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事件現場とパフェ。 重みのバランスは……。

 週末の昼過ぎ頃に、かすみが襲われた現場に啓介はかすみと二人で訪れた。

 結局かすみは通報しなかったけれど、かすみが襲われた日、この場所で事件は起きていた。やはり、かすみが目撃したのは糸の通り魔の犯行だったらしい。

 テレビの報道では、事件にはかなり特殊な糸のような物が使われているということだった。ワイヤー並みの強度を持った繊維系の何か。それはもうワイヤーだとみなしていいのではないかと啓介は思った。テレビはそれがワイヤーでないことが視聴者の関心を集めるとでも思っているのだろう。だが、首を絞められる者からすれば、ワイヤーであろうが繊維であろうが全く関係はない。

「その意見には私反対だな。手練(てだ)れのナイフ使いの犯行を、包丁で刺殺って報道するような侮辱だよ。最低でも鋭利な刃物、ちょっとミステリアスにするなら、ナイフのようなもの。それが報道の流儀ってもんでしょ」

 啓介には理解不能だったが、無視したりぞんざいな返答をしたりすると後が厄介そうだから、

「そうだな。糸は後で燃やして処分できるけど、ワイヤーは無理だもんな」

 とかみ合ったような、かみ合ってないような返答をしておいた。かすみもなぜかそれで満足そうに数回頷(うなず)いた。

 啓介は辺りに人がいないことを確認してから、犯人がいたという壁の上によじ登ってみた。かなり高い平均台の上に立っているような気分だった。壁の内側の家が空き家なことは事前に確認済みだった。のぞいてみると、割れたガラスが段ボールとガムテープで塞がれている。

 かすみの目撃したことの再現を試してみることにした。まずは投げる動作。壁の上では足を前に踏み出せないため、あまり高度な投てきはできない。

「次は、手繰り寄せるように引っ張ったんだっけ?」

 壁の下で待機しているかすみに問いかけた。かすみは頷く。

 引っ張ってみる。が、危うくバランスを崩して落ちそうになった。引っ張る対象がいないのに、こんな不安定な場所で引っ張るのはやや無理があるだろう。常識的に考えれば、このときに引っ張っていたのは、被害者の首に巻き付いていた糸であろう。そして、そのまま飛び降りて担ぐような姿勢で引っ張る。このときには、被害者は宙づりになっていた。そして、時間がたてば、絞殺死体のできあがりということだろうか。

 周囲を見渡してみるが、道に小石が落ちているぐらいでめぼしい物は何もない。啓介は少しの間、口に手を当ててふーんと考え込んだ。

「よし、ここにいても暑いだけだし、商店街の喫茶店でもいこうか」

 探偵にはあるまじき速度での、事件現場からの撤退だった。しかし、これにはかすみも賛成した。

「あそこのパフェは、イチゴと生クリームの奏でるハーモニーが最高なんだよ」

 待ちきれない早く食べたい早く行こう、という気持ちがかすみの表情からあふれ出た。啓介はかすみの単純さにあきれながら、商店街へと向かった。

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