私とお嬢様が「はい、あーん」をするただそれだけの話
ここはとあるショッピングモール内のフードコートの一画。
現在私はとある重要な局面に遭遇していた。
「あ、あのお嬢様?その手は一体……」
「何って?アイスだけど?」
「いえ、そうではなくてですね」
「あー、そういえばこれアイスじゃなくてジェラートって言うんだっけ?」
「ですから!そういうことではなくてですね!」
「?」
どうやらこのお嬢様本当にわからないらしい。……ならば言うしかないだろう。
「ですから、私に突き出したスプーンは何ですか!」
今の私の状況を説明するとお嬢様にジェラートの乗ったスプーンを突き出されているのである。……つまる話が「あーん」というやつである。
「えー、だってこういう時の礼儀だって聞いたし」
「それは一体どこ情報ですか……」
「うーん、どこだったかなー?」
お嬢様はちょっと考えてみたようですが結局わからなかったようですぐに私の方を向き直る。
「まぁ、そんな事は置いておいて。はい、あーん」
「え、えっと……」
しかし私があんまりうろたえているものだから-。
「……ねぇ」
「……」
「食べて……くれないの?」
お嬢様の瞳は少し潤んでいた。
うぅ、そんな悲しそうな顔をしないでください。
「……ます」
「?」
「もちろん食べます!いえ、むしろただかせてください!」
「ふわっ」
私は一気にまくし立てるように言った。……どうやらお嬢様はその勢いにびっくりしてしまったようですが。
「ええと、ムリはしなくていいんだよ?」
「ムリなんかじゃありません!ぜひともやらせてください!」
私の真剣さが伝わったのか-ただ単に勢いに押されただけかもだが-お嬢様は再度スプーンを出してくる。
「ええと、ではあらためて。あーん。」
「あ、あーん」
そうして口を開けて待つ私にお嬢様の持つスプーンがゆっくり近づいてくる。
私はそれを今か今かと待つ。
そうしてついにお嬢様のスプーンが私の口に中に入る。
それは甘くて、ちょっぴりすっぱくて、それでいて-。
「どう?おいしい?」
「はい、とってもおいしかったです。それに……
「それに?」
「幸せの味がしました」
それでいて、とっても幸せな気持ちになりました。
……ううう、自分で言っておいてなんですがとても恥ずかしいです。
「それならよかった。ふふっ、何だか顔が真っ赤だよ」
「-っ。そう言うお嬢様だって顔が赤いですよ」
「えー、そうかなぁ」
「そうなんです!なんでしたら確認します?」
「はは、別にいいよぉ。正直顔が熱い自覚あるし」
そう言った後、お嬢様は突然口を開ける。
「ええと、お嬢様?」
「?どうしたの?」
「……もしかしまして、これは私にも『あーん』をやれということでしょうか?」
「もちろんだよぉ」
「……ですよね」
そうしてお嬢様は再度口を開けて私を待つ。
やはりここは覚悟を決める時!……正直ものすごい恥ずかしいけど!
「で、ではお嬢様。いきます
「はーい。お願いしまーす」
「あ、あーん」
「あーん」
そうして私の差し出したスプーンを口に入れるお嬢様。
「い、いかがですか?」
「……」
私は今か今かとお嬢様の返答を待つ。
「……うん、とっても甘くておいしかったの。それに-」
「それに……」
「とっても幸せだったの」
そうして私に向けてくれるのはヒマワリのうなた大輪の笑顔。この笑顔が見られただけで私は、私は-。
「お嬢様、大好きですよ」
「はわっ!いきなりどうしたの?」
今度こそ顔を真っ赤にさせるお嬢様。
「うーん、ただ何となく言いたくなっただけです」
「うぅ。もう、いきなりなんだから……」
「それはお互い様です」
「わ、私も!」
「?」
「私も大好きだよ」
「-っ」
ホントにこのお嬢様は。
「さてと、これ食べ終わったら次はどうしようかしら?」
「……そうですね。どうしましょうか?」
「まぁ、その辺はおいおいでいいかな。せっかくのデートなんだし、ゆっくりしたいしね」
「はい、そうです……え?」
「ん?」
「これデートだったんですか!?」
「えー。私はそのつもりだったよ」
「え?え!?」
「二人で出かける。二人でジェラートを食べる。ついでに『あーん』もする。これがデートじゃなくてなんなの?」
「た、確かに」
「ふふっ、そうとわかればデートを続けましょう」
「-っ。はい」
「ホント、幸せだなぁ」
「……そうですね」
お嬢様との毎日は本当に幸せだ。
さて、とりあえずは……今日のデートを楽しみましょう!
読んでいただきありがとうございます
漫画でこんな感じのシーンを見ていたら無性に書きたくなったもので