龍帝ジルフォード
どうすると言われても全力を出さなければ勝てないのであれば全力を出さざるをえないだろうに。このソーンとかいう男、案外阿保なのではなかろうか。
「悪いな、久對羅。この戦闘が終わったら全力でこの場を離れて『侵食』を隠す。協力してくれ」
(いちいち許可取らずとも私はあなたの剣。あなたが決めたことなら異論はないよ。まぁ私も『侵食』はあまり人に見せるものだとは思わないけどね)
「顕現せよ!!鬼帝鎧!!」
鎧を身につけ、本当に全力を出すならここから理壊斬刃を使うところだがあまり闘技場の地面を破壊して学園に迷惑をかけるのも忍びない。今回は必要に迫られない限り理壊斬刃はやめておこう。
「まずは小手調べだ。神斬流・旋風、乱舞!・・・・・・瞬転、神斬流・天穿!!」
旋風で動きを制限し天穿で致命傷を与える。それが俺のよく使用する戦法だ。しかし高龍というのは虹龍とは別格のようで旋風を堅牢な鱗で弾き体長5メートル程の巨体に似合わない俊敏さで天穿を躱した。しかし高龍に驚愕は与えられたようだ。
「貴様、ヒトごときが持ちうるはずの無い速さ、攻撃力を持っているな。どんな邪法を使った?悪魔と契約でもしたか?」
ほう。この世界にも悪魔と契約なんてものがあるのか。日本でも悪魔と契約というのはあった。その大半は悪魔を名乗る妖怪だったようだが。
「俺の武器以外には力は借りてない。アンタ・・・・・・ジルフォードは何か装備はしてないのか?」
「ふん。我や他の高龍にとって武器を使うということは己の牙、爪は飾りだと言っているようなものだからな。使わん。しかし武具を使うことを特に否定したりはせん。この世は強さこそ全て。強ければ全て許される」
いわゆる弱肉強食だな。しかし八岐大蛇もそうだったが龍は何も装備しないんだな。いや、当たり前か。鎧の代わりに硬い鱗、剣の代わりに鋭い爪と牙。飛び道具の代わりに強力なブレス。1体で前衛後衛出来る為戦争などでは厄介この上なさそうだ。だからドラゴンを退けてくれと召喚したわけだ。こんなのが相手じゃただの兵士が束になって掛かってもブレス一発で壊滅だろうな。
「ジルフォードの強さは分かった。あんたは強い。この世界に来てからだと最強だ。だからこそ、倒し甲斐があるというものだ!!!」
長年踏みしめられて硬くなった闘技場の地面に深さ約5センチほどの足跡を刻み龍帝へ斬りかかった。
「ハァァッッ!!」
「ぬぅぅぅっ!」
ギンッ!!
金属で出来た八重桜とジルフォードの爪がぶつかり合うと金属質な音が辺りに響き渡る。外の者たちは龍帝と聞き竦み上がり、その圧倒的な体格差そして語り継がれる凄まじい強さに慄く。誰もがたとえXランクだろうとも龍帝に勝てるはずがない。そう思っていた。がケイマと鈴、さらにシーリアはシュウの勝利をほぼ確信していた。いつも自分たちの度肝を抜く結果を示してくれるシュウの事を妙な仕方だが信頼している。そしてジルフォードは焦っていた。
(マズい!だんだんあいつの動きが我を捉え始めている!だが我は捉えられん!この短期間に我の動きに順応したというのか!?ありえん!この龍帝たる我と戦えているだと!?)
