先生、行列の出来るラーメン屋に行って行列に並んできました。
とあるデータで、行列に並ぶ行為を嫌いな人は84%もいるらしいけど、
ならなんで皆行列に並ぶんだろうね。
不思議だね。 六月
――――――――――――――――――― eighth accident ――――――
珍しく外出ということもあり、お洒落をして家を出た。
イケメンというものを自覚したのは、中学生になってからだった。
周りからかっこいいとか、イケメーンとか言われてる内、
自分が他の男子よりも容姿が整っていることを知ったのだ。
容姿が優れていることは、損か得かと聞かれたら得だと言わざるを得ないが。
それなりにこの容姿のせいで、苦労をしてきたことも事実なので、何とも言えない。
デデニーランドの最寄り駅に到着し、改札を出ると早速、自分ではどうしようもない
苦労が待っていた。
六月「ふー、東条はもう着いてるのかな。それにしても人が凄いなこれ…」
まだ開園すらしていないというのにも関わらず、チケット売り場には長蛇の列が出来ていた。
構成的には、カップルっぽいのが4割、家族連れ3割、友人とが3割と言った感じか。
待ち合わせなのか、1人で待っている女の子とたまたま目が合う。
女の子は恥ずかしそうに、目を逸らすと前髪をいじり始める。
僕はその子とは少し離れた位置で、東条を待つことにした。
数分して待ち合わせの彼氏?かは謎だが、同い年くらいの男子と合流を果たした女の子。
何かしら会話をしている。
すると女の子の視線に気付いたのか、合流した男子がこちらに視線を向けた。
僕を見ると嫌そうな目をした後、
女の子の視線を遮る様に、僕と女の子の間に、
身体を入れた。
またか・・・・・・。
六月「(別に僕はその子に興味はないし、その子だって君のことが好きだと
思うよ。いや、知らないけど)」
僕は男だし、女の子の事情は分からないけど、
世間で言う、「美人」に分類される人間っていうのは、
羨望と嫉妬の両方の目を浴びて育ってきている。
好きでこの容姿になった訳でもないから、僕個人としてはどちらの目も、
うっとうしいだけなのだけれど・・・
六月「はあ・・・めんどくさいなあ全く」
「ごめんなさいね。めんどくさくて」
六月「ほんとだよ。何が悲しくてヘイト値を溜めないといけ、、って東条!」
東条「? ヘイト値っていうのはよく分からないけど、
待たせてしまったみたいね。
謝罪するわ。」
20分遅刻で到着した東条は、学生服の時とは印象がかなり違っていた。
白のワンピース姿でそこに立つ彼女は普段の傲慢姫ではなく、
まさにお姫様そのものといった佇まいだ。
東条「何を口を開けているの?さっさと入場列に並びましょう。」
六月「む、虫を捕まえようとしてたんだよ!口で!」
東条「気持ち悪いわよ?!」
素直に似合ってるなんて言えない性格なんでね。すいませんね。
入場列に並ぶと、都市伝説をふと思い出した。
「"デデニーランドでデートしたカップルは必ず別れる"」
クラスメイトたちがそんなことを話していたのだ。
僕はこの都市伝説を聞いたときに、いやいや大体のカップルは別れるだろうと
思ったものだが。今の現状ではそもそもカップルでもないので、
無問題だな。
しかしながら瑠衣ならともかく、女の子とデートなんてしたことがない僕は、
必死に頭を働かせていた。
六月「(並んでいる間は暇だし、なんか話題振らないといけないよなぁ。
一応だけどデートみたいなものだし、
男子側にはエスコートする義務が。)」
東条「なんか話題振らないといけないな。みたいな事を
考えてるんでしょう人無君。」
お見通しですか!
六月「エスパーですか。」
東条「別に気を遣わなくて良いわよ。」
六月「え?」
東条「そういうのって嫌いなの、
話題が無いならないでお互いに好きなことをしましょう」
こ、こいつは男子の味方か?!それか女男かどっちかだ!
そうこう話してる間に、僕たちの番が来た。
「ようこそ愛と希望に満ちたデデニーランドへ!」
マスコットキャラクターのミッチーが、入園者たちを待ち構えじゃなかった出迎えてくれた。
勿論声は、出ていないのだけれどね。
東条「ミ、ミッチーだ。。か、可愛い・・・。」
なんか目がキラキラしている。
手振りで何かを伝えようとしているミッチー氏。
なになに、地獄に堕ちろ?はは、とんだマスコットだぜ。
東条「人無君!一緒に写真を撮りましょうって!」
六月「写真かい!!」
自分にはジェスチャーゲームの適性がないことを知り、
落ち込みながらミッチーの方へと歩み寄る。
東条「なんでこっちに来るの。人無君が来ちゃったら誰が写真撮るのよ。」
あ、はい。すいません。
仕方なく、カメラマンにジョブチェンジを果たした。
六月「じゃあ撮るよー、3×2-5はー?」
東条「え、なにそれ。ちょっと待ちなさい。あ・・・いち!いちよ!」
パシャ
六月「正解。」
東条「正解。 じゃないわよ!普通もっと簡単な計算にするでしょう!
