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ウィザーズ  作者: 緒詞名
1巻「4人の魔法使い」
8/60

2章 「課外特別実習」2

排除案チーム。

岩のすぐ近くの陸に集まって会議を始める。

作戦を立てたりするのが上手い人物が比較的集まったなとシャーナは思う。


「じゃあ、どうやったら岩が排除出来るか思い付くだけ案をあげていってくれ」


まずクラスの男子が手を挙げた。


「手っ取り早いのは火魔法などで爆発させるのかな、と思う。周りに被害が出やすいけど、厚い水魔法と草魔法の結界で何とか止めれれば」

「そうだけど、それが果たして私たちだけの魔法で出来るかどうか……。5人だけの火魔法、雷魔法も入れれば10人の魔法で爆発させられたとしても、こんだけ大きな岩壊せるかな?」

「あと、それを防ぐために水と草魔法5人ずつ両岸につくわけでしょ?それも不安だなぁ。防ぐには人員不足だと思う」

「やっぱダメかぁ」


しかし、すぐに反対意見が出る。


「あとここは川だし、火魔法は湿気で威力が落ちるかも」


あまりいい方法ではないのが分かり、爆発させて壊すという案が消えた。


「他には?」


シャーナが聞くと、違う人が手を挙げた。


「川の流れは緩いけど水魔法で勢いをつけて押すのはどうかな?勢いつければ、岩も削れない?」

「ああ、それなら行けるかも!」


新たな方法にさっきよりも周りも賛同する。

しかし、アンジェが手を挙げた。


「いや、それだけじゃ岩を排除することは出来ないと思う。自然の力を応用するのはとてもいい案だけど、私たちにはその力量がない」


確かにA組の水魔法使いは、一般的に見れば第一の生徒であるため、優秀な魔法使いではあるが、現状では、大きな岩を動かせるほどの水魔法が強い者はいなかった。


「岩を壊すのが無理なら、せめて水が通るように、両岸を削るのはどう?」

「作業が大変だな。削っても両岸の陸の歩くスペースが減るし、削るにしてもどうやるんだ。削ったところから水が勢いよく出るぞ」

「川の水を止めて、作業かな。あ、でもそんな魔法使えないし、水は常に流れ続けるから止めるにしても陸に浸水してくるか……」

「どうしようか……」

「魔具とか何か活用出来ないかな?」

「何があんだよ」

「いやわかんないけど」

「木に川の水を吸わせるのは?」

「いや無理があると思う」

「だよねー」

「火魔法で蒸発なーんて……」

「川が蒸発するほどの魔法なんて俺たちに出来るわけないだろ。優秀な魔法使い1000人でも足りないよ。もっと現実的に考えろよ」

「言ってみただけよ」


色々意見は出るが、いい解決策は出ない。

意見が出ても策尽きて、現実に考えてすぐに無理だと分かる案しか出てこなくなった。

お手上げだろと考えるのも嫌になっている者もいる。


「岩の性質が分かれば解決策も広がると思う。調査班の調査が終わるまで、もっと案を出していこう。馬鹿らしい案でも出さないよりはいい」


シャーナは、諦めずみんなを励ました。




※※※※※




岩の調査チームは、ユーリをリーダーにして行われていた。

こういう分野にユーリが誰よりも長けているというのは、クラスの誰もが知っているので異論はなかった。

チームの7人は岩の上に立ち、何故岩が出現したのか、この巨大な岩は何なのかというところから調べることにした。


「4人は先に岩を調べて。この魔具を使えば、物の性質とかデータで出してくれるから。残りは私と一緒に周辺に何かないか探して見ましょう」


ソニアを含む4人は、ユーリが持ってきたらしい魔具を受け取る。

大方悪魔相手に使おうと持ってきた魔具であろう。授業でも見たことがない魔具だった。


「?」

「それは性質測定器。魔法で出来た物かそうでない物か判断出来るの。もし魔法で出来たものなら、属性やタイプも分かる」


ソニアが怪訝に持っている魔具を見ていると、ユーリが説明をしてくれた。

性質測定器は球形で測定する場所なのか30センチくらい一本棒が出ており、その先から赤いレーザーが出るようになっている仕組みだ。


「そんなことが分かる魔具があるんだー。どこで手に入れたの?」

「作ったのよ」

「……え」


チームの一人が興味を持ちユーリに聞いてきたのだが、予想してない返事が返ってきて、ソニア以外の周りの全員が驚いた。


「え、こんなの作れるの?」

「……まぁ」

「ライネスさんすげえ!」


ユーリの周りに人が集まる。

皆が尊敬の眼差しで見るので、ユーリは恥ずかしくなり俯いた。


「魔具作れるなんて初めて知ったよ!」

「頭いいのは知ってたけど、こんなこと出来るなんて。ライネスさんって何でも作れるんだなー!」

「そんなことは……それに、これは魔質鑑定器の劣化版だからそんなにすごくないよ」

「…………魔質鑑定器って?」

「あ、警察の捜査とか病院とか研究で使われている魔具。魔法で出来た物以外の物でも、性質とか何で出来てるかも分かるの。魔法の産物だと誰が作ったかまでも分かる優れもの!」

