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異聞・妖刀百物語  作者: 痴れ者ラボ
月に叢雲花に蟲
29/76

蜈蚣・四




 宵の口、午後八時を回った頃か。


 日はすっかり暮れて、冬の寒空は雲一つ無く弓張りの月が荒野を照らしだしていた。

 昼間は雪が降っていたからか、道のそこかしこに積もった雪が散らばり、寒々とした空気を更に冷やしているようである。

 いや、刺すような冷たい空気は厳しい冬だからというだけではないだろう。

 “儀式”が始まるとされた時間を迎えた一行は、買い物に出たきり戻って来なかった老人を不思議に思いながらも、町へと繰り出していた。

 日本では馴染み無い、荒野での夜は非常に冷える。

 しかし漂う刺すような冷気に陣太郎は、あるいは悟郎も幾度となく感じた気配が混じるのを感じて息を飲み、程なく“偽りの聖地”へと続く町の大通りに出た時絶句に変わるのであった。


「な……」

「む、う」

「コレ……ハ?!」


 三者三様に言葉を絞り出しながら、現実である事を確認した景色。

 恐らくは町の者であろう人々は、皆手に松明を持ち、夢現に彷徨うといった格好でフラフラと町の中央へ向けて歩いていたのだ。

 ――すべての者が、ワニの頭部を持つ半獣人のような姿で。

 彼らの体はまごうこと無く人間で、その証拠にあるものはコートを、またある物はパジャマ姿で重そうな頭に背を丸めユラユラと体を揺すり歩いて居た。

 その姿に始めは陣太郎もエミリィもただの仮装であると見て取っていたのだったが、よろよろとした歩みを見せる町の人々の中、幾人かが引きずるようにもっていた牛や豚といった家畜の死骸に群がり貪る姿を見て、それがただの仮装などでは無いと判断がついたのである。

 人々は理性が残っていないのか、自分達と違う姿の生き物はエサと判別するようで、進行方向にいた人慣れて居るペットの犬などを手当たり次第に襲い喰らっているらしい。

 町のあちこちから悲痛な犬や猫の叫び声が響いて、それが突如出現した目の前の“異世界”の全てを物語っていた。


「これって……常世……」

「エ?」

「陣太君?」

「あ、いえ。“儀式”はヴィメクラクとかいう神様に捧げ物をすると言った代物でしょう? いつもなら只の“儀式”で済むんでしょうが、今回は“本人”が甘菜を使ってここにいますから」

「……そうか。神威でなく神そのものが顕現するならば、そこは現世と常世が混じる世界となる、と言う訳か」

「ええ。俺、何度か現世と常世が混じる世界を体験したことがありますけど、丁度“こんな”感じでした」


 言って陣太郎はきゅっと口の端を結んだ。

 少々いつもと違う雰囲気なのは、その恐ろしさを身に沁みて知っているからか、それとも――


「……ならば話は早い。この先の“偽りの聖地”にはきっと甘菜がいるだろう。問題は……」

「アノ、ワニの頭のモンスター、ですネ」

「そうだ。彼らは皆“偽りの聖地”――町の広場に向かっているようだ。が、どうやら理性は残ってはいないらしいね。目に入った他の生き物を襲うようだが、さて、どうやってやり過ごしたものか」