しかも正解も1じゃ駄目でしょう!」
六月「こっちの方が面白いかなって思ってさ」
写真を撮るときの定番は2だけど、1でも最終的に同じ口の形になるんだから良いじゃん。
マスコットキャラのミッチーとお別れを果たして、
次に向かう行先はというと入場口から、
最も離れた位置にあるアトラクションだった。
何故ならここデデニーランドには、
はじまりのパスと呼ばれる優先的に案内されるチケットがあり
それをいかに抑えるかによって、
1日をスムーズに楽しめるかが変わってくるからだ。
東条「ミッチー…行っちゃった。。」
名残惜しいのは分かるが、
ミッチーが消えた裏路地を覗こうとするのはやめてあげて、
着替えられないだろ!
東条「ところで人無君」
六月「ん?」
東条「どこに向かっているの?」
六月「一番離れにある、ワンダフォーマウンテンだけど」
東条「そんな離れた所まで行くのは、疲れるし近くから回っていきましょうよ。」
安易な!なんと安易な考え方なんだ!目の前の餌を追いかける馬じゃあるまいに
六月「東条、こういうのは最初が肝心なんだ。ルート選択が今後の戦況を
・・・って並んでるし!」
僕の話を聞かずに、メルヘンウィンドウの列に並んでいる東条と合流する。
というか随分、可愛いの選ぶんだな。
列の待ち時間を見た瞬間、僕は驚愕した。
〔只今の時刻 待ち時間 90分〕
行列の最後尾を案内するキャストが持つ、看板には確かに90という数字が
書かれていた。
六月「ね、ねえ東条。ここは混んでるから他の所に行こうよ。」
東条「どこも変わらないわよ。それに私はこれに乗りたいの。」
そんなこと言ったって、開園スタートダッシュの時間は限られている。
ここで90分使用してしまったら、有名どころのアトラクションには
ほとんど乗れなくなってしまうじゃないか。。。
けれど、この子を説得する方が骨が折れそうだ。
僕は諦めた。
日も暮れ始め、来園者がぽつぽつと帰り始めた頃
僕は瑠衣へのお土産を買うと言って、
お土産売り場に行った東条を待っていた。
東条「お待たせ。可愛いのが沢山あって迷っちゃった。
吉川さん喜んでくれるかしら。」
そう言いながら、ミッチーのキーホルダーを見せてくる。
六月「瑠衣なら、何でも喜ぶと思うよ。」
東条「何でもじゃ駄目よ。吉川さんがくれたチケットのお陰で、
私たちは来れたんだから感謝の気持ちを込めて、
選ばないと」
怒られました。
駅へ向かう帰り路
それまでお土産売り場を見て楽しそうにしていた東条が、
怒っているのか悲しんでいるのかどちらとも取れない顔で、
僕の方へ顔を向ける。
東条「人無君。今日は楽しかった?」
六月「?う、うん。でも全然アトラクション制覇出来なかったね。」
東条「やっぱり」
六月「ん?」
東条「私はね。人無君と一緒に回ることを楽しみたかったの、
でも人無君は、楽しみのベクトルが違かったよね?」
ベクトルって言われても、、
僕だって東条と楽しみたかったし、だからこそ色んな乗り物に乗れるように、
色々考えていた。
東条「人無君は、私と来たのに私が見えてないみたいだったよ。
・・・でも良かった。この気持ちを吉川さんに体験させずに済んで」
六月「ぼ、僕は僕なりに、東条と楽しく過ごそうと思って、それで・・・」
東条「人無君。君はもっと人の気持ちを分かるように」
六月「人の気持ちってなんだよ!自分じゃない人の気持ちなんて
分かるわけないじゃないか!」
東条「そういうことを言ってるんじゃないの。
誰だってその人の本当の気持ちは、分からないわ。」
六月「東条だって分からないって言ってるじゃないか。
気持ちとか心とか、
見えないものを分かるって言う方がおかしいよ!」
自然と声が大きくなってしまう。
形があるものを理解するのは、容易い。
それを他者と共感することも
東条「でも人無君の場合は、分かろうとしてない。
人無君は人を理解するのを怖がって・・・」
六月「そりゃあそうだよ!自分か他人かどちらか選べって言われたら、
誰だって自分って言うはずだよ。」
分かっている。今の僕は
六月「要するに人は誰しも自分が1番好きで大事だろ!?」
最低だ。