魔王の実力
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境目は、城から離れている場所にある。
私は魔王を抱き上げたまま、城へと向かう事に。
相手は魔王なのに、魔王っぽくないからか、子供の姿だからか、随分警戒を取っ払っているのを自覚するけど、彼相手に警戒心は復活するだろうか?
今まで誰にも相手にされてこなかったし、会話も、女勇者という事で蔑まれて終わる事だってあった。
でも、この魔王は呆れた顔をしていても、きちんと聞いてくれる。
“会話”をしてくれる。
いつも独りだった私にとって、そんな存在は両親以来かも知れない。
……その両親も、今は亡くなっていない。
「人界へ来た事があるの?」
「過去、一度来た事がある。勇者が討伐した魔王を、二度と蘇らせない誓約の為に来ただけだ」
魔王の話は、知らない事ばかり。
魔王が人界に来たなら、記述が残っていても可笑しくないのに……何故、誰も知らないのだろう?
魔界の者が人界に来るようになったのは、ここ最近じゃないんだろうか?
私達は何故、何も知らさせていないのか……
陛下は知っているんだろうか?
────
──
城に着くと、あまり時間が経っていなかったからか、廃城の前まで一緒に行った面々がいた。
私を見て、驚愕の表情を浮かべる。
──そんな顔をされるのは、当然だろうけど。
私一人で、あそこから境目まで無事に行けるとは思えないし。
此処にいる誰もが、一人では出来ないだろう。
「……その魔族の子供らしき者は?」
陛下へ帰還した旨を報告しようとしたのに、その前に尋ねられた。
「……陛下、彼は──」
「俺は、魔王達の儀式によって蘇った魔王だ。当時は“漆黒の魔王”と呼ばれていた。現在は課せられる役割がないから、ゼノアと呼べ」
国王相手にも、様子が変わらない魔王。
……というか、名前がある事に驚いた。
だって、魔王って呼ばれていると思っていたし。
他にも魔王がいるなら、呼び方を変えているかも知れないとは思ったけど……
私の名前が“レニー”だという事は、城に来るまでの間に伝えたけど。
(漆黒の魔王……ゼノア)
どちらも聞いた事がない。
漆黒の魔王というのは、髪も瞳も黒く、着ている服も黒いから付けられたのだろうか?
「「魔王っ!?」」
周りが一気に臨戦態勢をとった。
魔王がすぐ近くにいるのだから、そうするのは可笑しくないのだろうけど……
「貴様、何故この場へと魔王を連れてきた?寝返ったか!」
陛下の言葉に愕然とする。
彼が捕らえられる心配をしている場合ではなかった。
謀反を起こしたと思われても、仕方のない行動だ。
──国王の前に、魔王を連れてきたのだから。
「違っ……!私は、そんなつもりじゃ──」
「黙れ!犯罪者め!!貴様ら、早く魔王諸とも殺せ!」
訂正しようと慌てて口にするものの、言葉を遮られ、沢山の剣を向けられた。
“勇者”達が、城にいる衛兵達が、私を含め、魔王──ゼノアへと殺意を見せる。
「愚鈍共め……話もまともに聞けないのか。貴様らの攻撃如き、俺に効く訳がないだろう?……レニーは死ぬだろうが」
呆れたように吐き出した言葉に、ギョッとしたのは私だけだろう。
このままでは、私は死ぬ。
魔界で死なずに済んだと思っていたのに……まさか、人界に戻って来てから殺される運命だなんて……
「……貴様らは、本当の勇者を知らないようだな。女神が力を与えた理由も、知る者は既にいないのか?」
(女神が力を与えた理由……?)
「魔王を討伐する為じゃないの?」
思わず声をかけてしまった。
でも、それ以外に理由なんて思い付かない。
「魔界には、複数の魔王がいる。わざわざ人間が討伐しなくとも、たった一人の魔王を消す事くらい、魔界で対処できる。……だが、他の魔王が何をしていようが興味がない為、対処が遅れる。人間達は、それにしびれを切らしたのだろう」
淡々と話す魔王を見ながら、魔王は皆、この様な感じなのかと考える。
「複数の魔王!?」
「その様な事、聞いた事もないぞ!」
ザワザワと戸惑いを隠せない言葉が、耳に届く。
やっぱり、私だけが知らなかった事ではなかったようだ。
「力の誇示をしたがった魔王を人間が討伐する為に、女神が加護を与えた。それが勇者だ。でも、魔王は死んだところで、暫くすれば蘇る。だから俺は、勇者と、当時の人間の王とで、蘇らせないように決めた。……だからもう、人間が魔界に来る必要はない筈だが?何もしていないのに“討伐する”と言われれば、誰だって怒るだろう。人間はいつからこんなにも愚かになった?」
「……っっ」
誰も知らなかった事なんだろう。
陛下ですら、驚愕の表情を浮かべている。
魔界から境目を越えて来るようになったのは、人間達が攻撃を止めないから?
