ブオーノ離着陸上にて
リメイク版がそろそろ投下できそうなので、そちらもどうかよろしくお願いいたします
リコナ王国、その中でも首都に当たるブオーノは、それはそれは美しい街だ。
東は大きく緩やかな川が流れ、西は広大な平野が広がり、北は大きな山と森に包まれ、南には海産物のよく取れる澄みきった海がある。
川には大きな橋が架けられていて、川を渡るのは容易である。それに、川魚はよく育つ。その川の水で田畑が潤う。
平野は一部が道路となっていて、多くの馬車がいつも商売にやってきては、この土地の質の良い食料を買っていく。
道路になっていない平野部分は、農場や牧場として有効に活用されている。
森は魔力濃度が少ないためか、凶暴なモンスターはあまり多く出てこない上に、多くの果実や動物が採れる。
山菜なども採れるため、肉、野菜、果実が、この森だけでも揃う上に、木こりたちにとっては、この森の木そのものさえもが商品になりえるのだった。
海は広く、見渡す限り何も見えない。
街の南側には大きな港が作られ、漁船や貿易船でいつも忙しなく船が動いている。
綺麗な海を含めたこの街、は一部の金持ちの娯楽施設としても大変人気で、そのためか宿屋や食事処も少しづつ発展していき、今となっては食料、貿易についで三本の指に入るほどの一大産業になりつつある。
何を隠そう、この国は周囲の国に比べてとても豊かだった。
第四大陸でも五本、いや、三本の指に入るほど発展している国だ。
この国は文明圏の国として指定されていて、その指定されているという事実が、この国の豊かさを証明するものだった。
この国は、降り注ぐ太陽の光も、恵みの雨も、川も海も、国民の笑顔も光り輝いていた。
だがそれは数日前までのこと。
今は国民に笑顔などない。
この国をたった二代でここまで発展させた、元王トリフィア、そして現在の王であるキャビアン。
この二人にとって大切な孫であり、息子である王子が亡くなったという知らせが入った。
国民は嘆き悲しんだ。
この国の国民にとって、国王キャビアンは、憧れであり、恩人のような存在だった。
昔からこの国の豊かな資源を求めた周辺国家の襲撃、略奪、恐喝行為によって、長年豊かな大地で採れた食物をすべて奪いとられていた。
しかし先代の王であるトリフィアは、王家の財産のほとんどを使った上で、さらにこの国の食料を優先的に取引できるようにするという約束を鍵に、当時大きな力を持っていたナニシオルド王国との同盟を結んだ。
同盟といっても、立場的には、強い軍の一つすらも持たないリコナ王国の方が圧倒的なまでに地位が低かった。
だがしかし、ナニシオルド王国との同盟のおかげか、周辺国家からの略奪行為は気付いたらなくなり、国は平和を取り戻した。
周辺国家は長きにわたって、リコナ王国の食材を奪っては売りさばくという手法で、金を稼いでいたようで、周辺国家の大半は、食料生産が退化していたことが原因でか、国としての機能が成り立たなくなり、そのうちにリコナ王国に吸収されていく結果になった。
リコナ王国は弱った周りの国々をまとめて、土地を増やしていったのだ。
窮鼠猫を噛む。とはまさにこのことだろう。
国王トリフィアがここまで考えていたのかどうかは定かではないが、賢明な判断によってこの国は救われた。
何より、死守すべき自身の財産をすべて売り払うというその勇気ある行動に、国民は感動したという。
トリフィアは一代で国の立場を大きく変えた。
だが、それだけで脅威がなくなったわけではなかった。
ナニシオルド王国は、周辺国家がことごとく崩れていったことを確認した直後から、この国との食料の取引を強化。
強化してもらうことはこの国にとっても願ったり叶ったりだったのだが、とてつもなく安い料金で国の食料を買い取っていくようになった。
自分たちにとって圧倒的強者に当たるナニシオルド王国には逆らえず、以前ほどまではいかないものの、苦しい財政難が続いた。
そこで立ち上がったのが現在の王キャビアン。
これまで旧領地内でしか行ってきていなかった食料生産を、先代の獲得した新領地でも行うことにした。
大金を使うことになったが、国民や貴族は、国のためだと惜しむことなく募金のような形で金を出した。
もちろん王家も。
集まった金で行った大改革。
