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ウィザーズ  作者: 緒詞名
2巻「少女たちの青春」
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4章 「高校一年生Ⅳ」2


ネセスが去って数分後、人が助けにやってきた。

担任や、見たことない先生が沢山が来て、やはり皆部屋の有様に驚いていた。

教室へ避難したA組で、シャーナたちグループがいないことが発覚し、大騒ぎになっていたらしい。

シャーナたちが一回避難したのを見ていた人が多く、まさか地下に戻ったとは考えにくく、助けが遅れたそうだ。

部屋で待機していた三人は、直ぐに担任や一年のクラスを受け持つ先生に何があったか説明することになった。

といっても、説明は殆どシャーナで、アンジェとユーリは頷いたりするだけだった。

シャーナはこの騒動の嘘を本当にあったかのように、顔にださず自然に話す。

慣れているように思えた。


アンジェは横でシャーナを見ながら先ほどあったこと思い出した。






「いいけど。何よ」

「先生たちが来たら、ここで起きたことは何も話さず、あたしに話を合わせてくれないか」

「……それってどういう意味?」

「簡単に言えば嘘をついて欲しい。あたしたちは取り残されたユーリを助けるために戻る。そこで木を何とか退かしてユーリを助けたが、悪魔に入口を通せん坊させられ、逃げられなくなる。そこへネセス……ドーリー先生がやってきて、悪魔を倒し、逃げる途中怪我したソニアを急いで病院に運ぶ。つまり、あたしたちはただ逃げ惑うだけだったってことにしたい」

「私は構わないけど……」

「嫌よ! それじゃあ、あたしたちがせっかく苦労して悪魔倒したのに、いいとこ全部先生に持っていかれるじゃない!」


アンジェが猛反対してきた。

どうしても自分たちの手柄にしたいらしい。

シャーナは困った顔になる。


「アンジェ、口裏を合わせておいた方が、アンジェの力も隠せると思わないか? アンジェが自分の成果を言うならば、アンジェが活躍したのはあの木を退けてくれたことだろう? それをみんなの前で言うのか? 隠してたんじゃないのか?」

「……うっ」

「あたしたちの都合だけじゃない。これはみんなのために真実を隠すべきなんだ」


確かに、とアンジェは黙った。

二人は納得してくれたようだ。






隠す理由は教えてくれると言っていたのだから信じよう。

アンジェとユーリは不安に思いながらも見守った。




※※※※※


念のため三人は病院に運ばれた。

シャーナは平気な顔していたため、医者にばれるまで気付かれなかったが、ところどころ火傷を負っており、2、3日入院することになった。

アンジェとユーリは大した怪我もなく普通に帰宅することになった。

一足先に病院へ運ばれたソニアは、思いの外症状は軽く、シャーナと一緒に退院出来るようだった。


アンジェとユーリは病院から帰る前に、シャーナの様子を見に行くことにした。

シャーナは起きていて、ベッドに上半身を起こし、ニヤリと笑いながら二人を迎えた。

腕や足に包帯やガーゼが沢山あり痛々しいが、本人はとても元気そうに見えた。


「よぉ! ユーリ、アンジェ。お前らは元気そうだな」

「まぁ、怪我はなかったからね」

「逆にあなたの方が元気そうだわ。様子見に来る必要なかったかしら」

「いやいや、あたし案外重傷よ? 痛み止めの薬効いてるわけ」


様子を見に来たということは、それくらいは心配してくれているということだ。

シャーナはアンジェが自分のことを心配してくれたのが嬉しかったが、素直にそれを口に出すと、アンジェが全力で否定してきそうな気がして、心の中で喜んでおく。


「顔見たし、ユーリ、あたしたちはもう行きましょ」

「え、もう?」

「アンジェ、今来たばかりだよ」

「ここにいてもしょうがないじゃない。少しでも早く治して帰って来ることに努めなさいよ」

「……え、うん」


シャーナとユーリはアンジェの思ってもみない言葉に驚く。思わず返事をしてしまった。

本当にアンジェなのだろうか。心配してる上に早く回復して戻ってこいとまで言っている。

これには流石にシャーナは突っ込んだ。


「アンジェ大丈夫か?」

「何がよ?」

「いや、お前らしくないというか」

「私もいつものアンジェない気がして……」

「う、うるさいわね。別にそんなことどうでもいいじゃない。ユーリ早く帰りましょ」


何を言われているのか察したアンジェは、柄じゃないことをしたことに恥ずかしくなったのか、プイッと顔を背けてしまった。

そしてごまかすように病室を出ようとする。

シャーナは失敗したと慌てた。


「ちょっと待った二人とも」

「何よ。こっちが気を使って退出してあげようとしてるのに」

「いや、気持ちは嬉しいんだけど、話したいことがあるんだ」

「今?」


ユーリの言葉に頷くシャーナ。


「何の話よ」

「ソニアについてだ」


二人は視線を合わせた。

確かにソニアの話はあの後からずっと気になっている。

シャーナも後で話してくれると言っていたので、待つつもりではあった。

しかしそれは精々退院してからであろうと二人は考えていた。それにこんな怪我人に無理して話させるつもりもなかった。


「別にシャーナたちが退院してからでも」

「いや、今のうちに話しておきたい」


ユーリの言葉にシャーナは真面目な顔をして返した。

他言してはならないという条件があったが、ソニアの力を見た二人に隠すのは無理だと判断し、アンジェとユーリが心を開いてきてる今、シャーナは話したかった。

それに、ソニアがネセスの目の届くところにいるこの2、3日の間でも、自由に動けないシャーナの代わりに、もしも何かあった時の場合に備え、動ける二人にソニアを託したかった。

