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落ちる翼

作者: 矢口 陽次

 朝食を食べていると、ウェイターが皿に卵を置いていった。

「ありがとう」

 彼は卵にひびを入れようと机の端で卵をたたいた。すると生卵がテーブルクロスを伝って床に落ちた。

 ウェイターはそれを見ると急いでやってきて

「申し訳ありません。生卵だと知らなかったもので」と言いながら、床に落ちた生卵をきれいにふき取った。彼はこの時点で連絡を入れるべきだった。

「朝食に生卵が出たのだが、君の仕業かい。僕は生卵とは知らずに割ってしまったよ。本当に申し訳ないが、もう一個もらいたい」と。

 二日後、彼は何もしないままに帰国した。彼の乗った飛行機はふらふらと着陸している。ずっと彼の乗った飛行機はふらふらしたままだった。

 空港につき、公衆電話からジョンに電話をかけた。

「お帰り、ニック。じゃあいつもの場所で。くれぐれも尾行には注意しろよ。じゃあな」

 ただでさえふらふらと着陸している飛行機に向かって強風が吹いた。今日、尾行に注意する理由はないのである。

「つまり、海の向こうまで行って、旅行だけして帰ってきたのか」

 男は拳銃を取り出した。彼は両手を挙げて言った。

「聞いてくれ。これはわざとじゃない。何かの手違いだ。彼から連絡が来なかったんだ」

 男は撃鉄を起こした。

「連絡が来なかっただと。あいつに限ってそんなことはない」

 彼は跪いて弁明を続けた。

「俺だって金が欲しいんだ。わざと受け取らずに帰ってくるはずないだろう」

 朝、彼が家から出てきて、家の前に泊まっている車のドアを開け、運転席に腰かけた。飛行機は離陸を待っている。鍵を差し込み、ひねった途端、飛行機は爆発した。




 自動小銃や拳銃を持った男たちがトラックの周りをうろついている。相棒の合図で彼は突撃した。気付けば飛行機は穴だらけになり、やがて翼が火を噴いた。海の向こうに渡った飛行機は灰になった。

 彼らのグループのコンテナを漁っている連中がいると連絡があったのだ。ボスは連中を退治して、物を取り戻すよう彼らに命じた。

 

 朝食を食べていると、ウェイターが皿に卵を置いていった。

「ありがとう」

 ウェイターは思い出したように言った。

「こちら生卵ですので、お気をつけてお召し上がりください」

「何故生卵を」

 ウェイターは小さな紙を差し出した。紙には「メッセージ」と書かれていた。

「なるほど。よくわかったよ」

 彼は生卵を空いていたスープ皿に落とし、スプーンでよくかき混ぜてから飲み込んだ。

 脳裏に文字列が浮かんだ。

「物は今日の午後八時にいつもの場所で渡す」

 これは、一般にも広く普及している方法だ。メッセージをやり取りするのに最も安全な方法だといわれている。チップは食道の電磁石に吸着され、食道の電磁石が遺伝子とパスワードを使って認証を行い、メッセージを開封する。チップはメッセージを読み終わると胃に送られて胃酸で分解される。メッセージは読めなくなるので、後で内容が漏洩する恐れもない。送られた者だけが確実にメッセージを読めるシステムだ。

 飛行機はきちんと着陸した。その時滑走路は無風だったし、熟練したパイロットは手順通りに事を運んだから。

 彼は無事帰国した。彼はその後も行ったり来たりを繰り返すうち、いっそ移住しようと思い立った。現地の密輸業者と何度か接触しているうちにボスに紹介してもらえたのである。飛行機は一面の青空の中、飛び立った。


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