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倭国は輝いていた  作者: 讃嘆若人
第一部
9/11

第九話 ゆめうつつ

「全く、昨日は一睡もできなかった・・・。」

 押坂彦人大兄王おしさかのひこひとのおおえのおうは、そうぼやいていた。

 この部屋には、彦人が一人だけいる。隣の部屋には、母親の広姫たちがいた。


 母親の広姫が命を(ねら)われていると知った昨日、彦人は妻の大俣(おおまた)王と自分たちの護衛を連れて広姫の屋敷に向かった。

 叔父の池辺王の話だと、屋敷の守衛や使用人の中にも敵のスパイがいるかもしれない。そう考えると、彦人は母親の身の安全が気が気でならなかった。

 そこで、昨晩、彦人は広姫と同じ部屋で寝ようとした。

 ところが、それにドン引きしたものがいる。他ならぬ彼の妻・大俣王である。

「彦人って、マザコンだったの・・・・!?」

 自分の妻にそう言われると、母親と一緒に寝る気も失せた。


「母親と一緒になれることは数少ないのに・・・・。」

 14歳の頃から母親の(もと)を離れて暮らしていた彦人は、どうしても広姫と一緒にいたかったのだ。

「へぇ~、ヒコちゃんって、マザコンだったんだぁ。」

「うるさい!母親の命が狙われている時に、近くにいないのは最大の親不孝だろう!」

 そう言いながら、彦人は声のする方を振り向く。

「え・・・・。」

「お久しぶりです。彦人ちゃん。」

「・・・・瀬織津姫(せおりつひめ)?どうして?」




「どうですか?美味しい?」

「美味しいです!義姉様(おねえさま)ありがとうございます!」

 押坂彦人大兄王の妹で、広姫の長女の逆登(さかのぼり)王が大俣王の料理を食べながら言った。

「お姉様って・・・・逆登王様の方が年上なのですから、もう少しくだけて下さった方が有難いです。」

「それじゃあ、大俣王様・・・・お兄様が、大俣王様にヤンデレになるのもわかりますね。」

 彦人大兄王は19歳、逆登王は16歳、大俣王は15歳だ。

「義姉様はいつも自分で料理を作られているんですか?」

 宇治王も言った。彦人大兄王と逆登王の妹である宇治王は14歳である。

「そんなわけないわ。いつもは使用人が作っているけど、彦人がたまに私の手料理を食べたい、というから少し勉強しているだけ。」

 そう言いながら、大俣王はこの部屋の主である広姫の方を向いた。

 広姫は、少し溜息(ためいき)をつきながら朝食をとっている。

 今、部屋には広姫とその娘の逆登王に宇治王、そして、大俣王の四人がいる。

 本来なら、朝ごはんは広姫の屋敷の使用人が作るはずだが、彦人大兄王が「この屋敷の人間の誰かが敵かも知れないんだ!料理人が敵とつながっていない証拠はどこにあるんだ?」と執拗に主張したので、大俣王が作ることにしたのだ。

「・・・・彦人は、心配性ね。」

 広姫が口を開いた。

「大俣王さん、今朝は料理をしてくれてありがとうね。昼からは菟名子(うなこ)に来てもらうから。」

「いえいえ、気にしないでください!彦人って、ああ見えて義母様(おかあさま)想いなんですね。」

「私の家に全く顔を出さないけどね。」

 そう言って、広姫は薄く笑った。




「もぅ、ヒコちゃん!愚痴ばっかりこぼさない!」

「だって、妻が俺を裏切って、母や妹と仲良く食事をしているんだぞ!なんで俺だけ仲間はずれなんだよ!」

「・・・・話を聴く限り、ヒコちゃんが悪いから。この屋敷で十年以上働いている料理人が毒を盛るわけ、ないでしょ?」

「そんなことわからないじゃないか!だいたい、母の命を狙う人間が王族の中にいるというのに――」

「もう、落ち着いて。・・・というか、何で私が貴方のなだめ役をしないといけないの?」

 瀬織津姫は「こんなはずじゃなかった」という顔をしながら、彦人大兄王の愚痴を聴いていた。彦人は瀬織津姫の腕にすがるようにして、泣きわめいていた。

「うん?そう言えば、どうして君はここにいるの?」

「あ、やっと気付いたんだ。」

「君は常世の国にいたはずだよね?わざわざ大和までどうして?」

「私ね、厩戸王の守護神になったの。それで大和に来たから、久しぶりにヒコちゃんにも挨拶しよう、と思って。そうしたら、声をかけた途端、泣きついてくるんだから・・・・。」

