新たな(?)仲間
「ふー。授業とはかなり疲れるものなんだな」
ソーン・アルフ、龍帝ジルフォードの襲撃から2日。俺は始めての座学を受けていた。
「そうですか?シュウさんは今まで一度も集団での勉強をしたことがないからかもしれませんね。シュウさんは今まで剣術のお師匠様と一対一で勉強をなさってたんですよね?それなら自らの進行状況に合わせて勉強を進めることが出来るので楽かもしれません」
確かにすでに自分が知ってることを教えられている時や続きが早く知りたいのに理解出来ない者の為に授業が止まると面白く聞けていた授業が途端につまらなくなる。
「かもしれないな。今日はこれで放課だったか?」
「ええ、そうですね。シュウさんはこのあと予定は何かありますか?」
そういえば最近ずっとシーリアと組手をしたり聖也の相手をしたりで休む時間を取れてなかったな。今日は特に体を動かさず休むか。俺が気づいていなくても疲れが溜まってるかもしれない。
「今日は体を休めようと考えている。何か用事か?」
「あっ、いえ・・・・・・。何でもないです。体を休める事は大事ですから。ゆっくりお休みください」
明らかにしょんぼりしてから早口でまくしたてて立ち去っていった。何だったんだ?
「シュウ、今日休むの?なら、私も一緒に休む」
特に断る理由も無いので了承する。寮に向かう途中深刻な顔をしたクライドに会った。
「どうしたんだ?こんな所で。学園の生徒がお前を見て訝しげな顔をしているぞ」
「イチジョウ殿か。『影』について情報が手に入った為それを伝えに来た」
クライドは王の護衛だが王を守るだけでなく様々な事をしているそうだからこのような情報伝達を担うのだろうか。
「『影』か。あの組織はかなり情報を手に入れるのが困難と聞いていたがよく手に入れられたな」
ユークリゥドから聞いた話だが何でも『影』の幹部の1人が『影』全構成員の顔、経歴を全て覚えている化け物じみた記憶力の者がいるらしくスパイは全て首が王城に届き、秘密裏に探ろうとすると探知系の魔法に長けた者が常時警戒。潜り込んですぐに見つかり首が届く。そんな組織の情報を手に入れるのは至難の技だ。
「王城へ王宛に『影』から手紙が届いた。そこには『今宵、『影』盟主たる我がヘルゼン王の元へ赴いてやろう。心して待つがよい。 黒凪ユオ』と。赴という時の横に黒い塗りつぶしがありその部分に何か意味があるかと検証中だ。『影』盟主が来るのは事実か。事実であるならば対応はどうするのか。攻撃を仕掛けるのか、もてなすのか。今王城は混乱の渦にある。取り敢えずヘルゼン王にシュウの意見を聞いてくるよう言われて来た次第だ」
『影』盟主か。ピュレオやソーンなどの狂った奴らをまとめている人物。まぁ人かどうかはまだわからないが、どのような奴か気になる。一度会ってみるのもいいかもしれない。いざとなれば戦えばいい。
「俺は王城に行っていいか?その盟主とやら、興味が湧いた。会ってみたい」
するとクライドはぎょっとした顔をする。
「め、盟主に会ってみたい!?・・・・・・いや、イチジョウ殿はそういう人物だったか。ああ。王にはもてなすまではいかなくとも先制攻撃はしないよう進言する。その場にはイチジョウ殿も来てくれるか?イチジョウ殿がいた方が説得力、安心感共に出る」
貴族どもがうるさいからな。と苦笑しながら後に付け加えるクライド。
「ああ。それは構わないが王城にはどう行くんだ?馬車では到底今夜中には着かないが」
もしかしたら転移装置があるからには転移魔法もあるのかもしれない。俺が授業で聞き逃した事も考えられる。
「イチジョウ殿も魔物の群れを撃退した際渡されたかと思うがあの転移魔法の込められた紙だ。あれの転移先をセレストリュールに設定してある。これを使えば一瞬でセレストリュールに着く」
「分かった。少し待っててくれ。すぐ戻ってくる。シーリアもここで待っててくれ。瞬転!」
その場からシュウが消える。シーリアとクライドは顔を見合わせお互いに自己紹介し合うのだった。
クライドのいる場所から高速で走り学園長室の前に来た。ノックもせず開け放つ。
「ユークリゥドはいるか?」
