第12話 ふたり旅
『ねーねー ブラッククロウラーの触覚と体液は、おそらくベクターさんのお礼だと思うんだけど、皮はどうするの?』
『す 鋭いね、ちょっと作りたいものがあってね、その材料にしようかと思って』
『ふーん、それで鍛冶屋さんに行くのかな?』
『お見込みの通り・・・帰ってからゆっくり話そうと思ってたんだけど、<陽だまり亭>のラウラさんに隣町への行き方聞かないと予定が組めないから』
『なるほどね、ま~ クオン君のことだから、これから必要になるような物なんでしょ?』
『うん絶対に必要になるよ』
『やっぱりね~ んふふ』
『なんで分かるの?怖いよミュウさん・・・』
『あはは 感よ、か~ん』
『ところで、さっきのベクターさんへのお礼なんだけど渡して良いかな?』
『うん良いよ、私もお世話になったしね、んふふ クオン君のことだから共同で狩った獲物だから、私に了解を取らないとスジが通らないとか思ってたんでしょ?』
『えっ それは、そうだけど』
『良いのよ事後報告でも、クオン君は、このパーティのリーダーなんだから、ま~ まだ二人だけどね』
『いつ決まったのかな?俺がリーダーって?』
『今で~す、あはは』
『も~ 勝てないなミュウさんには』
『そ・れ・と、そろそろ「さん」付けやめない?』
『ミュウって呼んで』
『いやいや流石に呼び捨ては気まずいよ』
『私、友達が居なかったから、気安く名前呼んでくれる友達が欲しかったんだよね~ でも、誰でもって訳じゃないのよクオン君にはミュウって呼んで欲しいと思ったの』
『じゃ交換条件だ』
『んっ なになに?』
『俺の呼び方はクオンね』
『ええ~ そ それは、ちょっと照れるわ~ 無理よ、む~り』
『だ~め、しかもミュウさんが言い出したんだからミュウさんからスタートね』
『ず ズルいわ、それは・・・も~ 照れるでしょ~』
『も~ 良いわ言質取ったんだから守りなさいよね』
『スーハー、スーハー、よしっ』
『クオン帰ろ~』
ミュウさんは俺の手を取って走り出す。
『あ~ なんか誤魔化されたような・・・・』
『えへへ でも約束よ』
『よーし覚悟を決めるか』
『行こうミュウ』
俺はミュウの手を取り、更に早く走る。
『も~ 同じような誤魔化し方じゃない』
『あはは お互い様でしょ?』
『んふふ そーね、まっ良いか』
俺達は<陽だまり亭>へ到着し、ラウラさんを探す。
『居た居た、ラウラさん、ただいま』
『お~ クオンにミュウおかえり』
『ラウラさん鍛冶屋のある隣町への行き方わかりますか?』
『あん? アラバスの町かい?』
『鍛冶屋があるなら、たぶんそうです』
『確か乗合馬車が出てるはずよ、ギルドで聞いて見な、あっ それと荷物届いてたから部屋に入れといたよ』
『なるほど、ありがとう』
俺達は、そのまま夕食を取りミュウと部屋に戻る。
『さて明日なんだけど、さっきも話をしてたとおり早めに作りたいんだよ、朝からアラバスへの乗合馬車聞いて付いてきて貰って良いかな?』
『良いとも~』
ミュウって実は、日本人?かも・・・いや言葉ぐらい、どこでも被るか。
『後はベクターさんとこへお礼持って行って、武器屋でメンテナンスもして貰って良いかな?』
『んふふ 良いとも~』
『・・・・・・ミュウさ、ミュウは、どっか行きたいとこないの?』
『んふふ きゃー きゃー んふふ』
『ミュウは両手を口に当てて、きゃーきゃー言いながら部屋をウロウロしてる、む~ 照れる』
『ごめんごめん私は、保存食と着替えを買いに行きたいわ、馬車なら野宿はないと思うけど、食事は用意しとかないとね』
『あ~ なるほど流石だね』
それから、いつものように戦闘連携のこと、魔法のことと、色々な話をしていった。特に音速を超えるムチのことは図解解説して細かく伝えた、後はヒールの為に人体の構造を知っていた方が、よりイメージしやすいと思って伝えた。
