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城で

その場には腹部が凹んだ熊と、男二人組がいる。

男の片方は肩のあたりから軽く血を流している。


「あ〜...大丈夫ですか?」


「...大丈夫だ。有難う」


「良かった。その怪我、すぐに対処した方がいいですよ」


「あ...そうだな。一度城に戻るか...だが時間が...」


怪我を負っている男の人が、苦虫を潰したような顔をする。


「戦えなければ時間も何も無いぜ。スタア。一度城に戻って包帯くらい巻いてもらってこい」


なるほど。この怪我してる男の方はスタアって名前らしいな。


「そしたら僕が運ぶんで、横たわってもらっていいですか?」


「え?あ...いや、自分で走った方が速い。自分で行くよ」


「いや、いいですから。遠慮せずに寝てください。担ぎますから」


「いやでも...君よく見ると...っていうかよく見なくても子供じゃないか!?担げるわけ...いや熊倒してたし...」


「こっちだって急いでいるんですから!」


俺はそう言うと、無理やり担いだ。


「うお!?いや...走った方が...」


「絶対こっちの方が速いですから。舌噛まないように気を付けて下さい。で、そちらの方は適当に戦ってて下さい」


「うえ?あ...いや俺は...魔獣には勝てないから...スタアぐらいしかまともに戦えるやつなんていないし…」


「え....あ...そうですか...」


俺はその人も担ぐ。


「うの!?え?ちょ...」


「口閉じてください!」


足に魔力を込めて蹴り上げる。


風を斬る音とともに、いつもより少し遅めの速度で走り始める。


「は...はええええ!」


怪我していない方の男が、口を全開にして叫ぶ。


とか言ってる間に城に着く。

さっきまでは討伐のために普通に走ってたけど、最初からこうした方が速かったか...?


まあいい。こうして二人の命救えたわけだし。

俺は二人を下ろす。


「いやあ。流星走りが使える奴なんてスタアしか見たこと無かったけど、実際体感すると凄いんだな。この子でこんな凄いんだから、本家のスタアなんてもっと速いもんなのか?」


「...」


「どうした?スタア?」


「いや...こんな速度俺でも出ない...」


「は?マジで言ってんのかよ!?」


「どうかしたんですか?」


「いや...その...その走り方の話だ」


今の話聞いてると、このスタアという人も俺の猛ダッシュのようなことが出来るみたいだな。そんな人は初めてだな。


「まさかスタアより速く移動できる奴がいるとは思いもしなかったな...」


「あ...ああ...」


「そんな事より早く入りましょう。スタアさんの怪我のこともありますし」


「そうだな」


俺達は城に入っていく。



♢♢♢♢♢



男二人組は医務室に包帯を貰いに行った。まあ医務室って言っても、今回の戦い用に臨時で作られたところらしいけど。

まあそれはどうでもいい。俺も公国の公?に会いに行く。


公の名前はレニウス・アルカナ・チューナム。

略してレニウス公。

こっちもいちいち公とか言うの面倒だから王国になって、王になってほしいが、それは無理な相談だろう。


部屋の前でランクカードを提示して、兵に扉を開けてもらう。

奥の方の椅子には、レニウス公が座っている。


「援軍が来たかと思ったら...子供じゃないか!私は言ったはずだぞ!質の良い冒険者以外は雇っても金の無駄になると!どういう事だ!?」


「いや、ですがこの者、こうみえても冒険者としては上級者と言える階級の者です。質はかなり良いかと。あの冒険者達に親しまれている、スタアという男に肩を並べる程の力がありそうです」


ちょっと焦りとかからか、イライラしているレニウス公。それをなだめるのは隣にいる長老みたいな人。

重臣ってやつかな?


「フン。そんなのは知らない。私が気になるのは、城を死守してくれるか、金に見合った働きをしてくれるか?それだけだ」


レニウス公はそう言って、歯ぎしりをする。


「...すまないな...そういうことだ。報酬は後払い、働きに応じて報酬も変化する。討伐の証は一応拾っておいてくれれば、ギルドの方に報酬の方を送る...パーティー名とギルド口座の番号だけ控えさせてくれ」


重臣っぽい人はそう言って紙とペンを横にいた兵士に渡して、その兵士はそれを俺に渡した。


俺はパーティー名と番号を書いて兵士に渡す。


「それでは国のためと思って頑張ってくれ」


俺は部屋をあとにした。



♢♢♢♢♢



部屋の外に出て、すぐにでも討伐に向かおうかと思ったが、あのスタアという人が心配だったので、医務室を覗きに行こうかと思い、城の中の医務室に向かう。


まああれくらいなら魔法ですぐに治せそうだから大丈夫だろう。と、思いながら医務室に到着。そこで俺は目を疑った。


医務室には、まさに人混み、スクランブル交差点一歩手前程の人がいた。


「なんだこれ...?」


そう呟くと、近くにいた人がこう答えた。


「あんた来て間もないんだろう?それならあんたは多少腕が立つだろう?少し前にランクの規制がかかったところだしな。でもな、最初は規制が無かったもんだから冒険者なりたてが報酬の為に沢山来てな...。そいつらのせいで、ベテランも足引っ張られてな。まともに戦えるやつなんてもう数えるほどだ」


「...ありがとうございます。現状を知らなかったもので」


「あんたも気を付けな。今は怪我してないようだが…この場所にお世話にならないようにな。命は第一優先だぞ。まだあんた若いんだし」


「忠告ありがとうございます」


俺は礼を言うとスタア達を探す。

少し探していると、人混みをかき分けて二人の男が出てきた。

スタアともう一人の男だ。

スタアは肩に包帯を巻いている。


「ああ...君は…さっきの...えーっと?」


「ガリューと言います」


「ああ...ガリュー君か。さっきは有難う。あの速さで運んでくれたのはすごく助かったよ」


「気にしないでください。それより傷...治してもらえなかったのですか?」


「あ...魔術師が全員ノックアウトされていて、治療できる人間がいないんだ」


「そうなんですか」


「そんなことより今すぐ討伐しに行かなければ、また数が増える一方だ...」


「...心配しないでください。僕の仲間が戦ってくれています」


「仲間がいたのか...。まあどちらにせよ、俺には時間が無い。金が必要なんだ。今回のこの依頼が最後の砦、急がないといけないのだ...」


「そうだったんですか...」


なにか事情ありのようだが、深くは聞かないようにしよう。


「とにかく急いで行こう」


「そうですね」


俺達は城の外へ出る。



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