「ひゃっ!・・・・・・はい。今度から一応ノックをしてから入ってくださいね。で、何の御用ですか?体を休める予定だったのでは?」
「ああ、その予定だったがクライドがかなり重要な情報を持って来てな。今日の夜『影』の盟主がヘルゼン王へ会いに来るそうだ。そいつに会いたいと言ったらクライドがそう進言すると。それでおそらく攻撃はしない方向に話は行く筈だ。そこで共に来い、ユークリゥド。いまだ俺はセレストリュールの地形には疎いし、お前がいるだけで妙な貴族には圧をかけられる」
俺にも迷いはあった。万が一盟主と戦う事になったら実力的には虹龍を単独撃破出来ないユークリゥドが一緒では足手まといになる可能性がある。しかしもし戦わなかった場合何か俺が知らず知らずのうちに礼を失した行為をすると後々貴族が面倒だ。ユークリゥドにはいつでも転移魔法を発動できるよう準備してもらうのが1番得策だろう。シーリアはどうせ付いてくるし、実力的にはユークリゥドもよりも上だ。逃げるくらいはソーン相手にも出来そうだから心配しなくていいだろう。
「え、はい。シュウさんがそう言うなら同行は構いません。私は転移魔法を即時発動できるよう準備しておきます。戦闘になったらすみませんが、お任せ致します。では、参りましょう」
ユークリゥドと走ってクライドの元へ戻る。俺が抱えて走ってもいいのだがユークリゥドはスピードに耐え切れず気絶しそうだから止めた。
「悪い、待たせた」
「お待たせいたしました、クライド様。不肖ながら私も同行させていただきます」
クライドは頷き懐から紙を取り出し下に放った。すると足元に魔法陣が展開、輝いた。視界が真っ白になり視力が回復すると王の間だった。周りには貴族達、正面には王。何てとこを転移先に設定しているんだ、クライドは。
「クライドよ、伝達ご苦労であった。そしてシュウよ、よく来てくれた。しかしクライド。私は伝えて来いとは言ったが連れて来いとは言ってないぞ。これはどういうことだ?」
クライドが答えようとしたところに割り込んで話す。
「俺がその盟主とやらに会ってみたいからだ。ピュレオやソーンなどの狂った奴らを率いる奴に興味が湧いた」
その場の者が固まる。もはやシュウおなじみの光景である。
「う、うむ。そうか。ならばシュウの意を汲んで攻撃は仕掛けない方向にしよう。皆はそれで良いか?もし盟主が仕掛けてきてもこちらにはシュウがおる。それでも心配な者は名乗り出よ」
誰も進み出るものはいなかった。
「では一応だがもてなしの準備はしておこう。ミーテ!」
「はい」
貴族達の列から進み出てきたのは明らかに貴族ではない、言うなれば巫女のような格好をした女だった。
「お前に盟主接待を命じる。いいな?」
「はい。ご命令とあらば我が全霊をもって対応させていただきます」
そう言って巫女のような(ほぼ確定だろうが)女は列に引っ込む。巫女と聞いて思い出したが俺を召喚したスリュルはここにいるのだろうか。それとも巫女とはいえ下っ端はいないのだろうか。・・・・・・いた。列の1番後ろに縮こまって立っていた。後で声でもかけてみるか。
「ではシュウよ。ミーテとともに盟主への対応を「任せる」相談してもらおうと思ったがシュウが良いなら良いか。では各自己の配下にこの旨を伝えよ。そしてミーテは大急ぎで出迎えの準備!解散!」
俺が割り入ったのにも関わらず自然に繋げたな。王というのは伊達ではないという事か。さて、会議はこれで終わりのようだからスリュルと話してみるか。そう思いさっきまでスリュルが立っていた場所を見るといない。会議が終わると同時にさっさと出て行ったらしい。見れば貴族達もすぐに出て行っている。
「ユークリゥド、シーリア。少しここで待っててくれ。話してみたい奴がいる」
そう言い残し王の間から走って出る。残された2人とヘルゼン王、王の護衛との間には微妙な空気が漂ったのは言うまでもあるまい。
王の間から飛び出したのは良かったがスリュル達巫女がどこへ向かったのか皆目見当もつかない。さて、どうするか。
「うっ、く!」
「あははっ、あんたみたいのが調子乗るからいけないのよぉ?ただでさえ目障りなのに何列の1番前って身の程を弁えな、さい!」
ドカッ!!