『ふむふむ、しかし何故そんなに詳しいの?教会でも分からないようなこと言ってると思うんだけど』
『うん、そう思うよね、だからこれは誰にでも言えることじゃないんだよ現時点ではミュウだけ』
『しかし不思議な人ね、さっき言ってた人体の構造って本当の事なの?』
『うん信じられないかも知れないけど、ちゃんと理解してイメージを固めてから<ヒール>を使ったら、きっと効果に違いが出ると思う。傷を治すと言うより元に戻すって感じで。元ってのがわからないとイメージ出来ないでしょ?』
『外側ならともかく人体の内側なんて分からないわよ』
『俺の住んでたところでは「医学」って言うんだよ、魔法がなかったから違った方法で治すしかなかったんだ、でも魔法効果の方が、ずっと凄いよ』
『ふ~ん、うん分かった不思議だけど覚えるわ』
それからも色んな話をし眠くなってきたので、それぞれの部屋へ戻り眠りについた。
『う~ん、よく寝たわ、やだ私、昨日の服のまま寝ちゃった、まっ良いか<クリーン>したしね』
『じゃクオン君じゃなかった、クオン起こしに・・・・・クオン・・・きゃーきゃー』
『う~ん照れるわ、起こすときどうしよ・・・・・サラっと言ったら自然に言えるかな?』
『コンッコンッ ミュー起きてるー?』
『は はい起きてます』
おもわず敬語になっちゃった。ナイスタイミングよクオン君。
『ちょっと待って直ぐ行くわ』
『お待たせ、じゃ行こっか』
『じゃ、まずギルドからだね』
俺達はギルドへ到着後、カリーナさんにアラバスの町への乗合馬車が何時頃出るのか聞いてみた。
『それなら明日の朝出るわよ、夜には着くと思うわ。そ・れ・と!はいっ異常種の素材の代金よ』
『聞いて、びっくりしたわ、あれはEランクの魔物よ!無茶ばっかりして~』
『どうもありがとうございます。あはは ミュウとギリギリで勝てました』
『あっ バ バカ』
『へええええええええ、ミュウ? うふふ うふふふふ』
『も~ 良いでしょパーティメンバーなんだから』
『さっ 行くわよ!』
ミュウは逃げるように俺の手を取り、ギルドを後にする。
『次は武器屋にする?ベクターさんとこ?』
『ベクターさんとこ行ってお礼渡してから武器屋に行こっか』
俺達はベクターさんに昨日のお礼を言い、ブラッククロウラーの触覚と体液を渡す。
『おやおや、逆に気を使わせちゃったね~ またおいで~』
『はい、またお願いします』
『じゃ、次は武器屋さんで!ミュウのムチとか武器屋さんで売ってるのかな?』
『うん、たま~にだけどね、ムチを使う人は少ないみたい』
『そういやミュウ、弓スキルも持ってたよね?弓使わないの?』
『・・・・・・・・・・・』
『んっ』
『や 矢が買えなかったのよ・・・』
『・・・・・・えっと、じ 地雷だった?』
『んふふ 踏んだわ、ドッカーンんよ!』
俺は、後ろからチョークスリーパーを食らう、む 胸が。
『待って待って、ギブギブ』
『丁度良いじゃない、良い弓があったら購入しようよ』
『も~ すぐ誤魔化すんだから』
そうこうするうちに武器屋に着く。
『すみません武器のメンテナンスお願いします』
『あいよー 見してみな』
『ふむ、相当硬い物斬ったな・・・少し待ってな』
『はい、お願いします』
俺達は刀のメンテナンスを待つ間に弓を物色しているが、なかなか良いのがないみたいだ。
『まー ないなら仕方ないよね、ムチも見た限りなさそうだね』
『そうねムチは、もともと少ないのよね、これも手作りだし』
『えっ そうなんだ器用だねー』
『ん~ 売り出しも少ないし、お金もなかったしね「バイコーン」っていう魔物の皮で作ったんだよ』
『ふむふむ、知らない魔物だ』
ミュウのムチを見ると先に行くほど細くなっており先端がヘビの頭のようになっている、また、先のほうに繋ぎ目がある、何のためにしてあるんだろ?