「久留間をツカウのは?」

「ああ道一杯に広がって歩かれては、跳ね殺しながら進まねばたどり着けそうに無い。それに彼らは“儀式”が終われば元に戻るかも知れないし」


 大通りから少し離れた路上で、ふむ、と考え込む悟郎。

 周囲からは異形と化した町の者が近寄って来る気配は無い。

 彼らは積極的に獲物を探してまで襲おうとしないのか、距離を取り視界に入りさえしなければ大丈夫のようである。

 とは言え、恐らくは街中の者が“偽りの聖地”を目指していると考えられ、逃げるのは容易いものの彼らに見つからぬようそこへ行くのは至難であるのは言うまでも無いだろう。

 悟郎とエミリィは巧い手を考え出せず、どうしたものかと考え込み始めたその時。

 夕刻から何やら思い詰めたような仕草を見せていた陣太郎が、意を決したように口を開いた。


「俺が行きます」

「何か考えがあるのかね?」

「ええ、まぁ……」


 言葉を濁し目を背ける陣太郎。

 しかしその態度からはなにやら確信めいたものを悟郎は感じ取っていた。

 いつからか、は見当も付かないが、どうやらこの状況についてある程度知り得ていたらしい。

 いや、それどころか対処法まで知っているかのような態度である。

 だがその内容を口にするのを避けているのはどういった理由か。


「……言えないなら、全て終わってから説明してくれるかね?」


 悟郎はそんな陣太郎を問い詰めるような事はしなかった。

 彼もまた天之麻に連なる者である。

 神威に触れてきた者が突然、何かしら胸に秘める物を得るのは珍しい事では無いと良く理解していた。

 何より目の前にいる頼りなさげな少年は、天之麻を祟る強い神威の持ち主なのだ。

 一方、静かな悟郎の言葉に陣太郎は何も問い詰められなかった事に驚きながらも、今度は真っ直ぐに視線を合わせ短く強く頷いた。


 そんな二人の様子を見ていたエミリィは、ふと悪い予感を胸に抱いてしまう。

 ――陣太郎はあの夜に見せた、あの不思議な力でも使うつもりなのだろうか。

 エミリィはそんな事を考えながら、それならば大丈夫かも知れないと思いながらもこの時、なぜか強く引き留めたい衝動に駆られた。

 理由はよくわからない。

 だが陣太郎が危険を冒してなにかをやろうとしている事はなんとなく理解していたので、それがたまらなく不安に感じたからだろう。

 気が付いた時には引き留める台詞を口にしていた彼女であった。


「ダメ、です。ジンタロウチャン」

「エミリィ?」

「アブ無い、イッテは、ダメ」

「……大丈夫だよ。前にも同じ位ヤバい状況を潜り抜けた事……あったっけ?」

「さあ? 甘菜から聞いた範囲では“橋姫”に向かっていった事は自殺行為だと思ったかな」

「あは、はは……」

「……イヤな予感が島す。ジンタロウ、チャン。イッテは、いけな増せン」

「でも、行かなきゃ。甘菜が待ってる」

「アブ無いんデスよ?! 死ぬかもシレないのにイクのデスか?!」

「ああ」


 陣太郎の即答に驚いたのか、それとも思いの外興奮してしまった自分に驚いたのか。

 エミリィは思わず言葉を失い、泣きそうな表情を浮かべて唇を噛んでしまった。

 その胸に渦巻く激情は、罪悪感であるのか燃ゆる乙女心であるのかは本人だけが知る所である。

 寒空の下、しばしの気まずい空気が流れたが状況が状況だけに陣太郎にはエミリィを宥める時間は与えられてはいない。

 そんな彼に助け船を出すようにして、悟郎は徐に持っていたジュラルミンの鞄ケースを開いてその中身を陣太郎に刺しだしたのだった。


「持って行きなさい」

「え? あ、これは……」

「天之麻神社に伝わる最初の一振り、“天目一命”(アメノマヒトツノミコト)。きっと役に立つ。エミリィ君の事はまかせたまえ」

「……ありがとうございます」


 言われるがまま陣太郎は“天目一命”を受け取り、悟郎に礼を言った。

 頭を下げた時チラリとみたエミリィの表情は、月夜にあってもわからない。

 陣太郎は得体の知れない罪悪感を抱きながらも刹那の惑いを振り払い、“天目一命”を鬼目一“蜈蚣”を持つ手で重ねて持ち、徐にそのまま祟り刀である鬼目一“蜈蚣”を抜き放った。

