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世界一の魔術師? ですが本業は料理人ですので 〜転生料理人の異世界魔法生活〜   作者: クリップキラー
一幕 青年期 ライコウ王国脱出
54/117

その時

毒の盗賊団のアジトが崩れ落ちる瞬間を木の上から見ていた男が二人いた。

一人は老人、もう一人は鍛え上げられた中年男性だ。


「まさかホントにやってしまうとは...。あんな子供に、1人で...」


「まあ途中で1人大男来たけどな」


中年男性は驚愕の表情を浮かべ、対する老人は満面の笑みを浮かべる。


「儂の目に狂いはなかった訳じゃ。まさか無傷で出てくるとは思わなかったがの。毒消し要らなかったかもしれんな」


「我々が長きに渡って交戦し続けた盗賊共をたかが1時間で...」


「まあいいではないか。どうせ儂らもそれに集中していた訳でもなかろう」


「しかし...」


「しかしといえば...。まったく...。てっきりあの坊主は、夜に夜襲を仕掛けるかと思って、昨日の夜からここで待っておったのに。なんで朝に来るのじゃ?こんな老いぼれにオールナイトは体に響いてしまうぞい」


そう言いつつも、まだまだ元気のありあまる老人。


「マスター」


「マスターと呼ぶでない!」


「あ...。レヴィアタン様...。仕事も残っているので、さっさと逃げた残党を始末して、職務に戻りましょう」


レヴィアタンと呼ばれた老人は後ろを向き、


「必要ない。虫の数匹などは、大した害を及ぼさん。泳がせておけば、他の(・・)アジトが見つかるかもしれんしな」


そう言って2人は、街の方へ向かって、歩いていった。



ーーーーーーーーーー



ここは無法地帯危険区域D。

第三大陸の東部にに位置する、王の居ない地域だ。ここは世間から未開の地と呼ばれ、未だに制覇されず、ただただ成長していくだけの塔、通称王のダンジョンがこの地の中心にある。

ここには法がない。よって、犯罪は多発し、国の追手から逃げることの出来た罪人などが多く住み着く場でもある。全ての未開の地がそうである訳では無いが、ここには様々な悪人たちが、多くのアジトを作っているのである。


そんな無法地帯危険区域Dには、黒の本部がある。法から逃れられる上に、周囲が大した国で囲まれているわけでも無いので、大きな組織にとっては、この場所は非常に良いのである。


そんな黒の本部に、一台の馬車がやって来た。

馬車には、運転手と一人の男しか入っておらず、荷物なども少ないので、非常に急いでやってきたように感じる。

その馬車の男は、黒の本部の目の前で馬車を止め、そこで降りると、すぐに本部の隠し入口へと進んでいった。



♢♢♢♢♢



「....と、言うわけでございます」


「ほう。それが君の言い訳かね?」


黒の本部、地下5階。先程の男と一人の女性がいた。女性は男に向けて、怒りを露わにしている。


「ここまでの話を纏めるとだ、君が監視しに行った、ライコウのとこの支部が、買い物から帰ったら壊滅していたと。そして急いで此処に報告しに来た、それでいいのかね?監視官君?」


「は、はい」


男は女性を、恐れているかのようだ。恐る恐る、女性の質問に答える。


「監視官の仕事は支部の監視だというのに、買い物していた間に支部壊滅とか、普通に有り得ないぞ。お前にはそれなりの罰を与える。まだ、どうでもいい支部が潰れただけだから、罰は軽いものの、お前は職を全うしなかった。お前はもっと...そうだな。雪山かどっかの支部に派遣してやろう。死なないだけましだ。上には私が伝える。お前名前は?」


「フルムーンです...」


「良し。今日はこの地に泊まることにしろ。明日にはお前の罰も決まっているだろう。すぐに部屋は用意してやる。一応お前は幹部クラスだからな。分かったらこの部屋から出てくれ。仕事が溜まっているんだ」


「は...はい」


男が振り向き、その場から離れようとした。


「ああ...ちょっと待て。誰に支部が潰された?」


「分かりません...」


「せめて魔術師か、その他か、それくらいは分かるだろ?」


「分かりません...」


「どういうことだ?それらしい痕跡は残っていただろ?まさか...見てこなかったとか言うんじゃないよな!?」


「いや...そういう訳では...」


「では何故だ?」


「痕跡がバラバラで...切り裂かれた跡もあれば、魔法らしい痕跡も、かと思いきや打撃系の跡なども....。一つのグループが潰したにしては、統一性にかけていて...」


「人数的には多いと考えた方がいいな」


「と、いいますと?」


「統一性が無いということは、単純に人が多いのだろう。もしかするとまた、アイツらか...」


その言葉を最後に、女性は何も喋らなくなり、何かを考えるように動かなくなった。

男は、その空気に耐えられず、こっそりとその部屋を抜け出した。





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