もちろんそんなことが起きたら、無理矢理でもシャーナが動くつもりではある。


「いいわ。聞きましょ。元気そうだし」


どういうつもりかは知らないが、アンジェはシャーナの真面目な表情に、軽くため息をつくとそう言って、ベッドの側にあった椅子に腰掛けた。

ユーリもアンジェの様子を見て続けて座る。


「その前に、言っておきたい。これから話すことは他言してはいけない。それでも聞いてくれるか?」

「…………シャーナはいいの? なんで私たちに話そうと思ったの」

「あたしは聞いて欲しい。一番はソニアの魔法を見られたからだけど、この学校で生活していくには、あたしだけじゃ抱えきれなくなったと思ったからだ」


グループは正式に決まったわけじゃないのに、自分たちに本当に話すのか。

二人はそう思ったが、二度も確認はしなかった。


「……分かった」

「……いいわ」

「ありがとう。それを踏まえた上で……さて、何から話そうか」

「じゃあソニアの魔法について教えてくれる?」


ユーリの言葉にシャーナは頷く。


「分かった。口下手だから分からなかったら聞いてくれよ」


今度は二人が頷く。

シャーナはそれを見て話し始めた。


「ソニアが普段から魔法を上手く使えないのは、二人はもう知ってるよな」

「だから驚いたんじゃない。碌に魔法使えない人が第一にいることとか、そう思いきや巨大な魔法使ったりとか」

「だよなー。だから何とか隠したかったんだけど。実はソニアは昔から魔法を使えないんだ」

「使えない?」


ユーリが少し身を乗り出した。


「いや、今はちょっとは使えるんだけど、中学の時もほぼ使えなかったらしい」

「中学も? 小学生ならまだ分かるけど……」

「なんでそうなったのよ」


アンジェは怪訝な顔でシャーナに尋ねた。


「ごめん……。それはちょっと言えない」


シャーナは苦笑いを浮かべ、謝る。

気になったが、秘密にしたいことを聞く権利は、今の自分にないと思いアンジェは黙った。


「絶対に使えないわけじゃないけど、魔法を出すのに時間はかかるし、とても体力と気力がいる。出せたとしてもコントロールも碌に出来ない。それが今のソニアの魔法の状態」

「そんなんで第一にいるのは絶対無理だわ。絶対怪しまれる」


ユーリから厳しい言葉が出た。シャーナもそれには同意した。


「そうだ。だから、あたしは二人と仲良くなろうと思った。ちょっとでもソニアの負担がなくなるように。まぁ、思っていた以上に厄介だったわけだが」


シャーナは茶目っ気たっぷな笑顔で二人を見る。

二人とも個人プレーが好きで、仲良くする気ゼロ。

逆に仲は悪くなっていってしまった。


「ユーリ、あなたのこと言ってるわよ」

「は? それはアンジェでしょ」

「二人ともだよ」


冗談なのか本気で自覚がないのか。

シャーナは笑ってしまった。

アンジェは咳ばらい一つし、話を進めるようにする。


「じゃあ、なんであんな魔法が使えたのよ?」

「……まぁ、そうなるよな。それが、ソニアが第一にいる理由だ」


魔法が使えないはずのソニアが巨大な魔法を使う理由。


「ソニアは、魔法が使えないくせに、無理矢理出そうとすると、二人が見たような強力な魔法が出てしまう」

「どういうこと?」

「いつも魔力が止められてるらしいんだ。その制限がなくなると自分でも抑えられない魔力が一気に溢れ出してしまうらしい」

「蛇口を捻るとき、どれくらい捻れば水が出てくるか何となく分かるだろ? 水を出し過ぎたら蛇口を閉めて調節だって出来る」

「そうね」

「でもソニアの蛇口は頑丈で固い。頑張って捻っても少ししか出て来なかったりする。だからソニアは無理矢理蛇口を壊してしまう。壊れると、水は勢いよく出てくる。けれどそれを調節することも、止めることも出来ない。簡単に言えば、ソニアの魔力はそんな感じなんだ」


何と言う不便な魔力だろうか。二人はソニアを哀れに思った。

この世は魔法が全ての世界。その中で魔力を持たない者などいなかった。

魔法が使えて当たり前の世界で、当たり前が難しいソニアは、中でも魔法の実力を求められるこの学校に来て、果たして正解なのか疑問に思えた。


「ソニアの感情が希薄なのもそれが原因してる。仕組みは分からないが、恐らく魔力を抑えるためなんだと思う」


無表情、無感情、無関心のソニアが、ちょっと変わってる子と片付けるにはやはりきついものがある。

二人は聞かなかったが、感じとっていた。


「そう……。ドーリー先生とはどういう関係なの?」

「コソコソ話してたわね」


ユーリは少し話を変えた。

アンジェも気になっていたことだ。

シャーナは、次ああいう状況になった時、ネセスとの関係を隠しておく自信がない。ネセスのことを知っててくれれば、行動しやすくなるかもしれない。

シャーナは話すことを決めた。




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