 同時に神威の顕現として封じられた、左目が開く。

 その眼に瞳孔は無く、代わりに赤い百足が丸く蠢き、陣太郎の目の替わりとなっていた。

 抜き放ったソレは、刃長二尺六寸(約七十九センチメートル)、重ねは厚めで反りは古刀であるらしく浅い。


「……おじさん。ここに車を回して待っていてくれますか? 甘菜を取り戻してきます」

「わかった」

「――ジンタロウチャン、ワタシ!」

「いいんだ、エミリィ。心配してくれてありがとうな」

「違う! ワタシは――」

「じゃあ、行ってきます」

「ああ、気を付けて」


 エミリィの言葉を遮るように陣太郎は身を翻し、その背を悟郎は手短な言葉で送り出した。

 瞬間、陣太郎はだっと駆け出し、人というよりも狼かなにかと見まごうばかりの疾さで大通りの方へ駆け出したのである。

 その背をエミリィは見送りながら、流れる涙の理由を探していたのだった。



 本来の“儀式”とは、ヴィメクラクに生贄を捧げる物であった。

 伝統や宗教の為では無い。

 皆が皆、その恐怖に耐えきれず仕方なしに年に一度、部族から一人生け贄を選びその命を捧げていたのだ。

 そうで無ければ次の年、部族の多くの者がワニような姿に変えられ、より多くの死者が出たのである。

 この、ヴィメクラクによる祟りのような神威はこの部族にだけ降りかかり、白人達に土地を追われた後も続いていた。

 古来より続く恐怖に部族の者が感じてきた絶望は如何程の深さがあったか。

 だが希望が無かったわけでは無い。

 ヴィメクラクの伝説と共に、これを封じる術もまた部族には伝わっていたのだった。

 無論、人々はこれを用いてヴィメクラクを封じようとしたかったのだが、実行するにできぬ理由もまた存在していたのである。

 魔神・ヴィメクラクを封じるの必要なもの。

 それはより強力な“魔神”の力を利用した秘術と、秘術に見合う生贄であった。

 元々この部族は生贄を捧げて目的を成す秘術に長けており、ヴィメクラクに対してもそれに匹敵ないし凌駕する“代価”を用意できさえすれば秘術は完成する代物であったのだ。


 だが何時の頃からか判別もつかぬ太古からの呪いに匹敵するような力など、そうは手に入るはずも無く。

 長き年月の果て、彼らの元に訪れたのが鬼目一“蜈蚣”の持ち主であった臼木陣十郎であった。

 部族の窮状を知ってか、それとも己の望みを得るためか。

 かくして臼木陣十郎は“儀式”に際し、秘術を用いてヴィメクラクを封じたのである。


「……すげぇな、ご先祖様」


 呟きながら、陣太郎は襲い来るワニ頭の異形の牙からするりと抜け、風のように走り抜けていた。

 進む大通りは既に“偽りの聖地”に近いためか、かなりの数の異形と化した町の者達がいて、陣太郎の存在に気付いてか一斉に襲いかかって来ていたのである。

 彼らの動きは緩慢ではあったが人の体を持つ以上、服の先でも捕まりでもすればたちまちにそのワニの顎の餌食となろう。

 また、いくら体を鍛え身体能力が多少なりとも向上し、幾多の神威が作り出した死地を抜けて来たとて陣太郎も人である以上、全力で走り続けるには限界などすぐに訪れるはずでもあった。

 が、この時の陣太郎の動きはいつもとは明らかに違い、求めれば求めるほど力が湧き出てしゃがみ、跳躍し、走り抜けて今まで体験した事の無い程の疾さを伴って、前へ前へと進んで行くのである。

 ――ただ、感覚だけは覚えがあった。

 昨夜強盗を、飛んでくる銃弾を斬った時の、刃のように鋭利な感覚。

 その時は体が意思に反し勝手に動いていたのだが、程なくそれが鬼目一“蜈蚣”から流れ込んで来ていた、かつての持ち主の、その記憶と力だと理解したのはあの夢を見てからである。


「……こんな事できるようになるんなら、もっと真面目にじぃちゃんの修行、やっとけばよかったな」


 右手から躍りかかってきた異形を足場にし、宙高く飛んでワニの大口を開け着地を待ち構えて居た者を一つ、二つと足場にして更に跳躍しながら陣太郎はそう言って苦笑を浮かべた。

 まるで八艘跳びのような動きは羽根のように軽やかで、月夜高くその身体は舞う。

 人の領域を越えたかのような動きは、本当に自分の先祖は人であったのかとさえ思わせる物で、同時に陣太郎を大いに昂ぶらせた。

 しかし、何故今になって鬼目一“蜈蚣”の神威の顕現に、先祖の力が宿るようになったのか。

 その理由を夢見に教えられた陣太郎は反芻して高揚した心を鎮めるのである。


「――急がないと。“儀式”が終われば“秘術”も行えなくなってしまう」


 喉の奥でそう言って、陣太郎は更に疾さを求め、体は願いに応えた。

 ぐん、と加速する感覚と同時に、地を蹴る脚や上半身を支える腰から痛みが奔る。

 いくら先祖の力を再現できるとはいえ、陣太郎の体までは先祖と同じようにはいかないようだ。

 しかし陣太郎はお構いなしにもっともっとと疾さを求め、鬼目一“蜈蚣”に封じられていた力を取り出し続けたのだった。


 ――過去、臼木陣十郎が行った部族の“秘術”とは、鬼目一“蜈蚣”に宿る神威が望む代償をささげ、神威を現した“神”を再現し、その力を持ってしてヴィメクラクを封じる、というものであった。

 部族の“秘術”は如何にして神により宿された神威からその神を再現するのか見当も付かなかったが、はたして神――かつての鬼は再現されたのである。

 もっとも、この“秘術”は神威から完全にその神を再現できるわけでは無く、いうなれば模造品を作りその力の一端を得るだけのもののようで、再現された鬼は姿は無く、ただ生贄を望み力の代償にそれを要求するのだった。