「あ、それじゃあ、守護神の仕事せずにこんなところにいて大丈夫なの?」

「私に泣きついているお前が言うな!」

「あ、すみません・・・・。」

「私は神だから、肉体はないの!肉体を持った人間みたいに、特定の場所で働きが制限されたりはしないの!」

「うん?その割には、声も聞こえるし、目も見えるし、腕を触ると感触もあるし・・・・。」

「それは、ヒコちゃんに霊感があるから感じ取ることが出来るだけ!というか――言いにくいんだけど、言っていい?」

「え?何?」

「人間の肉体で私の体を触らないでくれる?天人にとって人間の体は(けが)れだと知っているでしょ?」

「あ、ごめん!」

「あとね、もしかしたら知らないかもしれないから、念のために言っておくね。ヒコちゃんにとって私は女性かもしれないけれど、私は色界天だから基本的に性別はないの。」

「ええええええええええ!?」




「なんか、隣の部屋が騒がしいわね。」

「お兄様、久しぶりにこの家に帰ってきたと思うと、『仲間はずれにされた』とか言って隣の部屋で騒いでいるみたいだけど・・・。」

 大俣王と逆登王が、隣の部屋からの騒音に耳を傾けていた。

「きっと、彦人は神様と会話しているのよ。」

 広姫が、口を開く。すると、宇治王が「え?」という顔をして母親の方を見た。

「あの子は、昔から霊感があったからね。」

「・・・・お母さん?」

「うん?どうしたの?」

「もしかして、兄さんが話をしているのは・・・・女神様?」




「あ、本当に知らなかったんだ。」

 瀬織津姫は、仰天している押坂彦人大兄王に向かって、あくまですました顔で話をしていた。

「それじゃあ、どうして女性の姿をしているの?」

「ああ、ごめん。より正確に言うとね、性別がないというよりも、性別を超えているの。」

「うん?どういうこと?」

「なんと言ったらいいかなぁ・・・・う~ん、欲界の人間にもわかるように言うと、私たちにとって性別は職業というか、ファッションみたいなものなの。」

「・・・・わかったような、わからなかったような。」

「『神様も恋をするって聞いたけど』って、言いたいんでしょ?」

「どうしてわかったの?」

「私は神なんだから、わかるわよ。私たちの世界でも恋愛は男女同士でするものよ?ただ、昨日の男が明日は女になっているかもしれないだけ。」

「ええええええええええ!?なんか、気持ち悪い・・・・。」

「安心して。彼氏のいる女神が男になることはまずないし、彼女のいる男神が女になることもないわ。恋人のいないフリーな神様は気侭(きまま)に性別を変えることもあるけどね。」

「瀬織津姫には彼氏はいるの?」

「それは秘密・・・・さて、話を戻しましょうか?」

「神様もそういうのを隠すんだ・・・・。」

「ええと、アカラとかいう組織がヒコちゃんのお母さんの広姫さんを狙っているわけね?で、アカラにそれを依頼したのは王族の誰か、ということでいいかしら?」

「はい。」

「で、アカラとは別の部曲(かきべ)の物部氏の兵士にこの屋敷を守ってもらうよう依頼したわけね?」

「そうです。今日、物部守屋(もののべのもりや)殿がこの屋敷に護衛の兵士を連れてやってきます。」

「わかった。まぁ、アカラの方は天界からもできる限りの対策はやっておくわ。ところで、ヒコちゃん、貴方寝ていないでしょ?」

「あ、それもわかるんだ。」

「本気でお母さんを守りたいのなら、自分の体調をちゃんと整えておかないと。今日はもう寝さないね。」

 瀬織津姫がそういうと、彦人大兄王の体から眠気が噴き出してきた。

「うん・・・・ごめん、ちょっと仮眠をとるね・・・・・。」

 そう言いながら、彦人大兄王は眠りに入った。






「大王即位、おめでとうございます!」

 大和王朝の王族・豪族・官僚が押坂彦人大兄王に頭を下げて、各々祝賀の言葉を述べている。

(ああ、そうか、俺は大王に即位したのか。)

