ロール決めから試験
「私はどう転んでも白魔道士しか出来ないわ」
カルエルが言った。カルエルには、回復系魔法に物凄く恵まれている。が、その他の魔法、特に攻撃に関する魔法では、一般的、いやむしろ劣っていた。本人がいうには、人を傷つけるイメージをしたくない。との事だが、それが本当かどうかは、俺は知らない。
「よぅし。僕は可愛いレディの騎士になるよぉ!」
少し声を変えてふざけ半分でナスがそう言うと、
「真面目に考えなさい!」
とカルエルがビンタ。
ナスは頬をさすっている。
「僕はやっぱり戦士だね。勇者たるものなんでもできなきゃ」
「お前は勇者じゃないだろ」
と言ったのはアッシュ。突っ込んだのはJr。
「そう言う国王陛下はどんなロールを選ぶんですかねぇ...ククッ」
「僕は王じゃない。僕は黒魔術師だ。それ以外が出来そうにない」
嫌味っぽくアッシュが問うと、比較的真面目にJrが返した。
「カロンちゃんは?」
「へ...ああ...えと...」
カルエルはカロンに聞くが、まだ決めていない様子だ。
「私は...格闘系の戦闘が得意だから拳闘士...かな?魔法も使えるけど、まだ練習中だし...」
カロンは拳闘士か。竜人族って何でもできそうだよな。
「チビッタは?どうする?」
「雑用...がいい」
「「「え?」」」
その一言に皆が振り向く。
「え?あんなに憧れてたのに...雑用?」
「雑用は...冒険者の醍醐味。トラップ解除、宝箱開封、アイテム拾いにアイテム管理や家事...この仕事こそ冒険者そのもの...」
妙な考えを持っているものだ。戦ってこその冒険者だと俺は思っていたのだがな...。
まあ確かに、間違ってはいないと思うけど、それでも戦いがなかったら採取系クエストと同じような...。まあそれが本人の意思か。
「ソニックは?」
「僕は〜...能力を活かせるロ〜ルが〜いいな〜」
「つーとなんだ?」
「騎士か...それか拳闘士じゃないか?」
とアッシュ。
「確にソニックの能力は接近戦に長けているからな。防御云々は抜いておいて、接近戦ができる方がいいと思うな」
「じゃ〜そ〜するよ〜。2つ選んでも〜良いんでしょ〜?」
「いい筈だぞ」
「じゃあ〜...拳闘士と〜騎士だ〜ね」
「それにしても、魔術師なのにロールは騎士ってのは面白いな」
「魔術師は黒魔術師にしかなれないって縛りはないからね」
アッシュと話していたら、カルエルがやって来た。
「あとはガリューだけでしょ?どうするの?まあ聞かなくても黒魔術師だろうけど...」
ああ、俺か...。俺は...そうだな。なんだかんだ言って、俺は何でも出来る。いや、別にナルシストじゃないよ。そうじゃなくてなんて言うのかな…魔術は勿論、格闘、剣、その他戦闘の大体はできるし...料理とか雑用も出来ないことはなさそう。白魔道士だけは出来ないけどな...(泣)
そうだな…どうすっか。やっぱり...
「白魔道士以外全部だわ」
「は?」
「うん。白魔道士以外全部」
「チャレンジャーですねぇ」
と、話を聞いていたギルドの人が笑いながら話しかけてきた。恐らくは、すべての試練を突破できないと思っているのだろう。特殊な人じゃないと、魔術師で剣使う人なんてなかなかいないだろうし、何よりも年齢的な問題で。
「それじゃ。全員決まったので、お願いします」
俺はギルドの人に試験のお願いをした。
「え?いやちょまって」
とナス。
「んだよ...」
試験で戦えるとわかった途端に血が騒ぎ始めたアッシュが、ナスに遮られて御機嫌斜めになった。
「いや...ロール決めていないんだけど...」
「騎士じゃないのかよ...?」
「じょ、冗談だし、あれは...」
「もう早くしろよぉ...」
ちょっとナスを睨むアッシュ。顔が少し怖い。
「あ...いや...じゃあ...黒魔術師で...」
「うし。今度こそ試験だ!」
アッシュの機嫌が直った。
俺達はギルドの人の案内に従って試験を受けることになった。
♢♢♢♢♢
試験が始まった。俺は受ける数が多いから、最後になった。カルエルも患者の用意でちょっと時間がかかるそうだ。
一番最初はナスとJrの黒魔術師から。
ギルドが用意したモンスターを規定数狩ればオッケーらしい。と言っても、ゴブリンよりも弱いようで、軽い魔術で倒せるレベルだそうだ。2人の試験の様子を見ていても、説明の通りに弱いようだ。
学校に通う俺達からしてみれば、余裕の中の余裕。冒険者ってこんなレベルでもなれるのか…と、冒険者の強さを疑いつつある。まあ勿論、説明の通り、ロールランクで細かく細かく分けられているから、上位ランカーともなると実力は俺以上なのだろう。
試験の結果は2人とも秒殺クリア。そもそもクリアできない人なんてなかなか居ないらしいから、当たり前と言っちゃ当たり前だな。
次はカロンだ。拳闘士といえば、モンクか。しかし不思議だ。モンクというのは修道士だからな。お坊さんのはずなのに、何故か格闘家扱いをされている。
閑話休題。
試験は、ギルド職員の人と手合わせをして、ギルド職員の判断で合格不合格を決める。
カロンの戦いっぷりをじっくり見ようと思ったのだが、開始の合図の数秒後には職員が吹っ飛んでいたもんだから、見るも何も無かった。一発のパンチで試合終了だった。
次にソニック。拳闘士と騎士ということで、まずは手合わせだったのだが、これが面白いほどにスローリーな戦いに。ソニックはマイペースだし、相手は相手で能力使われて動けないので、ただただゆっくりゆっくりダメージ蓄積させて終了。
騎士の方もそんな感じだった。
そしてアッシュ。戦士は魔術師と剣闘士の合体のようで、魔法と剣で闘うことが条件のよう。
一石二鳥でめちゃラッキーとかなんとか言いながら戦闘開始。手加減という言葉を知らないのか、アッシュは自分の思うがままに戦いを始めた。なんだかんだ言って強いのだ。あいつは。明らかにオーバーキル(もちろん殺してはいないけど)になってもなお攻撃を続けるアッシュに、見てるこっちがヒヤヒヤしたのはここだけの話だ。
そしてカルエル。皆の試験中に病院からけが人を連れてきたようで、その数10人ほど。軽傷の人がほとんど...擦り傷の人もいる。骨折のような人も一人いた。カルエルはそれをパパッと直していく。試験で治すからお金をかけなくてもけが人が治るってのはいいな。まあ要は研修医が治してるって事になるんだろうけど。
そして回ってきた。俺の番。まあ大して期待してない。だって簡単すぎる。見てて簡単すぎる。面白い戦いにはならないだろう。
そう考えつつ、試験に望むのだった。
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