 同時にこの再現された“神”もまた、返し矢の理を持つのか振るう神威に己自身も巻き込むようで、魔神を封じると同時に自身も封じてしまう運命を課せられるのである。


 果たして再現された鬼が望んだ生贄はかつて愛した天之麻の姫であり、それが得られぬのならば神威を顕現させる要素となる憎悪の対象を要求した。

 臼木陣十郎はこれに天之麻の姫の代わりとして“百合”を捧げようとしたのだったが、鬼はそれで納得せず、結局は陣十郎の魂をもって生贄としたのだった。

 かくして“秘術”は成就し、鬼はヴィメクラクを“百合”に封じ、陣十郎の魂は鬼目一“蜈蚣”に捕らわれることとなったのである。


「あれか?」


 異形と化した町の者達に前後左右から同時に襲いかかられ、一際高く跳躍して夜空へと逃れた時。

 “偽りの聖地”とされる広場が見えて陣太郎は呟いた。

 遠目に見える広場は特に整備されている風でも無く、草木も生えていないむき出しの大地を丸く柵で囲っているだけであった。

 特徴と言えばその中央に大きな立ち枯れた木が一本、モニュメントのように立っている位か。

 巨木は遠目にもどこか不安になるような不吉な枝振りで、しかし陣太郎は逸る心をそのまま脚に伝え地を駆ける速度を上げたのである。

 疾さは既に人の限界を超えているかと思える物であったが、祟り刀がそうさせるのか、それとも陣十郎の記憶がそうさせるのか、とにかくこの時の陣太郎は風のように無数の異形達の間を吹き抜けたのだった。

 同時に体中が軋み悲鳴を上げ、これ以上の力の行使は辞めるよう痛みを伴って警告を発する。

 しかし陣太郎は苦痛に顔を歪め冷や汗をかいて尚お構いなしに、地を蹴る脚へ込める力を緩めはしなかった。

 ここへ来て、一体何が陣太郎をそうまで昂ぶらせたのか。

 ――見えたのだ。

 巨木のたもとに、月光に照らし出された白衣と非袴が。

 ――確かに見たのだ。

 白刃を夜露に輝かせ、幽鬼のように立つ幼馴染の姿を。


「甘!」


 知らず漏れ出た叫びは何時の間にか、人混みのように密集して襲いかかって来る異形達の咆哮に掻き消される。

 “偽りの聖地”とされる広場まであと少しと言う所からか、街中から集まって来ていた異形達の姿は夥しい数となっており、視界を塞ぐかれらはすでに壁のような厚みをもっていた。

 ――そこを退けっ!