わずか一年あまりで、国の大半を食料生産用の農耕地などにしてしまった。
あとはひたすら食料を作る。
すると、みるみるうちにナニシオルド王国の要求する食料の数倍の食料の生産が可能になったのだ。
それを知ったナニシオルド王国側は、さらなる食料を要求してきたが、金が物を言うこの世界において、もはや両国の間での格差は縮まりつつあったのだ。
もしもこのまま取引を止めても、リコナ王国はもう困らないのだ。
食料ならある。売れば金にもなる。金があれば軍だって雇える。
対するナニシオルド王国は、取引が終われば、安く仕入れていた食料の調達ルートを失い、大損害につながる。
そして何より、それに怒ってリコナ王国に攻め込み、豊かな土地を手に入れようにも、大義名分がない上に、攻め込むという行為によって、戦場になってしまうのはリコナ王国領であり、その豊かな土地欲しさにむやみやたらとその大地を破壊するような行為は本末転倒となってしまう。金と兵糧の無駄使いだ。
そのことを知っていたキャビアンは、要求を拒否。
あくまでも対等な関わりであることを主張した結果、ナニシオルド王国側も諦め、ついにこの国に真の平和が訪れたのだった。
そして、気がついた時にはナニシオルド王国の座っていた列強国の席を、奪う形で座ることになった。
今となっては、かの国の次に大きい国家となったのである。
この国を救った二大英雄、トリフィア、キャビアン。その子孫にあたる王子が死んだと聞いて悲しまない国民などいるものだろうか?
いるのであれば薄情者である。
皆が悲しみ、王子の死を悔やんだ。
それでも国民の心は晴れない。
この国は今、とてつもなく暗かったのだ。
それは魔法船着陸場の管理人ベルハイドも同じだった。
そもそも魔法船が停まる街というのは、発展している証。
その発展をもたらしたのがその二代の国王。
簡単に言うと、今ベルハイドがこの場に立ってこの仕事をしているというのは、王のおかげと言っても過言ではないのだ。
だがもうなんだかんだ言って、訃報からもう二日は経っていた。
それ以前から行方が分からなくなっていたようなので、もう王子の死から何日経ったかもわからない。
いつまでも悲しいムードでいてはいけないのだ。
ベルハイドは仕事を続ける。
そこに、一本の通信が入る。通信石の劣化版、近距離の相手としか通信できない連絡石だ。
ベルハイドは連絡石の連絡を受け取る。
「はい。こちらリコナ王国、ラ・ブオーノ魔法船着陸場です。どうしました?」
魔法船での事故などに備えて、緊急着陸ができるような体制をとるため、緊急時などには、連絡石で連絡が入るようになっているため、ベルハイドはマニュアル通りの受け答えをするだけだ」
「着陸したい?緊急ですか?何かトラブルでも?」
貴族などでは、忘れ物をしたというだけで引き返してくることもあり、このような通信は珍しいことではない。
本当に非常事態だったことなんてあった覚えがない。
「緊急ではない?では忘れ物か何かですか?」
いつものパターンか…。
特に大変なトラブルが起きていないということ自体にはホッとできるが、正直そんな理由で帰ってきてもらっても困るだけなんだよな。
ベルハイドは心の中でため息をつきながらいつもとなんら変わらない受け答えをする。
「違う?えーっと?理由があって着陸させて欲しい?客人を載せているから降ろさせたいと?」
今回はなかなかレアなパターンだ。
と言っても、スケジュールをしっかりと守って運行する民間用の魔法船とは違い、なんでも貴族用の船らしい。
貴族関係だと、あらかじめ予定を伝えることなくやってくる場合もしばしばあるので、そこまでレアでもないか。
幸いまだ朝早いこともあって、離着陸場が空いている。
「どちらからいらっしゃったのでしょうか?」
このような場合は、相手側の身分証明がしっかりとできれば入国ができるようになっているので、ランクカードや、それに準ずる証明書があればすんなりと入国ができる。
ひとまず着陸許可を出すために相手側の情報を引き出す必要があると、いくつかの質問をし、着陸許可を出す。
「アルカナ公国から貴族船…?今日なんかあったけな?もしかして王子の件か?」
実際のところ違うのだが、この数分後、彼の予想はあながち間違っていなかったことがわかる。