呼ばざる客
更新遅くなりました(-_-;)
ゼノアは本当に、ただ居るだけ。
声をかければ返事をしてくれるけど、何の為に人界に来たのかとか、まだ訊けていない。
分かっているのは、元・魔族の管理者で漆黒の魔王と呼ばれていて、勇者と知り合いらしいというだけ。
飲食の必要はなく、眠っている時間が多いのは、子供の姿故らしいという事だけ。
眠っていても、人間の攻撃は効かないと言っていた。
それが本当なのかどうかは分からないけど、ゼノアが周りを警戒している素振りはない。
何というか──自身の生死にすら関心を持っていないように見える。
ゼノアが蘇ったという事は、過去に死んだという事でもある。
勇者にも魔王にも負けないゼノアが、どうして死んだのだろう?
しかも、蘇るつもりがなかったようだし……
一体、何があったんだろう?
訊いても、それに対する返事が貰えない。
言いたくないんだろうと、その一度きりしか訊いていないけど……やっぱり気になる。
でも、当面の問題は、“勇者”達の仕事。
私達は勇者じゃないと、ゼノアは言った。
それを信じていない人達もいるだろうけど、それなら魔界に行って危険がある討伐をしなくて良いって事だ。
剣を振るう必要もないって事だ。
今まで討伐以外の仕事は出来なかったけど、これからは違うようになる……?
陛下が決める事だから、暫くは無理かも知れないけど、それなら私は、“勇者”でいたくない。
だって、命をかける意味がないと分かったんだから。
暫くすると蘇る魔王達を討伐したって、何になるのだろう?
それに対する恩恵は与えられない。
国から褒美が貰えるのだろうけど、“勇者”でもない私達が魔王を討伐なんて出来ないと、ゼノアは言い切った。
それなら、魔王の目前に立ったって、待っているのは“死”だけ。
そんなの、魔王に対峙する意味がない。
椅子に座ったまま眠るゼノアを眺める。
私は昼間にベッドを使わないし、そこで寝て良いって言ったけど、ゼノアは毎回、椅子に座って眠る。
警戒しているのかと思ったけど、どうやら座ったまま眠るのが好きらしい。
寝にくそうだと思い、ベッドに寝かせようと抱き上げたら、すぐに目を覚ましてしまう。
そして、私の腕の中から脱け出し、また椅子に戻る。
何度かそれを繰り返し、今では移動させようと思わなくなったけど。
見た目は、人間の子供にしか見えないゼノア。
その雰囲気や話し方は子供っぽくないけど、こうして椅子に座ったまま眠る様子は、うたた寝をしている子供にしか見えない。
そして、そんな“魔王”を見に来る人達が、窓の外に並んでいる。
“勇者”は勿論、一般の民達も。
魔王っぽくないゼノアへ、どんな対応をすれば良いか分からないのだろう。
だけど、現在勇者が暇しているのは、ゼノアが他の魔王を倒してしまったのもある。
元々討伐対象がいなければ、勇者は必要ない。
──現在存在する“勇者”が、本当の勇者ではないという話は別にして。
陛下も、考えあぐねているようだ。
勇者だった人達が、職に溢れるのは確実。
訓練漬けだった人もいる。
“勇者”以外、出来ない人達がいる。
だけど、勇者をしていた全員が、他の仕事に就ける程、急に出来る職業は多くない。
────
──
そんな、ある日。
起きている時も椅子から動く事があまりなかったゼノアが、椅子から飛び下りた。
「えっ!?何処へ行くの?」
そのまま外へ出ようとしているのが分かり、慌てて声をかける。
「境目。魔族が入って来たようだから、話を聞きにいく」
その言葉に、思わずキョトンとしてしまった。
「人界にいても、魔族の存在が分かるの?」
境目を越えてくる魔族の存在は、見張りによって見つける。
それなのに、境目から離れている此処にいても、魔族の存在が分かるなんて……
「人間と魔族では、気配が違う。俺じゃなくとも、魔王ならば誰でも分かるだろう」
魔王の特殊能力?