 逸る気持ちの前に立ちはだかれ、激しい怒りを覚えた陣太郎は、思わず手にした鬼目一“蜈蚣”を振るいかけた。

 しかしすんでの所で思いとどまって、もう一度だけ、強く跳躍を行う。

 跳躍は人の頭の高さすら飛び越さんばかりのもので、同時にとうとう体中の筋肉が壊れ始めたのか、ミリミリと不吉な音を立てて激痛が陣太郎を襲った。

 恐らくは次に着地した時、もはや空に逃れる力は残されてはいないだろう。

 その時こそ、いよいよ覚悟を決めて祟り刀を振るい血路を開かねばならない。

 出来れば斬りたくは無かった陣太郎であったが、甘菜と天秤に掛けるならば選択の余地など与えられてはいなかった。

 陣太郎はそのような覚悟を決め、落下しながら広場までの距離を測る。

 広場まではあと十メートルは距離があり、柵の中、恐らくは“偽りの聖地”の中には眼下の地面が見えないほど密集した異形達とは対照的に誰も足を踏み入れてはいない。

 ――なんとか、あと一度。

 高く跳べないまでも、ワニ頭達の合間を縫ってあの広場に駆け込めれば――

 必死に考えてしかし陣太郎は愕然としてしまった。

 浮遊感を失った落下の中、下を見ると異形達が所狭しとワニのように口を開け陣太郎の着地を阻んでいたのだ。


「こ、のおおお!」


 陣太郎は刹那にどうするべきか躊躇して、鬼目一“蜈蚣”のかわりに己の脚をワニの顎門へ突き立てた。

 瞬間、ぞろりと並んだ牙がトラバサミのように跳ね上がり、陣太郎の脚を挟む。

 同時に三度目の浮遊感が陣太郎の体を包み、視界は再び空高く流れた。


「がっ!」


 無我夢中で跳躍した後、陣太郎は地面にその体を叩きつけてうめき声を上げる。

 落ちたのはどうやら“偽りの聖地”とされる広場の中のようで、激痛に蹲る陣太郎であったが異形達に襲われる事は無いようだ。

 陣太郎は周囲を見渡し一安心しながらも立ち上がろうとして更に強い痛みを脚に感じた

 見ると、先程の跳躍時にワニの口の中に突っ込んだ脚が、まるで針山の中に突っ込んだかのようにボロボロになっている。

 縦に裂けたズボンは血で染まり、地面にも既に血溜まりが出来つつあった。

 いや、脚だけでは無い。

 無理をした為か全身の筋肉という筋肉が激しく痛み、少し動くだけで悲鳴が出そうな程の苦痛が間断なく襲ってきていた。


「ぐ、う、う」


 しかし陣太郎は獣のようなうなり声を上げ、その場に立ち上がる。

 信じられぬ程の激痛を、意思が凌駕しているからこその行動であろう。

 幸い最も出血の激しい右足は裂傷が数多くあるものの、未だ歩行するだけの機能は残っているらしい。

 陣太郎はそんな右足を引きずるようにして、一歩に満たぬ半歩、また半歩と繰り返し前に進み始めたのである。

 甘菜がいる巨木まで距離はそれ程開いてはいなかったが、陣太郎にはこれまでの道程よりも長く感じられた。

 やがて見えるのは、既に懐かしさすら覚える少女の巫女装束姿。

 幼馴染みは巨木の根元に立ち、手に抜き身の“百合”を携えたまま、ボロボロになった陣太郎が近付いてくるのを身動き一つせず見ていたのである。


「へ、へへ……待たせたな、甘」


 やっとの思いで甘菜の前に立った陣太郎は、そう言って笑った。

 だが甘菜からの返事は無い。

 彼女の背後の巨木は大きな岩の上、まるで根がこれを覆うようにして立って、禍々しく月光に影を刺している。

 その岩こそが“偽りの聖地”の中心である、精霊が集うとされた巨石なのだろう。

 それらのたもとに立つ甘菜の美しい顔は、巨木と同じく月を背にして居る為か闇に沈み、意思の所在は感じ取れなかった。