私達が悪いの……?
「……まあ、魔王達も愚かになっていたがな。人間を一掃しようと儀式をして蘇らせたのが俺だからな」
(……?)
ゼノアの言葉に、首を傾げる。
だってゼノアは、複数いた魔王を全員殺したと言っていた。
人間の攻撃も、勇者の攻撃も効かないと言った。
だったら、魔王の中でも特別強いんじゃないの?
「ゼノアは強いから、魔王達が蘇らせたんじゃないの?」
“人間を一掃する為に”って……
「確かに、俺は人間の攻撃も、魔王の攻撃も効かない。……だけど、俺は誰かを攻撃する為に存在した事はない。俺は魔族管理者。蘇りを把握し、実行する者」
「……魔族管理者?」
総ての魔族が蘇るか否かを、ゼノア一人で決めているの?
……でも、最近蘇ったんだよね?
今までどうしていたんだろう?
そして──
ゼノアはどうして死んだんだろう?
──寿命とかあるんだろうか?
子供の姿の魔族を見た事がなかったけど、年配の魔族も見た事がない。
「儀式で蘇ったから、今の俺にその役割は課せられていないけどな」
……つまり、ゼノアは現在、魔族管理者ではないって事?
それとも、成長すれば出来るようになるの?
魔族や魔王の成長って、どれくらいの年月がかかるのか分からないけど。
「それって、……ゼノアは魔王じゃないって事?」
「……否、一応肩書きは“魔王”のままだ。与えられていた役割が消えただけ、と言った方が正しいな。儀式で蘇った魔王は、他の魔王達が望んだものが役割となる。……だが、俺は“必要ない”と言われた為に、役割がなくなった。俺への干渉を断ったのは奴等で、俺が奴等を殺したから、完全にそれが消えただけだ。……“漆黒の魔王”として魔界に干渉すれば、魔族管理者として再びその地位に就く事も出来るようになるだろうが……今の俺に、それを望む事はない」
役割がなくても、魔王……?
でも、魔族管理者という役割を望まないゼノア……
……ゼノアって、魔王でいたくないの?
その役割が嫌いなの?
魔王らしくないとは思っていたけど……
……一度も他の魔王に会った事がないから、魔王がどういう姿なのかも知らないけど。
「っ、くそ!魔王め!!死ねっ!」
一人の勇者が、剣を手にゼノアへ斬りかかった。
ゼノアを抱き上げている私も攻撃を受ける筈。
両腕で抱き上げているから防御もままならず、目を瞑る事しか出来ない。
(……あ、あれ?)
痛みを感じない。
それ程一瞬で死んだのかとも思ったけど、腕にかかる重みはそのまま。
ガツッ……と何かがぶつかったような音がしたようだけど……
「攻撃が効かないと言ったのを、聞いていなかったのか?」
目を開けると──
驚愕の表情が並んでいた。
ゼノアへ視線を向け、斬りかかってきた勇者を見て──何が起こったのか理解した。
ゼノアは剣を素手で防ぎ、尚且つ、剣刃を弾き飛ばし、それが城の壁に突き刺さったようだ。
先程の、何かがぶつかったような音は、その時の音だったんだろう。
剣刃を折られた勇者は、真っ青な顔をしていて、かなり震えている。
「俺は攻撃する為に存在した事はないが、攻撃できない訳じゃない。……殺すつもりはないが、攻撃されて流すような性質でもないからな」
「…………」
「…………」
「………………」
皆、沈黙してしまった。
ゼノアの言葉は、脅しに等しい。
でも、当然といえば、当然。
攻撃されれば、殺すって事なんだから。
つまり、攻撃しなければ、何もしないって事なんだろう。
ゼノアは、魔界の事だけでなく、人族にも興味なさそうだ。
……彼が興味のある事なんてあるんだろうか?




