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ウィザーズ  作者: 緒詞名
2巻「少女たちの青春」
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39/60

2章 「高校一年生Ⅱ」5

手慣れたようにユーリも終わり、ソニアの番になった。

しかし案の定上手く魔法が発動しない。

時間がかかり、アンジェが段々不機嫌になっていくのが分かる。

シャーナはソニアの隣で応援するが、ソニアは焦りを感じ始めた。


「普通に基礎魔法使えばいいのになんで出来ないのかしら」


ソニアに聞こえるようにアンジェが呟く。

その言葉に反応したのはシャーナだった。


「ソニアは魔法使うのに時間かかるんだ」

「何それ。なんでかかるのよ。そんな人が第一にいるのおかしくない?」

「………それには込み入った事情があるから言えない」

「はぁ? どんな事情よ! こんなに迷惑かかってるんだから、納得出来る説明くらい欲しいわ」

「これは迷惑かかってないだろ。別にグループ実習じゃないんだし、個人の成績だ」

「同じグループというのが嫌なの!」


その言葉を聞いてシャーナは黙る。お互い睨み合ったまま数秒沈黙する。

しかしシャーナが視線を逸らし、独り言のように呟いた。


「……そんなんだから友達いないんだろ」


それはアンジェには聞こえていた。

立ち上がりシャーナの前に立つ。シャーナも席に座っていたが立った。

無表情だがソニアは両者を交互に見てオロオロし、ユーリは巻き込まれないようにその三人から距離をとるように席を詰める。


「あなたに何が分かるのよ!」

「お前だってソニアの何を知ってる! 何も知らないのに厭味ばっか言うな!」

「知らないのは当然でしょ! まだ会って一ヶ月も経ってないのよ! だから理由あるなら説明してみなさいよ!」

「説明は出来ないって言ってんだろ!」

「意味わかんない。話になんないわ!」


アンジェが呆れてシャーナから視線を逸らす。

そしてやっと気付く周りの視線。

アンジェは直ぐにしまったと思った。

いつの間にか、二人の言い合いはクラスの中で目立っていたのだ。

感情と声のボリュームが比例して大きくなってしまったようだ。


「どうしたんだあの二人……」

「なんか言い争ってたみたいだけど……」


周りから聞こえてくる声。

クラス中から不安そうに見つめられる。

嫌な注目のされ方だ。


「えっと、そこの二人、大丈夫か?」


先生が気まずそうに二人に声をかける。

咄嗟にアンジェが答えた。


「はい、何も心配ありませんわ。ちょっとだけリンダスさんと意見の食い違いがあっただけで、たいしたことありません。授業の邪魔を申し訳ありませんわ」

「そうかい……?」

「ええ! 微塵も心配ありませんので、先生授業を再開いたしましょう」


アンジェが爽やかな笑顔を向け、授業の空気に戻そうとする。

それを見て、やはりアンジェだなとシャーナは思った。

先生はアンジェに言われ、気にしながらも授業を再開させた。

クラスメートたちも実習に戻る。

アンジェは席に着き、授業が終わるまでシャーナには話し掛けることはなかった。


「よし、ソニア続きをやるぞ」


シャーナは気持ちを切り替えて、ソニアの実習に戻る。

しかし、ソニアは魔活草に魔力を注ごうとせず、顔を俯かせていた。

シャーナはどうしたかと顔を窺おうとする。


「……ソニア?」

「ごめんなさい」


ソニアが顔を上げた。

シャーナを見るソニアの顔は、無表情だがどこか落ち込んでいるように見える。


「大丈夫だ。気にすることじゃないよ」


シャーナは本気で思っている。

しかしソニアはどこか不安そう。


「ほら、今は魔法の練習だ。あんなこと言われないようにするためにも頑張ろうな」


ニカッと笑うシャーナ。

ソニアはその笑顔を見て、頑張ろうと思ったらしく、今度は素直に魔活草に向き合った。




※※※※※


授業が終わり、クラスメートたちがぞろぞろと教室を出ていく。


「ちょっと」


シャーナとソニアも教科書をまとめ生物室から出ようとした時、アンジェに話し掛けられた。

二人は足を止める。

シャーナはまた言い合いをするのかと身構えた。


「なんだ」

「ソニア、魔法が下手らしいけど、来週そんなんで大丈夫なの?」


来週?

