撃破、そして恋心
俺はゆっくりと虹龍に近づいていく。殺気を隠さず。不意打ちは好きではない為わざと起こそうとしているのだ。その時に虹龍が身震いした。
「ゥ・・・・・・グゥゥォォォォォオオオオオオ!!!」
虹龍は自らに傷をつけたシュウの事を覚えていたのだろう。シュウの姿を認めるなり大音声の咆哮を上げた。
「ふっ、懐かしい咆哮だ」
そう言いつつ俺は駆け出す。
「神斬流・旋風、乱舞!」
俺は虹龍の周りを走り回りながら旋風を乱れ打ちした。大して効かなかったが。
「・・・・・・ッッ!はぁッ!」
前より速くなっている。尻尾の攻撃を喰らいそうになった。さて、あいつの鱗をどう攻略するか。以前戦ったときは全身全霊の一撃でやっと胸に斬り傷一つだった。前より速くなっている事からさらに硬くなっている可能性もある。思考を重ねながらもシュウの刀は閃き続けている。すると虹龍のある一部分だけ衝撃が通っている感触がある事に気づいた。よく目を凝らすとそこだけ鱗の輝きが鈍い。
「試す価値はあるな。神斬流・天穿ッ!!」
虹龍の隙をついて技を放つと八重桜は虹龍に突き刺さった。
「グアアアアァァァァ!!」
ようやく虹龍攻略の糸口がつかめたな。
「・・・・・・ん?翼を広げて・・・・・・っ!ここから離脱する!!ユークリゥドッッッ!!!」
浮遊魔法で浮かび高速で去っていくユークリゥドを追ってシュウも広間から離脱した。その時虹龍の口から七色に輝くブレスが天井に向かって放たれた。その膨大なエネルギーを秘めたブレスはツルクルの町からも見えた。
「ギルドマスター!ギルドマスター!!何寝てるんですかっ!!」
バシィッ!!
「むぅっ!!な、何だ!敵襲か!?」
「敵襲じゃありません!外に!早く!」
半ばユルトに引きずられる形で外に出たギルドマスターは目を見開く。
「な、何だ、ありゃ・・・・・・。誰か神さん怒らせたのか?」
確かに見ようによっては天より降り注いでいるように見えるかもしれない。
「恐らくあれは虹龍のブレスかと・・・・・・。虹龍について記された数少ない書物にありました。虹龍は全てを討ち滅ぼす七色に輝く呼気があると・・・・・・。あそこは丁度シュバリエ山の辺りです」
この時2人の考えは一致した。シュウが虹龍と戦っている。
「げほっ、げほっ・・・・・・。無事か、ユークリゥド」
「は、はい・・・・・・何とか。しかし、凄まじいブレスですね。何故あれが来ると分かったのですか?」
「俺が前の世界であいつを逃した事は話したな?その時最後にあいつが放った攻撃があのブレスだった。その時あいつの角が虹色に輝いた。さっきも輝いたからまさかと思ったらドンピシャだ」
シュウが見つめる先で虹龍は翼を広げた。すると虹龍の周りの空間に大量の魔法陣が浮かび上がった。
「あ、ああ・・・・・・。あれは、それにあの量は・・・・・・。シュ、シュウさん・・・・・・もう・・・・・・。あの魔法陣は広域殲滅魔法、爆裂、豪炎魔法、極度凍結魔法、消滅魔法・・・・・・数えるのがバカらしいですね。シュウさん、私が全力で数瞬でも時間を稼ぎます。その間にツルクルに転移魔法の込められた紙で転移してください。ギルドマスターに知らせればなんとかしてくれるかもしれません」
「バカを言うな。お前を1人置いて逃げられるか。・・・・・・それに、あまり俺を甘く見るな」
えっ?と不思議そうにするユークリゥドを横目にシュウは体内に眠る「力」を呼び起こし、その状態の名を叫ぶ。
「ぐぅぅぅぅぅ・・・・・・。#理壊斬刃__りかいざんじん__#ッッッ!!!」
シュウの体から漆黒のオーラが立ち上る。服に隠されて見えないがシュウの全身もちろん顔にも何やら模様が浮き出る。そしてシュウの背に片翼の羽毛のない翼、黒い骨組みのみの翼が生えた。呆然とするユークリゥドに告げる。
「ユークリゥド、よく見ておけ。これが神の作りし世の理に挑むために人が手に入れた力だ」
その時虹龍の浮かべていた魔法陣から一斉に魔法が放たれる。ひっ、とユークリゥドは息を飲む。
「ガアアアァァァァァァァァァーーーーーッッッッッ!!!!」
斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬!!!!!!!
只ひたすらに飛んでくる魔法を斬って斬って斬りまくった。そのあまりに凄まじい光景にユークリゥドは気絶する。しかし間近で行われる超常現象の気配に起きる。そしてまた気絶するの繰り返しをしていた。
やがて虹龍の魔力が尽き、魔法が止んだ時シュウはしっかりと地面を踏みしめていた。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・。流石に堪えたぞ、虹龍・・・・。しかしその様子だと魔力切れか。ならばこの好機、逃すわけにはいかないなッ!」
シュウは虹龍に向かって跳躍し斬りかかろうとする。しかし相手は空を自由に飛び回れる。当然避けられる。理壊斬刃を発動する前のシュウならここで手詰まりだったが今はシュウにも翼がある。シュウの翼はカラスの羽など鳥の羽と違い超能力に生み出された翼のため重力や物理法則の網に囚われにくい。その為空中で直角に曲がったり高速飛行などが出来る。現に今シュウの姿は地上から見るとただの線である。高速すぎるのだ。
「な、なんですかあれ・・・・・・。人が飛んでる時点で驚きですし、魔法が使えないからさらに驚きですがもっと驚くのは・・・・・・なんです?あのスピードは?シュウさん本体が見えません・・・・・・。あんなにシュウさんは強かったのですね・・・・・・」
ユークリゥドは何も出来ない自分にやるせなさを感じていた。シュウは虹龍の周りを飛び回っていた。隙をうかがっているのだ。
(ここだッ!)
「神斬流・天穿!!!」
シュウの突きは虹龍の脳天をブチ抜き、瞬時に絶命させた。命を失った虹龍は当然落下していく。その下にはユークリゥドが。
「!!!くっ・・・・・・間に合えッ!」
神速でユークリゥドを腕に抱えあげて空に退避し、間一髪のところで救出に成功する。その時、ユークリゥドの胸の中には自身を助けてくれたシュウに対して恋心が芽生えていた。
「あ、あの・・・・・・ありがとうございます。えっと・・・・・・」
「どうした?顔が赤いぞ。どこか痛いのか?」
自分を心配してくれるシュウの顔をまともに見れない。
(何故でしょう・・・・・?助けてくださった方の顔を見ないなどという無礼、あってはならないのに・・・・・・。シュウさんの顔を見ようとすると全身が硬直して・・・・・・)
「・・・・・・怪我は、無いようだな。よかった」
顔を覗き込まれ目がバッチリ合ってしまったユークリゥドは瞬時に顔を赤くして気絶した。それに慌てるシュウと気絶したユークリゥドは来た時より数日かけてツルクルへと戻った。