年の前に立ち魔犬に向かい合う。
『ああ、ギリギリだった』
薄れゆく意識の中、僕をあれだけ苦しめた魔犬が切り裂かれ、炎に包まれ蹂躙されていく様を眺めていた。
う うぅん ぼ 僕は気を失っていたのか・・・目を覚ますとそこには同じぐらいの年の男女が座っていた。
『僕を助けてくれたんですか?』
『ああ、危ないところだったね』
気が付けば足が痛くない!無数にあった擦り傷も消えている、夢じゃない服はボロボロに破けている。
『治療も、してくれたんですか?』
『ああ、それはミュウがね』
『んふふ <ハイヒール>しといたよ、どお?もう痛いところないかな?』
『ありがとうございます、助かりました』
『あっ 黒鉄、黒鉄は』
『ああ、これかい?持ってきたよ』
『ありがとうございます、ありがとう』
少年は泣きながら必死にお礼を言ってくれる。
『よっぽど大事な物だったみたいだね』
『良かったらどうして、あんな無茶したのか教えてくれるかい?』
『僕はどうしても鍛冶屋の親方に弟子入りしたくて、それの条件だったんです』
『どうしてそこまで?命を懸けてまでかい?』
『話せば長くなりますが、僕には世界一とまで言われた鍛冶師の父さんが居たんです、2年前に僕を魔物から守るために亡くなりましたが』
『僕は小さい頃から父さんが好きで憧れてました、大きくなれば父さんのような立派な鍛冶師になるのが夢でした、そのため必死に練習しました、しかし僕には才能がなく、どんなに練習しても、どんなに父さんに教えて貰っても、一向に上達しませんでした』
『でも僕は諦めきれませんでした、どんなに才能がなくても、いつかきっと父さんのようになるんだと』
『そして2年前父さんと採掘のための旅の途中、父さんに禁止されていた危険区域に僕が鉱物を取りに行ってしまい魔物に襲われました、その時、僕を守るため父さんが命を落としました。どうしても、いつも迷惑を掛けている父さんに鉱物を渡したかったのです。』
『父さんは死の間際、僕を怒るどころか、お前にはすごい才能がある!いつかきっと父さん以上の鍛冶師になれる今は封印されているが、いつかきっと成れると言ってくれました』
『しかし無理に鍛冶師に父さんのように成らないでも良い、辛くなればやめても良いと言ってくれました』
『死の間際まで、僕の事を思ってくれました』
『僕はその時誓ったんです!例え命を懸けてでも、父さんのような鍛冶師になると』
『どんなに辛くとも』
『しかし、この2年間、僕は必死になって練習しました、調べ、学び、鍛えました、でもどんなに、どんなに頑張っても上達しませんでした』
『もう自分一人ではどうにも出来なくなり、鍛冶屋の親方に弟子入りする事しかなかったんです』
『そうか、ごめんな辛いこと話さして』
『俺はクオンって言うんだ、そう呼んでくれ』
『私はシャーリー・ミュウよミュウって呼んでね』
『はい、僕はクローク・ロックですロックって呼ばれてます』
『本当に助けてくれて、ありがとうございました』
『んふふ ねえロック君、君のお父さんが言ってた、いつか才能が開くってのは本当よ』
『ああ、俺も保証するよ』
『ありがとうございます、僕頑張ります』
『じゃ鍛冶屋まで送っていくよ』
『いえ、そこまでして頂いたら、ご迷惑なので』
『んふふ 遠慮しないの行くわよ』
俺達はのんびりと歩きながらロックと色々な話をし、アラバスの町へ戻り鍛冶屋に向かう。
ロックは親方に黒鉄を渡し、念願の弟子入りを願う。
『おう、坊主おめー死んで弟子入り出来ると思ってるのか?』
『死んでたら、そこで終わりって思わねえのか?』
『次も死にかけたら運よく誰かが助けてくれるのか?』
『答えやがれ』
『親方の言ってることは分かります僕が間違ってました』
『2年前に父さんに教えて貰ったのに僕は僕は』
『焦る気持ちも分かる、だが死んだら終わりだ、おめーが成し遂げたい事も出来ない』
『生きてさえいれば、いつかどんな夢も叶う、なにが一番大事なのか分かったか?』
『命も大事に出来ない奴は内ではいらねえ、さっさとどっか行きやがれ』
『親方、す すみませんでした失礼します』
ロックは泣きながら鍛冶屋を出ていく。
『おう、冒険者のお前達、すまなかったな』
『いえいえ、ちゃんと報酬も貰いますし』
『しかし、ちょっと厳しかったんじゃないですか?』
『あの坊主は必死になりすぎて前が見えてねえ、ちょっと頭冷やさないといけねえのよ』
『そこでだ』
親方がニヤニヤしながら、こちらを見る。
『俺達に、その冷却期間になれと?』
『ガハハ 感が良いじゃねーか、その通りよ、あいつに世界の広さを教えてやっちゃくれねーか?』
『なにも損ばかりじゃねえ、あの坊主は天才だ、いつかきっと化ける』
『なにせ世界一とまで言われた俺の師匠の子供だからな』
『あんな也だが、すげー腕力してる、ちっと戦闘も覚えさしゃー 十分戦力にもなると思うぜ』
『実はな、おめー達に渡す報酬にも、あの坊主が入ってるのよ』
『んふふ ちょっと貰いすぎかもね』
『しかし、本人が望まないとな・・・親方もうちょっと背中押してやってくれないか?』
『ほほう、あの坊主の価値が本当に分かるってのか?ガハハ こりゃー意外だ、おめー達何者だ?』
『あはは じゃ手紙書いてくれるかな?』
『ガハハ ちょっと待ってな』
親方は店の奥へ行き、しばらく経ってから俺達に手紙を渡す。
『じゃ頼んだぜ、お前達』
『任されたわ んふふ』
店を出てミュウと話しをする。
『ミュウ、ちょっと良いかな?』
『んっ なーに?』
『もう言わなくても分かると思うけど』
『うん、私は良いわよ気に入ったしね』
『あはは 流石だね、じゃ行こうか、出来たら人目に付かないところが良いね』
『んふふ めっちゃ光るもんね』
『ほんと、ミュウ話が早いね』




