3章 「上級悪魔」9
「シャーナ、診せて」
「アンジェ、ソニアは大丈夫なのか……」
「一年の時より酷いけど、意識があるならまだ大丈夫だと思う」
アンジェはグループの中で一番治療魔法に長けていた。
ソニアに何かあった時はだいたいアンジェが診る。
「意識があるのはユーリが手当てしてくれてたおかげね。言っておくけど、あたしのも応急処置のようなもんだから、帰ってから病院連れて行かないとダメよ」
「ああ……」
アンジェはすぐにソニアの治療魔法に取り掛かった。
シャーナはアンジェにソニアを任せると立ち上がった。
そして、せっかくアンジェが張った結界を、人が通れるほどに剣で穴を開ける。
「ちょっと!何処に行くの!?」
「……」
アンジェがシャーナに声をかけるが、シャーナはそれを無視して結界の外に出る。
「まさか悪魔倒すんじゃないでしょうね!?」
「……」
「あんたバカ!?さっきニ対一でやっと攻撃出来た相手よ!?一人だと勝ち目ないの分かってるでしょ!?」
「……」
「死ぬ気!?怒るの分かるけど、ソニアは大丈夫だから冷静になりなさいよ!」
「……」
「聞いてるの!?いい加減にして!リーダーでしょ!?」
「……アンジェ、あたし今キレてるの」
シャーナがアンジェの方を見た。
その眼光は鋭く殺気を纏い、アンジェでもシャーナに恐怖を感じ鳥肌が立った。
「大丈夫、ちょっと一匹悪魔殺すだけだから……」
真剣に言ってるところが怖い。
目がいっていた。
アンジェは止めることが出来なかった。
ハートンとレナーナはもしかすると悪魔より怖い、シャーナの異様な威圧感に圧倒され立っていられなかった。
アンジェはソニアに治癒魔法を使いつつも、シャーナを止められないかユーリを見た。
しかし、ここでユーリがいつもと違うことに気づく。
ユーリはしゃがみ込み、自分の身体を抱きしめ震えていた。
アンジェはユーリの珍しい反応に、首を傾げる。
「ユーリ?どうした?」
「……違うの、悪魔が、怖かっただけ……何でもない……」
「……」
悪魔を専門的に調べていて人より悪魔に慣れているユーリが、このような様子なのは明らかおかしい。
「本当にどうしたの?」
「……大丈夫だから、……後で話すから」
この場では話せないらしい。
アンジェはユーリを心配しながらも、本人がそう言うので今はソニアの応急処置に意識を戻した。
※※※※※
「あ、先生!気がついた!」
グレアムが目を覚ますと、そこは川の中だった。
周りには殆どの生徒がいて、水結界で避難しているように見える。
まだ生徒たちがここにいるということは、応援はまだ来ていないと思えた。
意識を飛ばしていた時間も短いと考えられる。
「良かったー」
「どうしようかと思った……」
グレアムが意識を取り戻し、周りにいる生徒たちが泣き出しそうになっていた。
「ここは……あれからどうなりました!?」
すぐ近くにいた女子にグレアムは聞いた。
「先生が気絶した後、私たちで何とか悪魔と応戦してたんですけど、限界があって、もうダメだって思った時、シルキーさんがみんなを水結界で川まで運んでくれたんです……」
女子は目に涙を浮かべながら話した。
「シルキーさんは!?」
「……こっちに来ないからまだ悪魔のところかも」
「でも、あれから数十分は経過してるし……」
「俺のグループのハートンとライネスさん、レナーナもシルキーさんの様子見に行くって悪魔のところへ行ってしまいました……」
ハートンのリーダーもグレアムに説明した。
グレアムは状況を聞き、血の気が引いた。
(なんで生徒が危ない時に寝てるんだ……!)
グレアムが悪いわけではないが、気絶していた自分に腹が立った。
「みんなはここで助けがくるまで待機して下さい。応援は呼んであるから大丈夫です。私はシルキーさんたちを助けに行きます」
「先生!その身体じゃまだ無理だ!」
ハートンのリーダーや皆が止めようとする。
が、グレアムは聞かない。
「誰か水結界を作って私を陸まで上げて下さい。無理なら泳いで上がります」
「……」
生徒たちはグレアムを止めることは出来ない。
グレアム用に水結界を作った。
しかし、そこにもう一人入ってきた。
ハートンのグループのリーダーである。
「先生、俺も行く。先生の傷まだ癒えてないし、一人じゃ歩けないだろ。それにハートンが心配だ」
「……何かあったら先生を置き去りにしてでも逃げると約束出来ますか?」
「分かったから」
グレアムとハートンのリーダーは陸に上がった。
グレアムは生徒の肩を借りて歩く。
二人は悪魔がいるであろう場所に引き返していった。
※※※※※
ハートンとレナーナはソニアの時もその魔法の凄さに驚いていたが、シャーナの悪魔の戦いも人間離れしたもので、ある意味怖かった。
狂ったようにシャーナは悪魔をメッタ斬りにしていた。
シャーナの動きは俊敏で、悪魔と互角に渡り合っていた。
しかし相手を剣で攻撃する分、シャーナも悪魔の攻撃をもろに喰らい、相当深手を負っている。
全身傷だらけで、あちらこちら服が裂けて血を流し、顔面にも痣や血が流れていた。
しかし愛剣の焔を振るうことは止めない。
「フレア!フレア!フレア!」
剣に火を纏い、悪魔の攻撃を喰らいながらも、悪魔の身体に突き刺すように剣を刺す。
固い皮膚の悪魔も、流石に連続して火の魔法を喰らいながら剣で刺されるため、弱まっていく。
(あたしが危機一髪で出した火魔法はあんなに効いたんだ……守る隙を与えないで攻撃したら、倒せるはず……!)
シャーナは無我夢中で攻撃をした。
そしてシャーナが腹と胸の間に剣を刺した時、悪魔の急所をついたのか、悪魔が悲痛な叫び声をあげた。
グゴォオオオオオ!!
シャーナは重点的にそこを攻める。
数秒後には耳障りな大きな叫び声が消えた。
しかし、シャーナは剣を収めることをせず、まだグリグリと突き刺していた。
「悪魔なんか、悪魔なんか……」
ハートンとレナーナはシャーナに引いていた。恐ろしかった。
シャーナは狂ったように動かない悪魔を見据えて、ぶつぶつと呟いていた。
その様子をただ静かに見ていたアンジェ。
「シャーナ」
シャーナに静かに声をかける。
呼ばれてシャーナは手を止めた。
「そいつ、死んでるよ」
ただ淡々に事実をシャーナに告げた。
シャーナはそれを聞くと、今気付いたように、やっと剣を引き抜き、剣を杖に戻した。
シャーナは静かにポロポロと涙を流していた。
(守りたかっただけなのに……)