 そう思った彦人大兄王は、

(あれから、長い年月だったなぁ。)

 と、母親の命が狙われていたあの事件から、今日の即位の日までのことを思い出そうとしたが、思い出せなかった。

「お兄様、いよいよ私たちの時代ですね。」

 妹の宇治王が隣に立っている。

(あれ?どうして、大俣王じゃなくて、宇治王なんだ?)

 一瞬、疑問に思った彦人だが、すぐに「ああ、こういう時は妻じゃなくて妹が来るのか」と納得した。

「そうだな、新しい時代だ。兄妹で、新しい時代を築くんだ!これまでの古い制度を一掃した、新しい政治を実現させないと。まず、私たちがすべきことは――」

 ここまで言って、彦人は言葉が出て来なくなった。

(あれ?俺は大王になると何をやりたいんだったっけ?)

 すると、宇治王が言った。

「――そうです。私たちはまず、陰陽の調和を取り戻して、新しい時代を切り拓かなければなりません。」

「そう、陰陽和合の新時代を築くのだ!そのためには、陰陽のバランスを乱すものは排除しなければならない!」

「私たちは、既に陰陽調和を乱した元凶は、排除しましたよね?」

「いかにも!陰陽不和の元凶である――」

 ここまで言って、再び彦人は語るのをやめた。

 それは、先ほどのように言葉が出て来なかったからでは、ない。これ以上言ってはいけない、と思ったからだ。

「――陰陽調和の元凶である、自分の父親を殺したわけね?」

 ふと、宇治王ではない、別の女性の声がした。彦人は声のする方を振り向く。

「貴方は私のことをサイコパス扱いしていたけれど、そういう貴方は自分の父親を殺して大王の位に着いたのね。」

 声の主は、叔母の額田部(ぬかたべ)女王だった。その背後には、彦人大兄王の異母弟である難波王が控えている。

「兄貴、さすがだな。父親を殺して大王になるとは、前代未聞のことだ。」

 好き勝手に放言する額田部女王と難波王の話を聴いて、彦人大兄王は無性に怒りがこみあげてきた。

「お前らに何がわかる!この国が乱れたのもお前らのせいだろうに!」

 こう叫んだところで――彦人大兄王は、目が覚めた。






「彦人ちゃん、大丈夫?だいぶ、うなされていたけど。」

「せ、瀬織津姫・・・?」

「うふふ、神様と間違えて下さるとは、嬉しいわね。彦人ちゃんは、夢の中で神様と会っていたの?」

「え?」

 彦人大兄王は起き上がって声のする方を向いた。すると、見知らぬ女性が自分の方を向いて座っている。

「いいなぁ、私も夢の中で神様と会いたい。」

 え?瀬織津姫と会ったのが夢だって?

 いや、違う――と、彦人はわかった。

 瀬織津姫と会っていたのが現実(うつつ)で、父親を殺して大王に即位していたのが、夢だ。

 やけにリアルな夢だった。あの夢に比べると、「神様と会った」という話の方が余程夢に聴こえるが、そちらの方が現実(うつつ)なのだ。

 夢と現実とを整理したうえで、彦人は目の前の女性に聴いた。

「貴女はどなたですか?」

「あら、そうかぁ、私のことなんかもう、彦人ちゃんは忘れちゃったかぁ。」

 そう言った後、女性は座り直して姿勢を正して、言った。

「お父上・池田大王(いけだのおおきみ)様の采女(うねめ)をさせていただいている、大鹿(おおか)菟名子(うなこ)と申し上げます。」

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