『ムチの先端って外せるようになってるのかな?』
『そーよ先端って、傷むのが早いから交換できるようにしてあるのよ』
『なるほど』
『ほら出来たぜ』
『ありがとうございます』
俺は刀2本分の研ぎ代に銀貨1枚を渡し店を出る。
『よし俺の用事は終わったから、次は服屋と保存食だね』
『ん~っと、此処からなら服屋のほうが近いわね』
『じゃ、そっちから行こっか』
服屋に着いてから、もうかなり時間が経過しているが、まだミュウが出てこない。
やはり女性の服選びは時間が掛かるのか噂どおりだ。
『お待たせ~ 次はパン屋さんね』
次々とお店を回り、固焼きパン・香辛料・塩・手ごろな大きさの鍋とフライパン・干し肉を買い集める。
『んふふ たまには、こういう買い物も楽しいわ』
『同感だ、これで大体揃ったかな』
『うん、でもお昼もかなりすぎちゃったね』
『う~ん夕飯まで、戦闘訓練か錬金術、魔法書探しで時間潰そうか?』
『戦闘訓練は外に行かなくちゃだし、魔法書探しましょうか?道具屋かな?』
『魔法屋とか、あったら良いのにね、よし行ってみようか』
すぐ近くに道具屋があり物色したが、やはり魔法関連の本はなかった。
『う~ん仕方ないね、帰って明日の用意と錬金術やろっか』
『そうね荷物も重いし、早めに帰りましょうか』
俺達は早めに帰り、ラウラさんに明日からアラバスの町へ向かうことを告げ、いつものように時間を過ごし朝を迎える。
『ん~ 今日も良い天気だ!さ~ 今日からプチ旅行だな楽しみだ』
『コンッコンッ クオン起きてる~?』
ドキドキ い 言えたわ!どれだけ練習したか・・・やっぱり私もちゃんと呼ばないと不公平だもんね、うん、私頑張ったわ。
『は~い、すぐ行くよ』
俺達は朝食を取り、いつものようにお弁当を貰ってギルドへ向かう。
すると既にギルドの入口近くに馬車が止まっていたので聞いてみることにする。
『すみません、この乗合馬車アラバス行きですか?』
『ああそうだよ乗ってくかい?』
『はい、二人お願いします』
俺達は道中の簡単な説明を受け、荷物を馬車の中へ運び入れる。
『んふふ なんかワクワクするわ♪』
『あはは うんワクワクするね~』
『でも、さっき言ってたけど、やっぱり盗賊も居るのね、対人戦闘の連携も考えておいて良かったね』
『うん、もし盗賊に襲われたら油断なく決めた通りやろうか』
『お~い、クオン君』
『あっ ベクターさん、どうしたんですか?』
錬金術屋のベクターさんに声を掛けられる。
『これを渡そうと思ってね~』
ベクターさんは麻袋を俺に渡す。
『これは?』
『あはは 餞別だよ~ きっと役に立つから持ってて~』
『色々とお世話になった上に餞別まで貰っちゃ悪いですよ』
『良いよ~ 持ってって~』
『『ありがとうございます』』
俺とミュウは、丁寧にお辞儀をしてお礼を言った。
『では行ってきますベクターさん、お土産買ってきますね~』
『あはは 気をつけて行っておいで~』