「はぁ……」

「魔力は指紋みたいに人それぞれ違うから、それがあれば誰が作ったか分かるでしょ?私この岩絶対に自然に出来たものじゃない気がするの」

「うん……」

「だから悪魔用に持ってきたかったけど、父様に送ってって連絡したら何言ってるんだって断られたから、以前こっそり解体して調べた魔質鑑定器の資料を元に、自分で作ってみたの。けどこれがまた難しい上にややこしくて私でもお手上げ。何とか単純な測定器を作ることは出来たけどね」

「……」

「流石に誰が作ったかとか何で出来てるかは分からないけど、自然のものか魔法の産物かは分かるから、対策は練ることは出来ると思う。あーでも、鑑定器欲しかったなー。あの魔具が作られた術式分かれば、もっと改良出来るのに!」

「……ユーリ、使い方」


ユーリが急に語り出してしまい、周りが圧倒され話しかけづらい状況になっていたところで、ソニアが声をかけた。


「あっ……」


そこでユーリは気付く。

ユーリは周りに気付かず語ってしまい、恥ずかしくなってまた俯く。

自分の発明品や得意分野、好きなものを一回語り出すと、ユーリは止まらなくなるのだ。

ソニアにとったらもう日常で見慣れているので、何も驚きはしないが、クラスメートには絶対に見せたことない一面だったため皆驚いていた。


「えっと、ごめんなさい……私、夢中で……」

「ううん、大丈夫だよ!」

「凄いってことは伝わったから!」

「そうそう、気にしてないよ!」


チームの皆はユーリを励ますよう言葉をかける。

チームの優しい言葉に嬉しく思いながらも、ユーリは逆にもっと恥ずかしくなった。


(オタクっぽいって思われたよね。絶対思ってるよ……。気持ち悪かったかな……)


どうしても裏では違うことを考えていると疑ってしまう。

クラスメートが急に怖くなった。


(私がリーダーなんてやっていいのかな……。みんなどうせ影で悪口とか言うんじゃ……)

「ユーリ」


名前を呼ばれ、顔を上げるとソニアが目の前に立っている。

ソニアは相変わらず無表情で何を考えているか分からない。もしかしたら何も考えていないのかもしれない。

しかし、ソニアは感情が鈍い分嘘はつけないし、素直な反応をすることをユーリは知っている。


「ユーリ使い方教えて」


ソニアは淡々とユーリに言った。

ソニアが持つ性質測定器の使い方を教えて欲しいという意味だろう。

普通だったらもっと空気を読んで、大丈夫?とか適当な言葉をかけるところだ。

しかし、ソニアの的外れな言葉にユーリは何故か嬉しくなった。


「ソニアありがとう」

「……何が?」

「止めてくれて……あと、慰めてくれて……」

「……何を?……いつ?」


何も分からず、やったらしい。


「うん、まぁ、分かってないと思うけど、ありがとう」

「……?」


多分お礼を言われた理由を、ソニアは本当に分からないだろう。

しかし本人は分かっていないが、ユーリがいつもと違うことに何か感じとり、無意識に行動したのかもしれない。

都合のいい解釈だが、ユーリはソニアがいてくれて良かったと思った。




※※※※※




気を取り直して。

ユーリはソニアたちに魔具の扱い方などを説明をし、岩の調査に取り掛かせた。

性質測定器はれっきとした魔具で魔力を注がないと動かない。ソニア以外の者が扱うことになった。


その間に残りの3人で、岩の周りに何か手がかりがないか探してみる。

何か小さな発見が大きな手がかりになることもあるからだ。

さて、自分も仕事に取り掛かろうとした時……。


「ライネスさんってあんな感じの人だったんだ」


後ろから誰かの声が聞こえた。

いい意味でも悪い意味でも受け取れる言葉である。

ユーリは怖くて振り向けなかった。


(大丈夫……)


気を紛らわすためにもユーリは目の前の問題に集中することにした。


ユーリは岩の周辺を見回す。

こんな巨大岩がいきなり出現したとしたら、考えられるのは二つ。

一つは誰かが、意図的に岩を川を塞ぐように出現させたか。

もう一つは……。


「あそこから落ちたか」


ユーリの視線の先に、岩から少し離れた位置に切り立った丘があった。

可能性としては極めて低いが、何か偶然が重なり丘から川に岩が落ちたということも考えられる。


「ユーリちゃんもあそこから岩落ちたと思う?」


同じ調査チームの一人の女子がユーリに声をかけてきた。

ユーリは人見知りで人と会話するのが苦手である。未だにクラスの人でも、一対一に話す時は、緊張してしまい上手く話せない。

その上、さっきのことがあったばかりなので、いつも以上に身構えてしまう。

シャーナたちとあそこまで仲良くなれたこと自体、ユーリには信じられないくらい大成長だった。


「う、うん……」

「だよねー。私のパパがね、仕事で森に入ることが多いらしいんだけど、最近森の目印がなくなったって言ってたんだ」

「目印?」

「うん、目印。切り立った丘の上に巨大岩があって、迷った時はそれを探すようにしてるらしいの」

「へぇ……」

「もし話の通りなら、岩の近くにそれらしい丘あるけど丘の上に岩なんてないし、それがここに落ちたのかなって」


どうやら、後者の可能性が低い方が巨大岩の出現理由になるらしい。

信じられないが。

それだけ言ってその子は、他も探してみるねと、周辺捜査に戻っていった。


(上手く話せたかな……)


ユーリの心臓はまだドキドキ鳴っていた。




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