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倭国は輝いていた  作者: 讃嘆若人
第一部
11/11

第十一話 夜襲

一年以上前(去年の5月7日)から書きかけていた話です。いい加減公開しないといけませんね。

更新遅れてすみません。

 迹見赤檮(とみのいちい)は、物部氏の兵士たちに挨拶していた。

 その時に、襲撃は起きた。

 襲撃とは言っても、誰かが襲われたわけでは、ない。甲冑を身に着けた集団が屋敷の塀をよじ登っていることを、兵士の一人が気付いたのだ。


「敵襲だ!」


 大声で兵士が叫ぶと、物部氏の兵士たちも臨戦態勢になる。


「バカな!甲冑を着たまま、塀を登るとは!」


 迹見は、敵の奇襲に唖然としていた。だいたい、敵がここまで近づいていたのに気付かなかった自分たちは大丈夫なのだろうか?とも思う。

 次の瞬間、迹見は屋敷の方に向かって走って行った。直ちに広姫と彦人大兄王を守らなければならない。

 既に塀を超えた敵が数人いた。甲冑を着たままであるにもかかわらず、足が速い上に足音も小さい。


「敵が攻めてきた!」


 迹見は大声で叫びながら、広姫たちの部屋に向かう。


 幸か不幸か、迹見たちが襲撃に気付いた時点で、既に中に侵入していた数人の敵兵以外は、全員が素早く撤退した。

 無駄に戦力を投入するよりも、効率を優先するアカラらしい戦い方だ。

 物部氏の兵士たちは60人ほど待機していたが、念のために20人を外に残し、40人を屋敷の門の中に入れて既に侵入した敵兵を追った。


「生け捕りにせよ!」


 迹見は大声で命じる。


赤檮(いちい)!ここだ!」


 部屋の中から主君の叫ぶ声がしたので迹見はあわててそこに向かう。


王様(みこさま)!」


 二人の兵士相手に押坂彦人大兄王が一人で戦っている。後ろには彼の母親と妹と妻がいた。

 迹見は部屋の入り口で弓を構える。そして兵士の一人の首筋に向かって矢を射た。


 ドズッ!


 兵士の一人が崩れ落ちる。

 するともう一人の兵士が無言のまま振り返りこちらに飛び移ってきた。


 ゴンッ!


 敵の(やいば)を迹見は自分の(かぶと)で受け止めた。相手の動きがあまりにも素早すぎてこれができる最大の防御だった。


(みこ)!生け捕りに!」


 そう言いながら迹見は敵と刃を交える。

 すると、いきなり敵の姿勢が崩れた。


「さすが王様!」

「・・・・よし、お前には色々吐いてもらうぞ。」


 彦人は自分が足の腱を切って倒れた兵士を眺める。


「俺たちの命を狙ったんだ。寛容な処分は期待しない方が良いな。」

「これで黒幕が誰かを探れますね。」

「ああ、大伴部の精鋭部隊を勝手に動かした奴が誰かを突き止めなければならん。」

「・・・・私は絶対に口を割らんぞ!」


 捕虜になった兵士が突然喋った。


「そうか、それを解部(ときべ)(註1)の取り調べの際にも貫ければあっぱれだな。」

「大伴部の私が物部の如き国栖(くず)(註2)の手先相手に口を割ると思うな!」

「口を割らなければ拷問の途中で死ぬまでだ。」

「どうせ生かす気はない癖に。」

「それは解部の判決次第だな。残念ながら大王家のものと言えども解部の判決に一々干渉するほど暇ではないのでね。」


【註1:物部氏の部民。大和王権において裁判や刑事を担当した。】

【註2:吉野の先住民。転じて、神武東征以前から大和に住む人達への蔑称。】


 戦闘はすぐにケリが付いた。状況不利と見ると敵の兵士はすぐに逃亡したからである。

 数人の捕虜は解部による激しい尋問に晒されることになる。




「一体、私に何の用だ!」

「大后・広姫様の舎人、五百山殿。汝を解部まで呼び出したのは他でもない、今回の襲撃には内部の人間からの情報漏洩があることが明らかになった。心当たりがないかと聞いておる。」

「無いな。」

「屋敷の守衛の責任者は汝であるぞ?」

「だからどうしたのだ?私は知らん。」

「それでは仕方ない。多少の拷問は覚悟せよ。」


 五百山清道は解部で激しい尋問を受けた。


「――で、それでも口を割らないと?」

「そうだ。さすがにこれ以上拷問にかけるのは可哀想だから釈放してやったが、だとすると本当に彼の知らないところに内応者がいたかもしれない。」

「そうか・・・・。」


 物部守屋からの報告に彦人は暫く考える。


「使用人を一掃するしかないかな・・・・。」

「それは思い切った決断を・・・・。」

池辺(いけのへ)王のアドバイスだ。」

「池辺王様ですか・・・・。」

「どうした?」

「いえ、何も。ただ彼がどこまで味方であるかは(いささ)か怪しいとは申し上げます。」

「どうしてだ?」

「池辺王様は大王の高御座(たかみくら)を狙っている可能性があります。」




「汝は何の用で私の下に参った?神の道を知りたいのか?」

「ええ。私は自分が神に見捨てられたのではないか、との疑念を棄てることができないのです。」

「ふむ、神の怒りでも買ったのか?」

「わかりません。しかし、あまりにも理不尽な目に遭いました。」

「どうしたのだ、申してみよ。」

「実は――」


 中臣勝海は目の前の男の身の上話を聴くと微笑みを浮かべながら言った。


「汝、善をなせばよかろう。」

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