「す、すみませぇっ!けほっ、けほっ・・・・・・」
何だ?蹴りを入れた音がする。それにこれは一方的な暴力のような気がする。行ってみるか。暴力が振るわれたであろう現場に着くとそこにはいやらしい笑みを浮かべた年配の巫女数人とそれに囲まれて床に倒れるスリュルの姿があった。
「何をしている?」
声をかけると年配の巫女達は肩をびくっと引きつらせこちらを見る。俺の姿を確認した途端顔色が変わった。畏まったものから嘲笑へと。
「あらあらこれはこれはニセ巫女から召喚されたニセ勇者様ではございませんか。間違えて召喚されただけに過ぎないのに真の勇者様の手柄を横取りしたりとご自身の保身に随分熱心なようですねぇ・・・・・へっ、ひへっ。あっ、ひっ・・・・・・」
馬鹿にされて少し腹が立ったから殺気をこいつに向かってちょびっと出した。そしたらその巫女は腰を抜かしてガクガク震えだした。肝が小さ過ぎるんじゃないか?
「行くぞ、スリュル。こんな奴らに構ってる必要などない。後で何か言われるようなら俺に言え。その言ってきたやつを王に処罰させる」
スリュルはフラフラと立ち上がり付いてきた。腰が抜けて動けない巫女らは置いていく。馬鹿にしてきたやつをわざわざ助けてやる義理もないからな。ある程度現場から離れ手頃な部屋を見つけたためそこにスリュルと入る。
「どうしてあのような暴力を受けていた?」
「私は1番下っ端の巫女です。そして生まれもあまり良くありません。なのに最高位の巫女様と同じ召喚能力を持っています。そんな存在は先輩の巫女様たちには面白くないようで常日頃嫌がらせを受けていました。けど、シュウ様を召喚してからさらに嫌がらせが酷くなっていきました。巫女様方は『卑しい身分で最下級の巫女の分際で勇者召喚?生意気だわ!この私が立場ってもんを教えてあげるわ!』と。低い身分の私には相談できるような方もいなくて・・・・・・」
スリュルは静かに泣き始めた。ここで普通の生活を送っている男子なら慌てふためき慰めるのだろうが生憎シュウにはそのような気遣いはない。
「お前を連れてきたやつには相談できなかったのか?かなりお前を買っているようだったが」
ヘルゼン王を味方の兵から助けた際ゾルトとかいうやつがあいつの才能は最高位の巫女、つまりはミーテよりも上だと言っていた気がする。
「ここに連れてきてくださっただけで多大なるご迷惑をかけているというのにさらに迷惑をかけるわけにはいきません。本来ならゾルト様と私は話すことすら許されないのですから」
そうなのか。しかしこの子が苦しんでいるのは俺の責任もあるのか?俺が召喚されさえしなければ嫌がらせが悪化することもなかっただろうしな。いや、考えすぎか?まぁそのことを抜きにして考えても何となく助けてやりたい。だがどうすれば救ったことになる?それが分からないと助けようがない。
「お前はどうしたい?」
「えっ?」
「このままがいいか?それともこの様な場所から離れたいか?答えは2択。正直に答えろ」
曖昧な返答はされても困る。
「わ、私は・・・・・・の、残・・・・・・こ、ここから、ここから!離れたいです!もう嫌です、ここに連れてきてくださったゾルト様には感謝してますがもうあんな扱いは受けたくありません!」
「だ、そうだぞ?ゾルト」
「えっ?・・・・・・わひゃぁぁぁ!も、申し訳ございませんゾルト様!決してゾルト様に不満があるわけではなく!」
スリュルを連れてきた張本人であるゾルトが近くにいる事を知った上で先の質問をした。取り敢えずここにいたくないという返答が聞ければ俺が連れて行こうと思っていたが流石に無言で連れて行っては誘拐になるし、連れて来たゾルトが賛同すればスリュルも少しは気負い無く出ていけるだろう。
「すまなかった、な。・・・・・・お前と他の、巫女の関係があまり、上手く行っていないことは気付いていた。しかし、巫女の間に入るのは容易では・・・・・・いや、これは言い訳だな。・・・・・・俺は、構わないぞ。スリュルが望むならここから出て行くといい。特にペナルティなどを与える気もない。悪いのは、こちらだ」
「ゾルト様・・・・・・」
感激したためかスリュルの頬に伝う涙。俺はただゾルトにスリュルを連れて行こうと考えてることを伝えようと思っただけなんだが。泣かれるとどう対処すればいいのか分からない。
「あー、ゾルト。ならスリュルは俺が連れてくぞ。いいな?」
これで断られても無理やり連れて行くが。
「ああ、構わない。シュウ殿なら、安心して任せ、られる。スリュルを、頼む」
ゾルトの言葉に頷きスリュルを連れてその場から立ち去る。と、スリュルは立ち止まりすでに背中を見せているゾルトに向かって言葉を投げかけた。
「ゾルト様!今まで、ありがとうございました!」
噂によるとこの時のゾルトの表情は娘を嫁がせた父親のような顔をしていたとかしていなかったとか。
一気更新はこれでおしまいです。