周りにいる魔族の気配をよむ事が出来るってレベルじゃないようだ。
こんな魔王達に、今まで戦いを挑んでいたなんて──
知らぬが仏。
「魔族達と、何を話すの?」
魔族は基本蘇るから、魔王に逆らわないと言っていた。
それに、境目まで一緒に歩いていた時、魔族はゼノアを見て逃げていた。
ゼノアが境目に向かえば、魔族達は逃げるんじゃないのかな?
話なんて出来るの?
「人界に来ないように」
だけど、ゼノアはその言葉を口にしただけで、家から出ていってしまう。
(ついていって良いかな?)
目の前の小さな背中を追いかける。
私がついてきていると分かったゼノアは、僅かに振り向いただけで何も言わなかった。
(これって、ついていって良いって事よね?)
勝手に判断して、ゼノアの後を追う。
境目の近くまで歩いて来たけど、途端に自分の状況を思い出した。
魔族がいると言っていたのに、私は剣を持ってきていない。
ゼノアは魔王だから攻撃される事はないだろうし、攻撃されても効かないと言っていたけど、私は違う。
攻撃されたら、防ぐ手立てがない。
(ど、どうしよう……)
剣を取りに帰ろうか迷っている間にも、ゼノアはスタスタと歩いていく。
……剣を持ってきたところで、私が魔族に勝てる確率は、限りなくゼロに近いけれど。
境目の近くに来て、その姿が目視出来た。
──魔族だ。
彼等は、ゼノアを見て固まっている。
人界に魔王がいるとは思わなかったんだろう。
側に人間の私がいる事なんて、目に入ってなさそうだ。
「何をしに人界へ来た?」
そんな彼等へ、声をかけたゼノア。
相手の様子なんて、お構い無しなんだろうか?
「愚かになったのは、人間だけではないと知ったが……お前達もか」
呆れた様子のゼノア。
だけど、この光景は視界の暴力だ。
だって、五才児が大人相手に呆れ顔を向けているのだから。
精神的な攻撃になりそう……
「……で、ですが、魔王様。人間は魔界に侵入し、何度も攻撃をしてきます!俺達は何もしていなかったのにです。こんな事、許せと仰るのですか!?」
魔族の言葉に、胸が痛くなる。
意味もなく攻撃されたら、怒るのは当然。
いくら蘇るとはいえ、それとこれとは別。
殺されるのは、誰だって嫌だろう。
「……だから魔界から出て、人界に来たのか?俺が何故、“魔界から出るな”と言っているのか分からないのか?……それすらも察せないようになったのか?」
(ゼノアは、何が言いたいんだろう?)
魔界から出ると、何か不具合があるって事?
でも、ゼノアは自分から人界に来たのに?
「……消滅したくなければ、直ぐ様魔界に戻れ。二度と人界に来るな」
彼の言葉の意味が分からないのは、私だけのようだ。
慌てた様子で、境目の奥へと消えていく魔族達。
あっという間に、誰もいなくなった。
用事は済んだとばかりに、境目を背にするゼノア。
「……ゼノアは、魔界に帰らないの?」
何故、ゼノアだけ人界に残るのだろう?
不思議で訊いてみる。
「そうだな。……俺も用事が終われば、魔界に戻るかもな」
(……それって、どっち?)
帰りたくないの?
用事があるから、帰れないの?
……というか──
「“用事”って?」
ゼノアはいつも、人界に来てからはのんびり過ごしていた。
眠っていたり、起きていても椅子の上から動かなかったり……
用事があるようには思えないのだけど。
「……人間には、関係のない事だ」
だけど、そんな言葉しか貰えなかった。
何でも話してくれるようにも思うのに、踏み込ませてくれない事も多々ある。
ゼノアは魔王で、私は人間なのだから、そういう事があってもおかしくはないのだろうけど……
……胸がキュウッ……と痛むのは何故だろう?