「そんなことあってはならんのだ!!!たかが人間如き!貴様などガァッ!?」
「ごたごたうるさいぞ。喋っている暇があるなら動いたらどうだ?このままでは俺があんたを斬り裂いて終わりだぞ?」
この言葉が事実である為さらに焦るジルフォード。ジルフォードがシュウを倒す算段を立てているうちにもシュウの刀はジルフォードを捉える。今まで肉弾戦だった戦いに変化が訪れた。ジルフォードが炎のブレスを放ち始めたのだ。極大の火球が飛んでくる中シュウは超然としていたそして火球がシュウの間合いに入った時。
「・・・・・・#焔斬り__ほむらぎり__#」
一刀両断した。これには内外含めて全員仰天した。普通ドラゴンのブレスは一流の魔法使い5人が全力の防護魔法を張ってようやく防げる。龍帝のブレスなど一流の魔法使いが何人いようと防げるものではない。1つの村を吹き飛ばす威力がある。それを一見ただの刀に見えるものが一刀両断したのだ。驚きもするだろう。
「実在しない物を斬る術は既に確立されている。流派にすら分かれてない。汎用的な技術は皆が習得している。そんなブレスで俺を倒せると思ったか?」
ジルフォードは暫く呆然としていたがシュウが動こうとして我に返った。
「・・・・・・認めてやろう。貴様は強い。この龍帝たる我が認めてやる、貴様は人間最強だ。だからこそ!ここで我らドラゴンの邪魔者は消す!」
シュウはジルフォードが自らの持つ最大最強の技で勝負を決めに来る事を悟った。そして両者は技名を叫ぶ。
「イクスティング・ノヴァァァァァ!!!!!」
「神斬流・奥義!!#桜乱影舞__おうらんえいぶ__#ッッッ!!!」
ジルフォードは1発で小さな城を1つ破壊せしめるほどの破壊力を秘めた魔弾を無数に放ち、シュウは特殊な剣気の使用方法と久對羅の協力で無数の分身を作り出し高速で走り出す。シュウの技は対ドラゴン用の奥義だ。シュウの分身はジルフォードの放った魔弾をことごとく斬って消滅させほぼすべての分身がジルフォードへと到達する。
「・・・・・・見事だ」
「・・・・・・あんたもな」
ジルフォードは無数の肉塊になって消滅した。やはり高龍ともなると死に方も変わるのだろう。
パチパチパチパチ。
「たまげたなぁ~。まさか龍帝を倒すとは思ってなかったよ。うん。見事だ。素晴らしい!こりゃー『影』のブラックリスト入り確定かな?あははっ!楽しくなりそうだっ!じゃあ僕は用事は果たしたから帰るとするよ。もたもたしてると僕まで斬られちゃいそうだからね。それじゃあ、また」
ソーンは紙を握り転移魔法を発動させて去っていった。一応、返事を返しておこう。
「こんな迷惑な事をする奴とは2度と会いたくない」
しかし龍帝ジルフォードという強者と見えることができたのは良い事と考えていいだろうか。こんな思考をしながら聖也と花蓮を探す。すると間もなく見つかり、外にいた奴らも中に入ってきた。その中にいつの間にか来たのかユークリゥドもコロもいた。もちろんケイマ、鈴、シーリアもいる。
「すまん!!俺の頼みでシュウを危険というには生温いような窮地に立たせてしまった!」
「ご、ごめんなさい・・・・・・。私が、もっと強ければシュウさんをこんな危ない目に合わせなくて済んだのに・・・・・・」
ケイマと鈴はここに来るなり謝り始めた。
「いや、いいさ。俺も龍帝っていう強い奴と戦えたしな。さらに聖也、花蓮は無傷だったそうだ。むしろ俺が感謝したいくらいだ」
この発言により辺りが静まり返る。そしてシーリアがポツリ。
「・・・・・・龍帝と戦えて良かったなんてシュウはとんだ戦闘狂。でも私はそんなシュウでも好き」
セリフの後半は知らないが少なくとも前半はこの場にいるシュウを除いた全員の意見だった。
「悪いが俺は疲れた。先に帰らせてもらう。・・・・・・いや、付いてこないでいい。今回の戦闘について考えたいから1人にしてくれ」
そう言ってシュウは立ち去る。もちろん『侵食』をみんなの目から隠すためだ。久對羅が言ってくれなかったらユークリゥド達の前で鎧を解除するところだった。
「ありがとう、久對羅。危ないところだった」
「まぁいいよ。しっかし随分と強いドラゴンもいたもんだねー。桜乱影舞の分身、あの魔弾斬るの結構ギリギリだったよ。あんなの始めて。八岐大蛇以来じゃない?」
確かにそうだ。久對羅が優秀なお陰で分身も俺程じゃないが相当強い。
「そうだな」
こうしてまた『侵食』をやり過ごす。




