魔人と戦う
なんとか勝てるか?
本気出せば勝てなくもない...?
だが...。ギリギリなんて良くない。
そんな考えが頭をよぎる。
このままでは、他のみんなが邪魔になってしまう。
悪いが死ぬ可能性だってある。
自分で言うのもなんだが、医務室送りの称号は伊達じゃない。
まだ威力の大きい魔術の操作はしっかりできない。
その上相手が相手だ。
もうこれは勝てる勝てないじゃない。生きるか死ぬか…それか逃げるかだ。
皆にはほんと悪いが、邪魔なんだ...。だから逃げてくれ。
そんな思いを胸に、ソニックに魔人速度を落としてもらうために、ソニックに向かって叫ぶ。
「ソニック!あいつの速度落としてくれ!」
「...」
ソニックは無言で頷き、その直後には魔人の動きが......少しだけゆっくりになった。
「なんで!?」
あいつの速度が全くと言っていいほど落ちていない。
そのまま俺に向かって再突進をしてきた。
「クッ!」
なんとか守る。
俺だけを狙って攻撃してきてくれるのは、今の状況下ではありがたい限りだが、それでも危ないことに変わりはない。
どうやら俺が攻撃を返したから、俺を攻撃対象とみなしたのだろう。
(魔人の頭脳は結構悪いからな。単純に戦意のあるやつを狙ってくるだけだ)
なるほど。この中では俺が一番ヘイト値が高いってわけか。
(頭は悪いが、魔法が通りにくいのが特徴で、さっきのソニックのような、敵を妨害する魔術や魔法が効きにくい。その上、表面にはとても硬い筋肉の装甲があるから、物理攻撃も効きにくい...というか生半可な攻撃じゃ全く効かない。だが...一度その硬い装甲を砕いてしまえば、攻撃はかなり効きやすくなる)
どこのラスボスだよ!?弱体耐性に物理攻撃魔法攻撃ダメージカットって...裏ボスじゃねぇか!
(こんなんで音をあげてるんじゃ、ヴァンパイアとか悪魔族とかになんて勝てねえぞ)
ヴァンパイア...。あの先生もそんな強いの!?
(うにゃ...。あれはハーフだからな。環境も魔族領とは違うからな。純血種で100なら、混血種で1か...良くて2だな。まあ魔人も90位だけどな)
そんなに差がつくもんなのか。
「って危な!」
アザゼルと話している間に、今度はさっきの球体が飛んできた。
まだ距離があったので、咄嗟に左にドッジロール。
「ふう...んな!?」
俺を通り過ぎたと思いきや、そのまま一度空中で急停止。俺の頭に?マークが浮かぶと同時に、球体は俺に戻ってくる。
「追跡型とか聞いてねえぞ!?」
今度は避け無いで弾いて地面に叩きつける。
「やっぱり駄目だ! スタアさん!今すぐ皆を連れて逃げて下さい!」
「え...でもそれじゃガリュー君が!?」
「ここで本気で戦えば周囲にも危険が及ぶかもしれないんです!スタアさんだって怪我するかもしれない!僕にここは任せて下さい!」
「...分かった。仕方がない。正直俺が相手になっても、勝てなそうだ。皆の事は任せて」
「で...でもでも...それじゃガリューが危ないし...」
カルエルが反論する間にも魔人の攻撃は止まらない。攻撃は単調だが、パワフルなタックルが俺を襲う。
「ぬう...!おれは...俺は大丈夫だから...!」
そう言いながら魔人を横に受け流す。
「もし怪我したら...私なら治せるし!」
「俺は怪我しないし!それにそんな事してたらお前らが怪我してしまうだろ!?いいから今回は避難しろ!」
「そんなの...私達が...足で纏いみたいじゃない!」
「...。それは...」
「もういいだろカルエル!?行くぞ!?僕達に勝てる相手じゃないんだ!いいだろ!?」
半分怒り気味なカルエルをナスが諭して、カルエルを含む全員がその場から離れる。
これだけは分かってほしい。お前らの為だ。正直言ってしまえば確かに、足で纏になってしまうかもしれない。
でもな、別に馬鹿にしているわけでもなんでもないんだ。相手がただただ強すぎるんだ...。
なんだか喧嘩したような感じで終わってしまったが、俺のしたことは間違っていないと思いたい。
またしても飛んでくる黒い球体を弾きながら、心の中でつぶやく。
このままじゃジリ貧...。
倒さなくてはならない。なのに出来ることはただ攻撃を受け流すだけ。
無駄に魔力消費はしたくない。だからといって守り続けてればいい訳でもなく...。
あー...アザゼル先生?あいつ弱点とかないの?出来れば楽なので。
(破壊するまでに時間はかかるかもしれないが、胸のあたりが弱点で、そのあたりの装甲を破壊できれば、心臓を貫いて終わりだ)
魔獣でも心臓はダメなんだ。
(まあ、心臓ないと動物生きていけないし、魔獣にもなれないし)
そんな事言っても、心臓あってもそこらの切り傷...あの魔人だったら腹の穴から血が出ちゃって心臓ある意味ない気がするんだけど。
(まあほら、科学では説明出来ないことがあるんだよ。ここは剣と魔法の世界だぞ)
その言葉はこっちの世界きてから何度も心の中で呟いたよ。
(とにかく...だ。胸筋を叩き割ってやれ)
ああ。サンキュー。一応やってみる。
こうして、魔人と俺の戦いが、遂に始まるのだった。