何のことかとシャーナは考える。

シャーナの分かっていない様子から、アンジェは呆れたようにため息を吐いた。


「来週から本物の悪魔を使って授業が行われるのよ」

「え、そうなの?」

「マジで?」

「……授業のカリキュラム表読んでないの?」

「……」


それを聞いて反応したのはシャーナ以外にユーリもだった。

ユーリまで? と信じられないという顔をするアンジェ。

確かに、そのようなものは授業が始まった頃に配られていた。しかし、結局は受けるのだからとシャーナは特に気にしてはいなかった。ユーリも同じく。


「本物の悪魔相手にそんな状態じゃ、いくら学校の悪魔でも何かの間違いでも起きて襲われたら死ぬわよ」


学校で管理されている悪魔は魔法をかけて大人しくさせている。

なので人間を見ても直ぐには襲ってこない。

しかし何かの拍子でその魔法が解けたら、魔法を直ぐに使えないソニアは自分を守ることは出来ない。

アンジェはそういうことを言っているのだ。


(なんだ、意外と……)


人のことを考えられるじゃんとシャーナが見直したと思ったが。


「やめてよね。グループの中で死者が出るとか。魔法使えないなら極力悪魔に近づかないでよ。あたしのグループの成績にも影響でるわ」

「……」


一瞬、ソニアのことを心配してくれたのかと思ったが、やはり結局自分の心配であった。

しかも、悪いとおくびにも出さず、不吉なことを素で言って退ける。


「とにかく足引っ張らないでよね」


それだけ言ってアンジェは教室を去る。

残されたのはソニア、シャーナ、ユーリ。


「どう育ったらあんなこと平気で言えるのか……」


もうシャーナは呆れていた。


「友達いなくて自分のことばかり考えてるからでしょ」


シャーナの言葉にユーリが返す。


「友達いないって言うとあいつすぐ怒るよな」

「一番気にしてるからじゃない」

「あの性格が問題なのか。なら直せばいいのに」

「直せないでここまできたんじゃない。ああいう人は自分の欠点を認めそうにないじゃない。でも自覚は一応あって、それを分かってるからこそ、それを他人に指摘されるのが嫌なのよ」

「ふーん……よく見てんのな」

「……別に」


シャーナはユーリが友達はいらないと言っていたのを思い出す。


(案外、自分のこと言ってたりしてな……)


アンジェとユーリ、対照的な二人だが、意外と似ていたりするのかもしれない。

自分と同じ気持ちだからこそ分かるのかもしれない。

お互いは苦手意識を抱いているらしいが。


「それより、悪魔対策はいいの? アンジェみたいに言うつもりはないけど、今のソニアの様子だとちょっと怖いわ」


ユーリは話題を変える。

そうだ、今はそのことを考えなければならない。

村の学校でも実際に悪魔を使った授業はあったが、村では管理している悪魔はおらず、年に二、三回コアから連れてきて特別授業のようなのを開く程度だ。

ソニアはコアの生徒よりも悪魔を目にする機会は乏しい。

シャーナは頑張って考えるが今のところ思いつかない。


「どうするかな……」

「まぁ、頑張って」

「一緒に考えてくれないのか?」

「私は他にやらないといけないことがあるもの」

「えー」

「じゃあお先に」


ユーリは話は終わったというように教室を出ようとする。

が、何か思い出したようにソニアの下へ戻ってきた。

そしてソニアに耳打ちする。


「さっきみたいに守られてばかりじゃダメよ。自ら動かないといつまでも変わらないわ。言い争い見てるの嫌になってきたし」

「え」


ユーリはソニアから離れると教室のドアに向かって歩きだす。

ソニアは何を言われたのかよく分かっていないようだ。


「シャーナには内緒ね」


言いたいことはそれだけだったようで、ユーリは教室を出た。


「何て言われたんだ? 悪口ではなさそうだけど」

「わかんない」


言われた言葉は聞き取れたが、意味が全くわからなかった。




こうしてその日はグループの絆は深まることはなかった。




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