都へ
本当に有難うございます!
300ブクマ突破!
ガタガタという音を立てて石畳の道を駆け抜ける。
チャリー商会から借りている馬車に乗った俺達は、メイさんの運転で都に向かう。
チャリーさんはまだまだ山積みになっていた書類を片付けるという仕事があるから、商会の方に残っている。
今度は誘拐とかではなく、普通に旅行として会いに行きたい。
レミナスさんもいるしね。あの人には色々な意味でお礼(皮肉混じり)をしなくちゃならないしね。
「揺れるぅうう...」
カルエルが気分悪そうにそう言った。
「そんなんで気持ち悪くなってるようじゃ、船に乗ったら死ぬぞ」
Jrがカルエルにそう言うと、カルエルは顔をしかめた。
まあそう言っても、出発したばかりというわけでもなく、もう馬車に揺られて1時間ほど経っているので、そろそろ気持ち悪くなってきてもおかしくはないかと思う。
ちなみに、新幹線のように外の景色を見ようと思っても、いくら進んでも森か荒野。正直気が滅入る。
せめてもの本がほしい。この世界では普通の紙は高いらしいけど。
「あ...」
メイさんがそう言って前方を見つめる。
その方向をよく見ると、煙が登っているのがわかる。どう見ても狼煙ではない。
その方向は都がある方向。時間的にも、もうそろそろ都が見えてきてもおかしくない、そんな事からも、あの煙は都での火事かなにかだろう。
今から間に合えばいいが...。
先に言っておくが、決して帰るためだけの都防衛ではない。もちろん平和のための防衛でもある。
ついさっきも、何人かで固まって街の方に向かっていく人達とすれ違った。
街の方に避難していた人達を見ていても、やはり都の方の状態が良いとは言えない。
むしろ今頃になって避難し始めている人達がいる事自体がおかしいくらいだろう。
「ガリュー!後ろ!」
アッシュがそう叫ぶ。
アッシュが君付けを忘れる程の緊急事態。そう思ってパッと振り返ると、チャリーさんを襲っていたのと同じ魔獣が、馬車に飛び乗って来た。確か...ムアサドー?
「なんでこんな所に!?」
メイさんが驚く。
俺は背中に背負っていた大剣を掴んでそのまま持ち上げ、振り下ろす。
ずっしりとした重量感が両手に伝わってくる。
が、その剣をムアサドーは素早い動きで避け、俺の剣は馬車に突き刺さる。
「あ...やっべ...」
そこまで言う程強く振ったわけでもないので、馬車に刺さった程度だが、本気で振れば余裕で馬車を粉砕できそうだ。大剣を舐めてたわ。
「ば...馬車は壊さないでくださいぃいい...あああ...ついてないよぉおお...なんで魔獣が...」
泣きそうな顔でメイさんがそう言った。そう言いつつも馬の速度は落とさない。
「わ...分かってます」
俺は大剣を背負い直し、馬車の天井にぶら下がっているムアサドーを目掛けて腰に差した剣を引き抜いて突きを放つ。
が、よけられて天井の部分に穴が開く。
「くっそ...当たらん...」
このままじゃ馬車が壊れていく一方だ...。かと言って、皆がいる中で魔術は使いたくない。狭い中では剣も振りにくいし...。
皆も魔獣を恐れて馬車の隅に固まっている...いや違うな。あの目は俺を見てるわ。
この狭い中で大剣を振り回した俺の事を恐れてるわ。
って言ってもそれしか方法がないんだよな...
「剣を仕舞って。私がやる」
カロンがそう言うと、手にサックを着けてこっちの方に来た。
俺は言われた通りに剣を腰に差して下がる。
カロンはそのままムアサドーの方へ。
そのままパンチをするが、普通によけられる。
「...ふっ」
するとカロンは、目にも止まらぬ速さで移動し、ムアサドーに不意打ち的なパンチを喰らわし、馬車の外に殴り飛ばした。
その動きは魔力強化した時の感じに似ているが、それ以上に繊細な動きだった。
俺のアレは強く地面や空気を蹴って速度を出すものだから、この距離で使えば、俺も馬車もクラッシュ必須だ。
それに対して今のカロンは、少しの距離をすごい速さで動いた。
どういう仕組みなんだろうか?
と、いうよりも、狭いところではカロンのような格闘家(的な戦闘スタイル)の方が良いんだな。
次機会があったらメリケンサック買っとこう。絶対いるわ。
「終わった...」
そう言うとカロンは何も無かったかのように、元座っていた場所に座った。
俺達も座り直す。
都まであと少し...。
「あのー...この先は歩いてもらえます?」
「え?」
「いやー...ちょっと見てください...」
メイさんはさっきと同じように前の方を見つめる。
奥の方には先程より大きくなった都が見える。
が、その手前には、ゴマのような黒い点が点々と見える。ムアサドーやその他魔獣のシルエットだ。
「魔獣があんなに居る所を馬車ではちょっと走れないので...」
「そうですね。分かりました」
「ギリギリまで行くので、そこで降りてください」
「了解です。それにしてもあんなに...。一体何があったんでしょうか?」
「分かりません。ですが、自然発生したと言えるような数ではありません。どう考えても人造魔獣でしょう」
「人造魔獣...。確かにクーデターの黒幕は人間だったし...。気を引き締めていかないと。ガリューも気を引き締めてね。調子のって怪我しないで頂戴」
「そうだな。これまでのムアサドー以上の魔獣もいるだろうし。油断大敵だな。」
そんな話をしながら、俺達はメイさんにギリギリまで走ってもらい、そこで下ろしてもらった。
そうして、本当の戦いが始まるのだった。
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「もう...これ以上はやりすぎです!」
「五月蝿い!黙れ」
「いやですがしかし...」
「うるさいと言っているだろう!?死にたいのか!?」
「いえそんな訳では...しかしそれガハッ...!!!」
リーダーの男は忠告をした男を持っていた剣で突き刺した。
「ハッハッハ!こいつも魔獣にしてやろう!今回の戦いの象徴となりうる存在。魔人だ!」
甲高い笑い声が乾いた空に響き渡る。
この世界の歴史でも希な存在、魔人の誕生だ。




