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倭国は輝いていた  作者: 讃嘆若人
第一部
4/11

第四話 広姫立后

ここから読んでも問題の内容に、第一話から第三話のあらすじを掲載しました。すこし会話が増えます。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

<第一話から第三話までのあらすじ>


 古代、倭国は「九州王朝=筑紫朝廷」を中心とする連邦制国家だった。

 その連邦の一国である大和国は、欽明天皇の代より越を窓口として独自に高句麗と交易をおこなっていた。ところが、九州王朝の臣下であることを強調する敏達天皇(池田大王)の時代になり、大和は同じく連邦の一国である吉備国と共謀して高句麗の大使を暗殺してしまう。

 高句麗の使者からの報告でそのことは筑紫朝廷にも明かされるようになったが、事態を大事にしたくない皇太子・多利思北孤(たりしほこ)の方針で実行犯である吉備国の官吏一名のほかは誰も処罰されなかった。しかし、吉備の豪族出身の官吏が筑紫朝廷によって処刑されたことをきっかけに吉備国では権力闘争が激化する。

 そうした中、吉備国政府と筑紫朝廷はそもそものことの発端である大和国の官吏を吉備に出向させて調停役をやらせようと考えた。そして、池田大王の長男で九州王朝の血も引く大和大王家の押坂彦人大兄王に筑紫朝廷から使いが相談にやってきた。押坂彦人大兄王は父親(池田大王)が自分の叔母(額田部女王、池田大王の異母妹)に誘惑されて自分の母(広姫)が正室になれないことへの不満を語る。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「使いの方、青ざめていましたよ?」


