出発は唐突に
リコナ王国。Jrの父親であるキャビアン王の治める国である。
聞くところによると、自然が豊かで、陸海空すべての環境が整っているそうだ。
山の幸、海の幸、川の幸、食材を仕入れようと思うならリコナ王国産。
第四大陸の料理人の共通認識らしい。
とにかく飯がうまい。そんな自然豊かな国らしい。
そんな国で育てば舌も肥えるわな。
例の美食家王を思い出してツッコミを入れた。
案外国民みんなが美食家だったりするのかもしれない。
閑話休題。
俺たちが向かうのは、そんなリコナ王国の首都、ラ・ブオーノ(以下ブオーノ)である。
キャビアン王の住む城もそこにある。
誰一人として学校の場所がわからなかった俺たちはひとまず、そこでJrの父であり、俺もなんども話したことのあるキャビアン王を頼ることにする。
あとは馬車なりなんなりで学校に連れて行ってもらえれば一件落着という訳である。
あとは順調にコトが進むよう祈るだけ。
俺がちょっと思っているのは、三度目の誘拐である。
二度ある事は三度ある。もう二度目の、毒の盗賊団の誘拐からずっと警戒してきている。
いざ魔法船に乗ろうなんて思ったら、一人足りないなんて結構ありえそうで怖いのだ。
起こるかどうかもわからないことに怯えなければいけないというのは、どうも怖いものである。
まあなんとかあと、今日を合わせて二日の間、しっかり全員揃っていればなんの問題もないのだ。
そう思いながら、手元にあったガレキを地ならし用のトンボのようなもので一点に集めていく。ちなみにトンボは金属製のもので、ガレキ撤去用のものらしい。ギルドが貸してくれた。
現代でいうブルドーザー的役割を果たしている。もちろん人力だが。
皆で決めたように、現在は街のガレキ撤去をスタアさんんも交えて皆でやっているところだ。
もちろんこの人数だ。どれだけのことができるか?言わなくてもわかるとは思うが高が知れているということは俺も含めて皆がわかっていることだが、それでもせめてもの気持ち的な問題で俺たちはやっている。
まあどっちみち暇なので俺たちにとっても、悪い話ではなかったことは事実って言ってしまえば事実なのは否定できないのだが。
まあ何事もウィンウィンな関係というんが大事なのだ。
俺らにとっての暇つぶしが、この国の役に立っていると考えようじゃあないか。何事もポジティブな方向に持って行こう。ポジティブシンキング。
特に大したことを話すわけでもなく、城の周辺を中心に黙々とただガレキを集めては一箇所に集めていく。
徐々に山積みになっていくガレキを見ると、塵も積もれば山となる。という諺を言いたくなってくるのは日本人の本能か何かなんだろうか?
作業は昼過ぎまで続き、一度遅めの昼食などのために休憩を挟み、また夜まで作業をする。
戦闘ではなく、単純な力仕事をするということが、俺にとっても、皆にとっても新鮮なようで、楽しい反面、明日にはどこかしらが筋肉痛になっているだろうな、と、心配になる。
いくら魔力で肉体を強化していても、筋肉痛だけは免れないのだ。
日は沈み、夜がやってくる。
作業を終えた俺たちは城に戻り、食事をとり、風呂に入り、眠る。
翌朝からも全く同じようなサイクルでガレキ撤去だ。
我ながらよく飽きずにやったものだと少し感心した。なにせかなり面倒な仕事だ。お金ももらえない。でも、人の役に立っているのだと思うと、自然と楽しくなってくるのもまた事実。
些細の人助けから、こうやって喜びの感情が芽生えてくることはいいことだと思う。
そのうちしっかりこの国も復興してくれるといいな。
そんな思いでガレキをただひたすらに集めてこの日も日は沈んでいった。
部屋に戻ると、明日の用意をした。
明日の用意と言っても、大したことはない。
まとめるような荷物などは特になく、強いて言うならばレニウス公から貰った着替えや、食料などをこれまたレニウス公からもらったバッグに詰めるだけだ。
明日の用意が終わると、昨日おととい同様に、食事、風呂、そして就寝。明日は朝早いので、早めに寝ておくことにしよう。
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翌朝。
出発の日。
皆も朝早くから起きていて、準備は万端だ。二人くらいまだ眠そうに目をこすっているが、一応誰も誘拐されていない。
今目の前にはレニウス公が用意してくれた魔法船なるものがある。
初めて見たが、非常に格好のいいものだと思う。感覚的には飛行船と船の合体したようなもの。
空を飛べるらしい。唯一怖いことといえば、墜落しないかどうか。あの一見完璧なように見える飛行機ですら、その墜落率は0ではない。そう考えると、この魔法船は大丈夫なのだろうかとかなり真面目に心配になる。
「何ボーッとしてるのよ!早く乗らないと置いてっちゃうよ!」
変なこと考えながら魔法船とにらめっこしていると、カルエルの声をかけられた。
みればもう、魔法船に乗ろうというところのようだ。
「ああ。ちょっと待ってくれ」
俺はそういうと、後ろを向いた。
スタアさんやレニウス公などが、そこにいる。
「レニウス公。今回は魔法船を用意していただきありがとうございます」
「なに。こんなもの容易いことだ。それよりここ二日のゴミの撤去をしてくれたことは、私からも感謝をせねばならないな。ありがとう。冒険者の面々のおかげか、私も少しこの傲慢な性格を直すべきだと痛感したわ。では行ってくるがよい」
レニウス公は少し何かが変わったように感じられた。それが果たして俺たちのおかげか、ギルド上層部のおかげなのかどうかは俺にもわからないが。
「スタアさん。ここ数日はお世話になりました」
「いやいや。お世話なんて。そんな大したことなんてしてないよ。むしろ俺はガリュー君。君に助けられたんだよ。何度も」
「そんなの気にしなくていいんですよ」
「いやいや。いつか借りは返すよ。本当はムーナにあって欲しかったんだが、まだ目を覚まさないんだ。また今度どこかで会えたら、お礼のついでに会ってくれないか?」
「分かりました。では、出発しますね。スタアさんもレニウス公も、ありがとうございました!」
俺は魔法船に乗り込む。これで全員が乗ったようで、徐々に船が浮いていく。
「スタアさん!またどこかでお会いしましょう!」
俺は最後にそう言って、空へと飛び立ったのだった。