 辛うじて見て取れたのは、日本からアメリカまでどうやって来たのか、白衣も緋袴も薄汚れ所々が破れている甘菜の格好である。


「今、助けてやるからな」

「ウウ……」

「大丈夫、“秘術”は簡単さ。この場所こそがその為の神威が満ちた土地なんだから」

「ヤメ……ロ」


 ゆらり、と甘菜の体が揺れる。

 一拍間を置き、烈火のような斬撃が横薙ぎに放たれた。

 しかし不意打ちの剣は空を斬る。

 陣十郎の技量によるものであるのか、ボロボロの体にもかかわらず横一閃の攻撃を躱し、甘菜を抱きかかえるようにして間合を詰めた陣太郎であった。

 陣太郎は目と鼻の先に甘菜の顔を置きながら、“天目一命”と鬼目一“蜈蚣”の鞘を持った手で“百合”を持つ彼女の手を押さえつける。

 ――ムダじゃ

 口の端を上げ、甘菜の中に居るソレにそう言って笑いかけたのは陣太郎では無い。

 甘菜が“百合”を抜き、魔神を解き放ったと同時に鬼目一“蜈蚣”の中で目覚めた臼木陣十郎その人である。

 かつて捧げられた魂は神威と呼ぶにはあまりに非力で、精々、抜くべきで無い時に抜こうとした鬼目一“蜈蚣”を抜かせぬようにする事が精一杯ではあったのだが。

 しかしその力は魔神と同じく“偽りの聖地”に近付くにつれ強く顕現し、モーテルで、老人の家で、大通りで陣太郎の手助けとなっていたのだった。

 ――さあ、始めようぞ。鬼はわしが顕現させてしんぜよう。“間違えるな”よ? 鬼に差し出す贄を、な。

 甘菜を押さえつけながら、自分の口から発せられる自分でない者の台詞に陣太郎は頷いた。

 同時に激しい敵意と憎悪、そして“橋姫”の時と同じく、否それ以上に強く禍々しい神威の気配が辺りに満ちる。


「“蜈蚣”、お前が欲しい物はなんだ?」


 陣太郎の叫びに、敵意と憎悪は増幅しながら混じって一つの意思となった。

 返答は百年前と同じ。

 ――天之麻の姫。

 応じたのは空気を振るわせるような、低く不快な風鳴りの音であった。


「それは無理だ。お前が欲しい天之麻の姫は既にこの世にはいない」


 轟、と突風が吹く。

 それは陣太郎へ向けられた鬼目一“蜈蚣”からの怒りであるのかもしれない。

 怒りは相当激しい物であるらしく、鬼目一“蜈蚣”を握る右手からぞわりと無数の赤い百足が湧き出て、そこら中を這い噛みつき始めた。

 だが陣太郎は構わず鬼目一“蜈蚣”を握りしめ、後に引く。


「慌てるな、“蜈蚣”。お前に捧げられる生贄は、天之麻の姫でなくともここにあるぞ」

「ウ……ヤメ……」

「……甘、今楽にしてやる」

「オネ……ジン、チャン……」

「――お前、甘、か?」

「ダ、メ……ヤメ……テ……」


 台詞は魔神の虚言なのか甘菜の物なのか、わからない。

 しかし陣太郎は確かにその動きを止めて、じっと甘菜の目を見つめた。

 先程までは月光を背にしていた為表情は見えなかったが、鼻の先が触れるほどの距離にある今ならばその瞳だけはよく見えた。


「甘、もう少しの辛抱だ」

「イ、ヤ」

「……あ、そうだった。俺、さ。甘に言おうと思ってた事、あったんだ」

「ヤ……メテ」

「えっと、な? 実は俺、お前の事、その……好きなんだ」


 言って陣太郎は照れながらニコリと笑い、掠めるように甘菜の唇に自身の口を重ねてから、思い切り鬼目一“蜈蚣”を持つ右手に力を籠めた。

 そして刃はかつて陣十郎がそうしたように、生贄の肉に食い込むのである。

 しかし陣太郎が捧げたものは、自分自身ではなく――

 あろう事か刃は甘菜の胸に突き立てられたのであった。


 ――オオオオオオ!!


