ラ・ブオーノ
約束の時間。衛兵が扉を開き、俺に対して中に入るよう促す。
その指示に従って、部屋の中に入る。
部屋の中は昨日となんら変わらない。
両サイドに数名の衛兵、目の前には玉座らしい椅子に座ったレニウス公が、その隣には重臣的老人がいる。
「それで、冒険者ガリューよ。お前は何を望む。できることなら叶えてやらんこともない」
「私は魔法船で第四大陸に向かいたいのです。一刻も早く。仲間とともに。ですがこのような状況では、魔法船も通常通りには動いてくれないでしょう。ですが、他の国に行っている暇は生憎ながらないのです。ですので、レニウス公の力で、小型でも何でもいいので、魔法船を用意していただけないでしょうか?」
あまりレニウス公のことは好きではないが、あくまでも目上の人に対する態度はしっかりと保った状態で話を進める。
そこらへんの常識くらいはわきまえているつもりだ。
「魔法船の用意。それだけでいいのか?それなら一応、乗組員や追加の燃料、食料と最低限の物資の方も用意してやろう」
「ありがとうございます。できるだけ早く出発したいのですが…」
思っていたよりもレニウス公は気がきくようだ。
なんで上から目線なんだよというツッコミは今は置いておいてくれ。
傲慢な人だと思っていたが、根はそこまで悪い人ではなかったようだな。
まあ、ギルドの方からの処罰が怖いだけかもしれないが。
「ふむ。まあそうだな。2日だ。2日で出せる。私の所有する魔法船が一隻、小型だがあるからそれを使うといい。いくつか使うにあたっての注意点もあるが、まあ大した問題ではない。明後日の朝には出せるな」
「本当ですか?ありがとうございます」
「うむ。こちらももっと大変な望みを言われるのではないかとヒヤヒヤしていたのだ。金だの地位などと言われたらこちらも困るのでな。魔法船くらい、国を救ってくれたことと天秤にかければ軽いものよ。お前たちには今日明日の2日間城に滞在することを許可する」
「わかりました。そうさせて頂きます」
思っていた数倍上を行くかなり良い待遇に内心びっくりだが、ことが良い方向に進んでくれてなによりだと思う。
交渉も何不自由なくスムーズに行えてよかったの一言に限る。
「それでは準備はこちらでする。今日はもう下がれ」
俺は話も終わり、俺は部屋から出された。
部屋から出ると、皆が待っていた。
「どうだったの?」
「ああ。普通にオッケーもらえたよ」
「どれくらいで出発できそうなの?」
「明後日の早朝だそうだ。思っていたよりもかなり至れり尽くせりって感じで、食料とか乗組員もつけてくれるみたい。出発まではこの城で好きにしてていいってさ」
「了解。ギルドに仕事探しに行く?」
「いや。さっきスタアさんと話してた時、大した依頼がないと言っていたから、別に今回はいいだろ。ゆっくり体を休めようぜ」
「そうね」
さっきから俺を質問攻めしてくるのはカルエルだ。
だが、ここまで質問されても俺は嫌な気分にはならない。
もし何かあった時には、カルエルはかなり頼れる存在なのだから。
精神年齢的には俺の方が二倍三倍は上なのにもかかわらず、俺なんかよりもよっぽど頭が回るやつだ。それともアレだろうか?子どもの脳の方が柔軟な考え方ができるとかなんとかいう…。
「そうすると暇だな。ガリュー君さ、ちょっと探検にでも行こうって思ったりしたりしない?」
「しないけど。別に。する所なんて無いだろ。そんなことしてるぐらいならがれきの撤去でも皆でやったほうがいいだろ」
「む…。そう言われてみるとそうだ。皆でさっさと方をつけに行くか。これも立派な勇者の仕事だな」
アッシュも納得したようなので、今日明日は自分たちのできる範囲内でがれきの撤去をすることにしよう。
もちろん金はもらえ無いが、あいにくギルドに行けば、金に関しては当面は困ら無い額があるからな。
ボランティアってことで。
「じゃあそういう感じで、皆でボランティア活動だな。異論はない?」
皆に問いかけるが誰も異を唱えることはなかったので。すぐにでも活動を始めようとした時、後方の扉、レニウス公がいた部屋の扉が開き、中から例の重臣っぽい老人が出てきた。
「ああ。まだおられましたか。手間が省けました。ガリュー殿。魔法船をご希望とのことですが、目的地はどこなのでしょうか?」
「え?ああ。第四大陸の…。……….あ。学校ってどこにあんのかわかんねえ」
「え?知らなかったの?」
「なんだよ。そういうカルエルはわかるのかよ?」
「え?いやわかんないけど?」
「わからないんじゃねーか。他の皆もわからないのか?」
皆の方を向くが、誰一人として答える者はいなかった。
チビッタとソニックに至っては話にすら参加していない。
思ったけど二人ってかなり似た者同士だよな。
閑話休題。
このままじゃまずい。目的地の名前わかるのに場所がどこだかわからないとかシャレにならんだろ。
だいたい誰も知らないってのがおかしいじゃあないか。
「うーん….困ったなこりゃ」
その時Jrが口を開いた。
「仕方ない。僕の国に行こう。一応僕の国から一番近い学校に僕は入学しているんだ。一度国に戻ればあとは父さんに頼ればいい。簡単な話だ」
「ああ…その手があったか」
一瞬キャビアン王の顔を思い出す。
そうかあの人の息子がいなくなって今ここにいるのか。
あの人は今どうしているだろう。
どれほど心配しているのだろうか。
誘拐からの帰還率はこれまでゼロだったと、ドラノが言っていた。
案外もう諦めて葬式とかやってたりして…。
黒に関しては王族の方が一般人より敏感らしいし、普通に考えられる気がする。
ま、あんま物騒なこと考えるのはやめておくか。
「お、おほん。で、どちらへ向かわれるのですか?」
重臣の咳払いで自分の世界から引き戻される。
「え…えっと…」
「リコナ王国です。リコナ王国の首都、ラ・ブオーノまで」
俺が言葉に詰まっていた時、Jrが言った。