 妻の大俣(おおまた)王が彦人大兄王に声をかけた。


「そうか、私は何も特別な要求をした覚えがないがな。」

「また意地悪なことを。叔母様の愚痴でもこぼしたんじゃないの?」

「あんな叔母、愚痴の一つや二つはこぼしたくなる。」

「年長者を敬わないとね。」

「年長者と言っても、私は18歳、向こうは22歳、年の差はたったの4年だ。」

「ちなみに、私は14歳。」

「綺麗に四歳差で並んでいるな。」

「運命の出会いは私が12歳の頃、押坂彦人さまが筑紫に来た際の一目惚れです。」

「その話はもういい!」

「お兄様の漢王(あやのきみ)に押坂彦人様が会いに来た時、たまたま私の姿を見かけて許嫁にと申し込まれたんですよね~。」

「まるで、私が幼女趣味の変態王族と思われるから、これ以上そういう発言は控えてほしい。」

「家の中だから言っているのですよ?」

「使用人の口から()れるかもわからんだろうに。」

「まぁ、12歳の女の子に押坂様が惚れられたという噂は、あっという間に倭国中を駆け巡り、私も鼻が高くなりましたけれど。」

「いや、それはちょっと、おかしくないか?」

「ウフフ、12歳で結婚の話が出ることはないわけではないとはいえ、遠い大和の国の王族から求婚が来るとはやはり珍しいこと。お友達にも自慢してあげましたわ。」

「あんた、俺と結婚する前に何をやらかしているんだ?」

「え?自慢しただけですわ?」

「そのせいで、私の評価はかなり下がっただろうな・・・・。」

「少女を愛するユニークな王族として名が売れたんじゃないの?」

「そんなことで名前を売りたくはないですね。」

「ところで、あの額田部おばさん、どんどん子供を産みますよね。」

(たけのこ)が生えるみたいに言うんじゃない。」

「筍よりも美味しそうよ?」

「は?」

「だって、長女が貝蛸(かいだこ)姫でしょ?」

「いや、その名前は俺も突っ込みたかったよ?あの女、自分の娘を食い物か何かと勘違いしているだろ、絶対。」

「聴くところによると、貝やタコが叔母様の好物だったから、そういう名前にしたそうですね。」

「それは酷い!というか、子安貝の事じゃないんだな。で、それどこ情報?」

「井戸端会議で入ってきますよ。女だけの情報網ですね。」

「大王の妃をそこまで悪く言って、よくぞまぁ、不敬罪が適用されないものだ。」

「少なくとも、私は大丈夫よ。いざという時には夫が守ってくださるからね。」

「おい!最初から私を巻き込むつもりで言うな!」

「そして、長男は竹田王。そして、今、三人目の子供がお腹の中にいるそうですよ。」

「そりゃ、私の母も子供は三人産んでいる。」

「あ、そうか。それはともかく、ちょっと最近、大王様は叔母様に熱を入れすぎですよね。」

「近親相姦に熱を入れるどうしようもない親父だ。あんな女に誘惑される程度の人間が大王だぞ?信じられるか?」

「まぁまぁ、過去にはもっととんでもない大王がいたそうですからね。」

「自分の父親だからこそ、許せないものがある。」

「そうそう、今日の夕食は貝に(たこ)の海鮮焼きです!」

「本当か!」

「ええ、海鮮焼きと言っても、伊勢から取り寄せた干物ですけどね。使用人に特別に頼んで調理してもらうことにした。」

「そういえば、大和では海産物では干物しか食えないなぁ。」

「私の故郷・筑紫では、刺身に塩焼きに食い放題なのにね。」

「まぁ、無理を言っても仕方ない。有難く夕食を頂くぞ。」




 翌日、押坂彦人大兄王は叔母の額田部女王に呼ばれた。

 寝台の上に、長女の貝蛸姫と一緒に居る。


「ごめんなさいね、わざわざ呼び出して。私、ちょっと妊娠中だからあまり動けなくて。」

「いえいえ、叔母さんこそご自愛ください。」


 そういいつつ、彦人は内心は冷や汗がだらだらと流れている状態だ。昨日の会話が漏れたのか?ここに貝蛸姫がいるのも何かの嫌味のような気がする。


「おじちゃん!久ぶちり!」


 まだ、数えで4歳の貝蛸姫が挨拶してきた。


「え?貝蛸(かいだこ)ちゃん、私は君の叔父さんじゃなくて、従兄(いとこ)なんだよ?」

「いとこ?」

「そう!まだ18歳でおじさん扱いは心外だなぁ。」

「私は10代にもなる前から『おばさん、おばさん』と言われていましたけどね。」


 額田部女王が口をはさんだ。


「あ、はい、すみません。」

「いえ、私も大人だから子供の頃みたいにいつまでも喧嘩なんかしないわ。それに、どうせ喧嘩するのであれば口汚く言い合うよりも、もっと上品に行きたいわね。」

「上品な喧嘩?」

「せっかく、縁あって叔母と甥の仲なんですから、喧嘩なんかせずに一緒に楽しく遊んだほうがいいと思わない?」

「はぁ。」

「遊びながらの真剣勝負――これぞ、王族にふさわしい娯楽よね。」

「そうなんですかねぇ。」


 一体、武道の試合でもするつもりだろうか?いや、額田部女王は女性だから武道なんかしないよな?と、押坂彦人男大兄王は相手の真意を測りかねる。


「賭け事よ。結果は神のみぞ知る真剣勝負、王族同士の試合にこれ以上ふさわしいものはないわ。」

「賭け事!?何を賭けるんですか?」

「あら、私と一緒に遊んでくれるのね?有難いわ~。」


 目で「断るのはなしよ?」と言いながら、額田部女王は微笑(ほほえ)む。


「今、私のお腹の中にいる赤ちゃんが女の子であれば、貴方に差し上げます。しかし、男の子であれば、貴方は私達母子(おやこ)の言うことを聞いてね?」








 10月9日、蘇我馬子は池田大王の呼び出しを受けた。


「申し訳ないが、君には暫くの間、吉備に行ってもらうことになった。吉備は大和とは昔から仲が良く、君みたいな優秀な人材に来てほしい。このことは筑紫朝廷からも重ねてお願いがきている。」

「そうですか・・・。」

「君の仕事は、吉備にある屯倉(みやけ)を拡大することだ。要するに、大和の大蔵として我が国の財政を預かっていたその能力を、吉備の財政の好転に活かしてほしいということだ。」