 おぞましい獣のような雄叫びが風となり“偽りの聖地”に満ちて渦を巻き、月が照らす夜空に舞い上がって行く。

 しかしそれもすぐに収まり静寂が戻った頃、陣太郎が甘菜から鬼目一“蜈蚣”を引き抜くと、彼女はそのままゆっくりと横倒しに倒れてしまった。


「甘!」


 手にした鬼目一“蜈蚣”を地に突き立てながら陣太郎は、慌てて倒れた甘菜の元へ駆け寄り抱き起こす。

 はだけかけた白衣から覗くふくよかな双丘の根元には、まだ痛々しく刃を突いた傷跡が見えたが、陣太郎の目の前で綺麗に塞がっていき、やがて滑らかな谷間だけが安らかな寝息に合わせ上下し始めるのであった。

 陣太郎はほっと胸をなで下ろし、甘菜を優しく抱きかかえたまま先程地に突き立てた鬼目一“蜈蚣”に目をやる。

 ――ようやったの。

 耳の奥、語りかけてくるのは臼木陣十郎の魂であった。

 精霊が集う“偽りの聖地”の力が働いているのか、囁くような言葉はよく聞き取れた。


「……あなたの言うとおり、でした」

 ――むふ、じゃろ? わしの時は“百合”しかなかったが、今回は天之麻の姫に連なる者がこの場におるでな。多分大丈夫じゃと思ったがいや、よかった、よかった

「多分!? 多分ってそんな――」

 ――よいではないか、結果として共食いに成功したのじゃから。“蜈蚣”は彼の魔神を“生贄”とし、自身と共に封じたんじゃ


 自身の決死の行動が、実は陣十郎のあやふやな推測の上でのものであったと知り、今更ながらに慌てる陣太郎。

 そんな彼を陣十郎の魂は可可と笑い、その決意を労った。

 陣十郎の推測とは、天之麻の姫に恋い焦がれて祟る鬼目一“蜈蚣”は、決して天之麻の巫女を傷つけはせず、甘菜を斬った場合魔神のみを討ち滅ぼす、という代物だった。

 そしてそれは、先程陣太郎の目の前で証明され、おぞましい筈の神威は彼女の傷を癒す奇跡として顕現したのである。

 こうして“秘術”は成就し、鬼目一“蜈蚣”の祟りは魔神と共に封じられたのであった。

 その証拠に先程まで陣太郎の半身を覆う勢いであった無数の百足は綺麗に消え去り、何時の間にかあの強い神威の気配もまた消え去っていた。


 ――刻限じゃの。わしもそろそろ、成仏するとするか

「……色々とありがとう、ございました」

 ――何、気にするな。もとはと言えば、わしの撒いた種じゃ

「百合さんによろしくお伝え下さい」


 言葉に陣十郎はむふ、と笑いそれきり語りかけてくることはなかった。

 陣太郎は夢で見た百合と陣十郎の収まりの良い姿を思い出しながら、自身も甘菜を連れてこの場を去るべく声を掛けようとした。

 そこでふと。

 目に入ったのは左手に持っていた鬼目一“蜈蚣”の鞘がボロボロに朽ち果て崩れて行く様。

 慌てて視線を地に突き立てていた鬼目一“蜈蚣”に向けると、その刀身から無数の赤い百足が湧き出て、刀全体に広がり己を喰らう姿が見える。


 一体何が――

 そう思った時。

 不意に、鬼目一“蜈蚣”に群がっていた百足の群れが煙のように陣太郎へと飛びかかってきた。

 思わず握っていた“天目一命”を翳し、目を瞑る陣太郎。

 同時に、パン、という破裂音。

 陣太郎が恐る恐る目を開くと、翳した“天目一命”が淡い光りを帯びて、何事も無かったのように飛びかかってきていた筈の百足の群れが消え去っていた。

 同時に、鬼が打ちし刀百振りの最後の一本は、陣太郎の目の前で己の神威の形により跡形も無く喰い尽くされてゆく姿が見える。


 ――精進せいよ


 遠く、微かに。

 しかしハッキリと呆れたような声が聞こえた気がした。

 何が起きているのか理解出来ぬ陣太郎は、手元に残った“天目一命”を握りしめ、甘菜を再び抱き起こしたのである。


 こうして“儀式”の幕は降りたのだった。



「試験、どうだった?」


 春、高校最後の年。

 二年以上通いなれた学校からの帰り道、陣太郎は甘菜の問いにうっと言葉を飲み込んだ。

 試験とは、新学期が始まって早々の学力試験の事である。


「春休みあんだけ勉強見てあげたんだもの、最低でも八割は取ってるよね?」

「いや、あの、はは……流石に八割は欲張りすぎじゃないか?」

「なんでよ? 國學院の文学部に行くならそれ位余裕で取らないと厳しいよ?」

「文学部って、それ國學院で一番の難関じゃねえか!」

「そうだけど?」

「そうだけど? じゃないって。無理だよ、俺には」

「無理じゃ無い」

「無理」

「アメリカまで来て私を助けてくれた陣ちゃんだもの、無理じゃ無いって」


 甘菜はそう言って、うん、と嬉しそうに一つ頷いた。

 その白い横顔は春の夕暮れに照らし出され、思わず見とれてしまうほど美しい。

 ――綺麗になった。

 ここの所、陣太郎はふとした拍子に甘菜を見て、幾度もそう感じていた。

 思い返せば高校に入る前、中学生の頃から既に噂になるほどの美人ではあったが、その頃の甘菜と比べても桁が一つ上がったかと思える程だ。

 そんな風に思うのは、陣太郎がハッキリと甘菜への想いを認めたからか。

 あるいは、天之麻の女に降りかかる祟りが消え去ったからか。

 それとも甘菜もまた、恋を知ったからか。

 理由は曖昧である。

 確かなのは二人が高校三年生になり、最近は特に大人びて見える幼馴染みはそれまでと同じように、陣太郎の隣を自転車を押して歩いている事だけ。


「折角だもの、同じ学部に通いたいじゃない」

「でも、なあ……」

「あら。……もしかして、あの告白はウソだったとか? うっわ、ショックー、乙女の敵よね、陣ちゃんって」

「嘘じゃない!」

「またまたぁ。実はあの後、エミリィちゃんともよろしくやってるんじゃないのぉ?」

「できるか! 相手は親戚で、しかもアメリカ在住だ!」

「ホントかしら。なーんか陣ちゃん、その場の勢いで私にコクった気がしてならないんだよねぇ」


 告白とは勿論、“偽りの聖地”での一件である。

 あの後目を覚ました甘菜によれば、その一部始終すべてが記憶に残っていたらしい。


「そ、そんな事は無いぞ!」

「じゃあ“あの時”みたいに根性見せてよ」

「う……、そ、そんな事言ってもまだ傷が疼くし! 痛くて勉強に集中出来そうにないんだよ。それに最近、変な夢みるしさ」

「嘘おっしゃい。鬼目一“蜈蚣”の祟りはあそこで消えたはずよ? 天之麻の姫を傷つけた自身を喰らって、ね」

「……今でも信じられねぇよ。“秘術”は封じる為のもので、消し去る筈のものじゃないってのに」

「うーん、“秘術”は関係ないんじゃない?」

「はぁ?!」

「あそこは神威によって常世が大規模に顕現するほどの霊地みたいだし。鬼目一“蜈蚣”の神威そのものも影響されて、自身を滅ぼせる程強くなってたのかもよ」


 言われて陣太郎はいくつか思い当たる節を記憶から掘り起こしていた。

 確かに、モーテルでは日頃は喰らわないような鋼鉄の銃まで百足は喰らっていたし、“儀式”の中駆け抜けた時もあれ程強く陣十郎の魂や鬼目一“蜈蚣”の神威による身体能力の向上を感じた事は無い。

 特にあの跳躍。

 今にして思えば、漫画じゃあるまいし人の頭上高く跳ぶなどどんなに修練をつもうともあり得ない物だ。


 ――ってことは、やっぱじいちゃんの修行をどんなに真面目にこなしても、もうあんな事は無理、なのか?

