2章 「高校一年生Ⅱ」11
サラっとソニアは暴露した。
ユーリは嫌な汗を掻き固まる。
流石にアンジェとシャーナも驚いたようで、すぐに反応できなかった。
「ソ、ソソ、ソニア……? 何を、言っているの?」
ユーリは動揺しまくり、吃る。
正直な子だと思っていたが、こんなにペラペラと話すとは思っていなかった。
全く空気が読めていない。
「ユーリは悪魔の研究をしてる」
「そうじゃなくて! なんで言っちゃうの!?」
「言うなとは言われてない」
「そうだけど! 普通は言わないでしょ!?」
「…………私、普通じゃないから」
「普通じゃないからを言い訳にしないの! 私、勇気出して言ったんだよ?」
「でもユーリはすごいのを知って欲しくて……」
「悪魔の研究してるなんて変人だと思われるじゃない!」
ユーリは怒っていた。
ソニアは頭にクエスチョンマークをいくつも浮かべている。なんでユーリが怒っているのか分かっていないようだ。
「ユーリ、悪魔の研究してるのか?」
怒るユーリにシャーナは機嫌を覗うように尋ねる。
「そうよ! なんか文句ある?」
もうばらされてしまったのだ。やけくそになり、ユーリは正直に答えた。口調も悪くなっている。
シャーナは気にせず、会話を続けた。
「いや、発明も出来て悪魔の研究やってるなんて立派なことじゃん!」
「世間的にはそうでしょうね」
「あたしはユーリが悪魔のこと調べてるなんてすごいと思うぜ?」
「……」
果たして、そんな言葉を過去の自分を知ったら言えるのだろうか、とユーリは思う。
悪魔の研究をしているとは聞こえはいいが、悪魔を見たいなんて言う人が悪魔を研究してると知ったら考えは変わるのだろうか。
「第一でずっと一緒だった人はそんな風に思わなかったわ」
だから、ユーリはシャーナの言葉を受け入れられなかった。
(もう、この話は終わりにしたいわ。このままじゃどんどん暴露されていく気がする)
「そうか、ユーリ! それでいじめられてたんだな!」
「なっ……!」
「ユーリいじめられてたの?」
ユーリに止めを刺すかのようにシャーナがサラっと言ってしまった。
そして、ソニアがストレートにユーリに聞いてくる。
まさに、その話が出ないように話を切り上げようかと、考えていたところであったのにだ。
(どこから入手したのよその情報! 確かに第一にいてずっと隠せるとは思ってなかったけど!)
まさか一番隠したい秘密を、自分の知らないところで知られ、勝手に暴露されるとは。
「なんで知ってるの!」
「え、第一出身の人が教えてくれて……」
「何を聞いたのか知らないけど、嘘よ嘘だから!」
「……いや、詳しくは知らないよ」
「私、いじめられてないわ!」
「え、でも」
「私と合う人がいなかったの!」
ユーリは必死に否定する。
しかし、ユーリが必死になればなるほど、それは必死にそのことを隠そうとしているように見えてしまう。
シャーナが戸惑いの表情を浮かべ、困っている。
ソニアは無表情だが、ポカンとしていた。ユーリの不自然な反応に、少し驚いているらしい。
アンジェはただユーリの様子を黙って見ていた。その目は冷たい。
ユーリは、三人の表情に気付き、墓穴を掘っていると分かった。
(私、ますます変な人だと思われてる……!)
ユーリは怖くなる。人の感情が。
同情で、可哀相な子だと思われたくない。
せっかく出来た友達に、失望されたくない。
変な子だと、見下されたくない。
しかしそう思われないよう否定しても、相手は見透かしているかのように、ユーリの気持ちに気付いてしまう。するとどんどん惨めになっていく。
「まぁ、どうでもいいけど、この話やめない? 魔具教えるんでしょ?」
「え、あ、そうだな……」
「どうでもいいって何?」
アンジェがシャーナとユーリの会話を、止めるかのように入った。
しかし、アンジェの言い方でユーリは否定された気分になった。
声を低くしてユーリが言う。アンジェは怒りを向けられ、ムッとなった。
「何よ。なんか辛そうだから、せっかくこの話を終わらせてあげたのに」
辛そう。
やはりアンジェにはそう見えていたらしい。
しかしそれは図星。ユーリは一番見透かされたくない相手に気づかれ、ムカついてしまった。
「そういう上から目線が嫌なのよ。何、どうでもいいって、テキトーにあしらわれた気がするわ」
「……めんどくさ」
「めんどくさいなんて自分が一番知ってるわよ! でもそんな態度されたら怒るに決まってるじゃない」
「……あー、もう。悪かったわよ。これでいい?」
「何よそれ!」
「ちょっと二人ともやめろよ……」
睨むユーリ。
イライラするアンジェ。
シャーナは重い空気に嫌な汗を掻く。
ソニアはどうしたらいいか分からず戸惑っている。
「私、分かってるんだから。あなたみたいな人は私みたいな根暗な人間を見下してるって」
「は? 何の話よ。人を外見で判断しないでくださる?」
「おい、二人とも……」
「どうせ悪魔オタクですよ! 笑いたければ笑えばいいじゃない。私あなたみたいな人が嫌いなのよ! すぐに人のこと馬鹿にしたような目で見るし、常に自分が正しいみたいに思っているし!」
「言いがかりはやめてくれる? あなたこそ、その偏見は自分が正しいと思ってることになるじゃない! 言っておくけど、あたしもあなたのような人と合うとは最初から思ってなかったわよ! やっぱりグループの診断結果は間違っていたようね!」
「まだ再結果が出てないだろ」
「そんなの見なくても分かるわ。この約一ヶ月一緒に過ごしてきたけど、あなたたちと仲良くなれるとは思えない」
「わ、私だって願い下げよ!」
「二人ともいい加減にしろ!」
シャーナが声を張った。
アンジェとユーリは睨みあったまま黙る。
そして数秒間の沈黙が流れた。
しかしピリピリした空気は変わらない。
アンジェが呆れたようにため息をついた。
「もう寝る」
そしてイライラしたように、自室に向かった。
アンジェがリビングから去ると、数秒後にユーリも無言のまま自室に向かった。
あの大人しそうでトラブルを避けそうなタイプのユーリが、まさかアンジェと大喧嘩するとは誰も思ってもみなかった。
静かになったリビングに残された二人。
とても魔具を教えられる空気じゃない。
「……私のせい?」
「いや、喧嘩自体はアンジェとユーリ、二人とも悪い気がする。けど、あたしたちが無神経なこと言って、原因作っちゃったのも悪い」
「……仲直りしたい」
「そうだな……」
これからどうするか。
シャーナは頭を抱えた。