「承知いたしました。ところで、お願いがございます。」

「何かね?」

「赴任する前に、姪に会わせていただきたいのですが・・・・。」


 ここでいう馬子の姪とは、額田部女王のことである。


「おお、そうか。わかった、出発の前に彼女と会ってやれ。」


 大王がそういうと、馬子は礼を言って退室した。


「それで、叔父様が来られたわけですね。」

「そういうことだ。調子はどうだ?」

「妊娠が分かってから体には人一倍気を付けています。」

「そうか。何か最近、変わったことは?」

「可愛い甥っ子と賭けをしたわ。」

「甥っ子?」

「ええ、押坂彦人大兄王と賭けをしたの。」

「押坂彦人か・・・・・。彼は手強いぞ?」

「私を誰だと思っているの?楽しみながら利益になることしかやらないわ。」

「一体、何をしたんだ?」

「私の子供が男の子か、女の子かで賭けをしただけ。男の子なら私たちに服従、女の子なら向こうの妻に差し上げる、ってね。」

「なるほど・・・・。」

「というわけだから、安心して吉備に向かってくださいね。年が明けるころには赤ちゃんも生まれるでしょうから、その時は伯父さまにとっても楽しいことになっているわ?」

「そうか・・・。ありがとう。」


 そういうと、馬子は部屋を出ていった。








 587年(勝照3年、敏達天皇4年)の1月9日、池田大王は広姫を正室とした。

 これにより、広姫は大和のファーストレディーとして認知されるようになった。


「あらら、あっさり決まっちゃいましたね。」


 大俣王が、わざとらしく拍子抜けしたような声で押坂彦人に話しかける。


「落ち着くべきところに落ち着いただけだよ。」


 彦人大兄王はニヤニヤと笑いながら言った。


「だけど、額田部女王の産んだ子供が男の子だったら、どうするの?」

「アハハ、そうはならないよ、きっと。」

「え?どうしてそう断言できるの?」

「まぁ、直感だな。私があんな女に負ける訳がないでしょうに。せいぜい、楽しんだらどう?という感じだよ。」

「前から思っていたけれど、あなたって、凄い自信家。」

「確かに、君を妻に選ぶ程度には人を見る目には自信があるね。」

「ねぇ、義叔母(おば)様は三人も子供を産んだけれど、私はまだ一人も生んでいないわね。あんな女に負けるとは、悔しいわ。」

「おい、お前はまだ15歳、子供がいなくて当たり前だろうに。」

「古記録を読むと、10歳ぐらいで子供を産んだ女性もいるそうで――」

「それは極端な例ですね、はい。」

「だいたい、19歳にもなって子供がいない男もねぇ。」

「いやいやいや、そんなに私に子供がいないのおかしいか?逆に、それが普通だと思うよ?」

「まぁ、いいです。ところで、あなたは義父(おとう)様が異母妹を側室にしたことに文句を言っていたけれど、それ、あなたが言えること?」

「うん?」

「私という妻がいるのに、おば様が女の子を生んだら側室にするという賭けをするって・・・・。しかも、その子の父親は大王様でしょ!?最初から異母妹相手に浮気する気じゃないの!」

「だから、あれは、事故なんだって!あの場で、あのおばさんに逆らえるかよ!だいたいなぁ、さすがの俺も、まさか自分の子供を賭けに使うとは想定していなかったんだよ!」

「確かに、あの叔母さん、サイコパスですね。」

「だろ!?だが、そのサイコパスでも私の母が正室になることを妨害できなかったんだよな。ハハハ、いくら自分の子供を賭けたところで、私には勝てねぇよ。」

「一体、大王様に何を吹き込んだのですか?」

「異母妹を正室にすると本格的に気色悪いぞ、と言ってやった。」


 押坂彦人大兄王は蘇我馬子の留守中に、父親に自分の母を正室にするよう説得していたのである。


「ふ~ん。そういや、大和に来てから古記録を調べてみると、この大和の大王家では過去に異母妹どころか同母妹と結ばれようとして失脚した太子がいたそうですね。」

「あんた、そういうことばっかりよく調べているなぁ。」

「昔のことを調べるのは私の趣味です。」

「王族の女性らしい道楽だな。私にふさわしい最高の女だ。」

「私の夫は、まだ結果が出ていないサイコパスとの賭けに勝ったつもりになってドヤ顔している、最高のナルシストですね。」




「広姫様、立后おめでとうございます!」


 広姫の部屋に、池田大王の側室の一人である菟名子(うなこ)が挨拶に来た。


「ありがとう。これからも、これまで通り仲良くしていきましょ。」


 そういう広姫は、同じ部屋にいる自分の娘と菟名子の娘を見まわした。

 広姫には娘は二人、菟名子にも二人の娘がいる。当然のことながら、四人とも池田大王の娘だ。

 広姫の長女は16歳の逆登王(坂騰(さかのぼり)王)、次女は14歳の宇治王(宇遅(うじ)王)である。一方、菟名子の娘は長女が10歳の布戸姫(ふとひめ)、次女が7歳の糠手姫(あらでひめ)であった。


「押坂のお兄様は来ないの?」


 布戸姫が()いた。


「私もお兄ちゃんに会いたかったなぁ。」


 糠手姫も同調する。


「ごめんなさい。お兄様は自由人だから、中々帰ってこないの。」


 逆登王が言った。


「というか、あいつは自分の妻にヤンデレですものね。」


 広姫がそう言いながら微笑む。


「ですが、彦人様も広姫様のことを慕っておいでなのでしょう?この度のご立后も、彦人様のご意向が働いたとお聞きしました。」


 そういう菟名子に、広姫はあっさりと答えた。


「あの子がいなくとも、夫は私を正妃にしていたわ。」

「そうなんですか?」

「ええ、大王の位についた以上、私を差し置いて自分の異母妹を正妃にはできないわ。これまで私を正妃にできなかったのは、大臣(おおおみ)のせいね。」

「まぁ、ですが、その大臣を吉備に派遣させたのが彦人様との噂です。」

「そうねぇ、確かに、あの子は自分の願望を実現させる力があるわねぇ。あの子の話を聴くと不思議に巻き込まれちゃうみたい。」

「巻き込まれる?」

「ええ、あの子のペースに巻き込まれちゃうのよね。九州から小さい女の子を連れてきて妃にするなんてことも、あの子じゃないとできないことでしょうね。」

「彦人様って、何か常人にはない力をお持ちの気がしますけれども、ちょっと心配になるのですよね。」

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