 導き出した答えに陣太郎は思わず肩を落としてしまうのであった。

 そんな陣太郎の様子などお構いなしに、甘菜はやや大仰に台詞を続けてゆく。


「大体さ、こんないい話ないよ? 将来を誓った仲の女の子と、めくるめく大学生活が待ってるんだし。しかも相手は学校のアイドルときたもんだ」

「うわ、自分で言うか?」

「否定したいならどうぞ? 別に誇るつもりは無いけれど、自分を過小評価するつもりもないの」

「……認めるよチクショウ」

「うふ、ありがと。お礼にジュース驕らせてあげる、だーりん?」

「へいへい。ペットはダメだかんな」

「なによ、そのやる気のない返事。コイビトに対する態度じゃ無いよ? 大体、ペットボトルゾーン禁止って、ケチも良いとこだよ」

「コイビトったって、なあ? キスもダメなら手も握れないんじゃ実感もわかねぇよ」


 じっとりと、恨みがましい陣太郎の視線。

 隣で自転車を押す甘菜は、その視線が上下に舐めるように動くのを感じ取り、思わず背を向けてしまった。


「……やらしい。陣ちゃん、いつもそんな目で私の身体をみていたのね!」

「悪いか!」

「んー悪くはないけど、父さんとの約束もあるし?」

「あれは――あの後、親父さんの目の前で俺の告白の返事をする甘が悪いんだろ!」

「だって、ほっといたらエミリィが陣ちゃんにコクりそうな雰囲気だったし」

「んなわけねぇだろ、何度も何度も言ってるが、親戚だぞ? それにエミリィはあの後、“百合”を貰って大喜びだったし、お前の気のせいだよ」

「……乙女心に気が付かない男って最低よね」

「う……」

「大体さ、男の子ってそんなにシたいわけ?」


 少し呆れた風に甘菜はそう言って、先程の陣太郎と同じようにじっとりとした視線を送る。

 形の良い唇を尖らせたその仕草は、何とも言えぬ愛らしさが滲んでいた。


「そりゃ、お前。なあ? 愛を確かめ合うのはコイビトとしては、な?」

「……で、一昨日買ってたあのえっち漫画雑誌みたいに、その内エスカレートして学校や公園、果ては人前でカックンカックンヤるようになるのよね」

「何でそんな事しってんだよ!」

「んー、昨日の朝、部屋に起こしに行った時おばさんが新しい隠し場所教えてくれて、ね?」

「勘弁してくれよ、かーちゃん……」

「やー、引いたわ、あれ。半分位ロリコン的な奴だったじゃん。後の半分は屋外や公共施設、満員電車でとか。無理っていうか捕まるっての」

「……いや、俺も流石にあれは。やっぱ表紙買いするとダメだな。多少恥ずかしくても、じっくり中身を吟味して買うべきだと反省してたんだよ」

「うっわ、なに普通に語りはじめてんのよヘンタイエロ太郎!」

「おぐ!」


 自転車を降り互いに並んで歩いていたからか、甘菜の肘鉄は正確に陣太郎の脇腹へ刺さって呻かせたのだった。

 肘を入れる力は相当強く、(自分はさておき)いささか下品な会話への怒りが伺える。

 陣太郎はしばし痛みに呻き数度咳き込んでいたのだったが、ふと甘菜がねえ、と仕切り直すように語りかけてきた。


「真面目な話、そん、なに陣ちゃん、シたいの?」

「……そりゃ、な」

「えっち漫画で我慢できない位に?」

「なんで漫画オンリーなんだよ」

「DVDやゲームまでなら許す!」

「いや、あの? そうじゃなくて、だな?」

「それで、我慢できない?」

「……真面目な話?」

「うん」

「……そりゃ、我慢できるけど、さ。その……キスくらいはしたい、かなあ、とか」

「キス、かぁ」


 もどかしい空気を感じて居るのは、陣太郎だけであろうか。

 甘菜は陣太郎の言葉にうーむ、と考え込み、そのまましばらく黙り込んでしまった。

 その様子はどう見ても推せば倒れるようなチャンスに思えて、陣太郎は意を決し甘菜の肩を抱き寄せようと手を伸ばす。

 しかしその手は空を切り、かわりにあちょ、という掛け声とともにペチリと鼻先に甘菜の掌が入った。


「あだ!」

「んー、やっぱオアズケ。國學院の文学部、受かったら東京で同棲でも“なんでも”して上げる。勿論、その時は“拒否”なんかしないよ」

「う……」

「それ以外の学部なら、まあ、気が向いたらね。あ、國學院以外なら大学卒業してからになるから、ね? 勿論、条件としては大学卒業したら天之麻に婿養子に来てくれるって前提があるんだけど」

「うう……長ぇ……」

「長くないよ! 文学部に受かれば一年も待たなくて良いじゃない。それに土地と家と財産と徒歩3分の就職先付き美少女なんて良物件が、たった八ヶ月勉強しただけで手に入るんだもの、やらない手はないんじゃない?」

「ううう……オレ、ガンバル……」

「おう、それでこそ男の子だ」


 言って甘菜は花のような笑顔を見せた。

 それは陣太郎だけが見る事の出来る、彼女の愛情である。

 しかしその笑顔は陣太郎の有り余る肉欲を大いに刺激して、ともすれば暴走しそうな想いをより強めその身を焦がす結果となっていた。


「なあ。せめて、キスくらいはいいと思わない? ほら、前にも何度かしたじゃないか」

「やぁよぅ。それにあれは天之麻の巫女としての“仕事”だもの、のーかんよ、のーかん」

「う、浮気するぞ!」

「いいけど、私もするからね。相手なんていくらでも見つかるし。陣ちゃんは……むふ、難しいかも」

「うぐ……、なぁ、じゃあ、手くらいならいいだろ? 繋いで帰ろうぜ?」

「やぁよぅ」

「……畜生。今にみてろ、祟ってやる」


 果たして新たな祟りは如何様な神威をもたらすのか。

 呟きは天之麻神社は鎮守の森から吹く風に乗り、空高く消えていった。





 ――月に叢雲花に蟲・了






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