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ウィザーズ  作者: 緒詞名
1巻「4人の魔法使い」
15/60

3章 「上級悪魔」3

シャーナが悪魔に向かって走って行ってしまうと、ソニアは逆の方へ走り出し、逃げてしまったクラスメートたちを探した。

しかしいくら探しても見つからない。

恐らく森に隠れてしまった者が大半だろう。


(森に隠れたのなら、結界でみんなを避難させなくても大丈夫かな?……シャーナのところへ行くべき?)


避難する理由を考えると、皆が森に隠れても悪魔は皆がいなくなったと錯覚するかもしれない、とソニアは一瞬考えた。

が、直ぐにあることを思い出す。


(悪魔は魔力の匂いを嗅ぎ付けるってユーリが言ってた……)


それを考えると水の中なら匂いは消えるので、百パーセント安心だ。

やはり川の中に隠れるべきだとソニアは考え直した。

しかし、クラスメートを見つけないと始まらない。


(時間がない)


ソニアはシャーナが心配であった。

シャーナが責任感が強いのを知っている。ソニアを守る為なら何でもするし、クラスメートの命を守る為にも平気で命懸けで戦うのだ。

ソニアは小さい時からそんなシャーナを止めたかった。そして逆に守りたかった。

見ているだけは嫌、守られているだけは嫌、頼って欲しい、シャーナを救いたい。そんな願望がずっとソニアにはある。

なのに、シャーナはいつも危険な目に合い、敵を作る。


(シャーナ……)


ソニアは必死にクラスメートを探した。

ふと前方の向こう岸を見ると、森から川の方に出てきたクラスメートがいた。

4人いるが、誰も恐れた顔をしていない。普通にお喋りをしながら川岸にやってきた。

四方に散って悪魔退治をしていた最後の者達だ。

岩の排除の知らせを聞き、句切を付け悪魔を撒くことが出来たので川に戻ってきたらしい。

ソニアはずっと川にいたので、人の顔はあまり覚えていないが、何人が戻って来たかは覚えていた。


(川にいたのはシャーナと私ともう一人の3人だから、5人と4人が戻ってきて、ユーリたちの4人が走ってきて……うん、あれが最後だ)


クラスは合計20人。数が合う。

ソニアは向こう岸の4人に気付いて貰えるように、出来るだけ4人に近付いた。

幸い4人はシャーナを探していたようで、辺りを見回していたので直ぐに4人はソニアを見つけた。


「シルキーさん、みんなは?」


川が流れているので向こう岸に渡れない。

大きな声でクラスの一人がソニアに聞いてきた。

ソニアは首を横に振った。

そして戸惑いながら小さく手招く。

ソニアが普段から無口なのは知っているので、どういうことかと首を傾げながら4人は川を渡ることにする。

4人の中に水魔法使いがいたので、少し大きめの結界を作り、4人全員その中に入った。そして川を渡りソニアのいる岸へ着く。

魔法を解き、4人がソニアの下へ来た。


「どうしたの?」

「えっと、悪魔が現れて、シャーナが川に避難してって…………」

「え、悪魔?」

「強い悪魔」

「……」


4人は黙る。

動揺はしているし、驚いてもいるが、実際に襲ってきた上級悪魔を見ていないからか、逃げて行った者たちより冷静な反応だった。


「分かった。僕がこの4人を避難させよう。他のみんなはもう避難したの?」


川を見て水魔法使いの男子がソニアに問う。


「……みんなは、逃げちゃった」

「逃げた?」


A組の優秀なクラスメートほぼ全員が逃げ出す事態に、4人は今起こっている出来事が自分たちの想像以上にヤバいのだと察した。


「リンダスさんは?シルキーさんは何をしてたの?」


少し緊張した声で女子が聞いた。


「シャーナは悪魔を足止めしている。私は……みんなを探してて……」


ソニアは俯いた。

その続きの見つからないという言葉は、ソニアの態度から4人は何となく分かった。

ソニアは無表情で口調も淡々としているが、こういう時は態度に出るので分かりやすい。


「手伝おうか?」

「……避難して下さい」

「……分かった。僕たちはリンダスさんの指示に従って先に避難するね」


ソニアは頷く。

水魔法使いの男子は非常事態だからこそ、下手に動いて被害が大きくなることを避けるため、素直にリーダーのシャーナの指示に従うことにした。


「シルキーさんは水タイプだから、結界自分で張れるだろうし。僕も4人入れる大きさの結界を持続させるのきついから、任せるよ」

「たぶん、アンジェたちが来るから大丈夫」


確か悪魔に追われていたのは、ユーリとアンジェがいた4人だったと思い出す。

つい、みんなを探すため走り、最初にいたところが見えなくなるくらいまで離れてしまったが、真っすぐこちらに逃げているとするとユーリたちはそろそろこちらに来るだろう。

その証拠に、ソニアを呼ぶハートンの声がした。


「シルキーさーん!」


ユーリとハートン、レナーナの3人が、へとへとになりながらこちらに向かって来るのが見えた。

3人はソニアたちの下にやってくると、力尽き地べたに座り込む。


「……大丈夫?」


大丈夫そうに見えないが、一応ソニアは声をかけた。


「はぁ、はぁ…………インドア派の、……私にしたら……げほっ、よく、あんな距離を……はぁ、はぁ……全速力で走れたか、……謎よ……」


ユーリが息を切らせて言った。ユーリの顔色は凄く悪く辛そうである。


「はぁはぁ、けほっ、げほっ、……はっ……し、死ぬかと思ったぁー!!!!」


レナーナは、とりあえず安心したのか泣き出した。


ハートンは息を切らせて、しゃがみ込み、両腕で自分の身体を抱きしめる。

何も言わないが、寒くもないのに身体が奮えているため、さっき起こった出来事がどれだけ恐怖であったのか分かった。


悪魔を見ていない4人は、いつもと明らかに違うクラスメートの反応に、不安と動揺を隠せないでいた。

授業でも悪魔は何回も見てきたはずなのに、こんなにも違う。

直ぐに避難すべきだと思った。


「じゃあ、僕たち避難するよ……」


それを聞いたレナーナが反応した。


「どこに!?私たちも連れてって!」


ハートンも水魔法使いの男子に懇願するように見る。

ユーリは何も言わなかった。

男子は困った顔をした。


「7人か……魔法が持つかな……」

「どういう意味?」

「リンダスさんから川に避難しろという指示が出ているんだ」


ハートンとレナーナは言っている意味を理解した。

それほど大きい水結界を作れないという意味だ。


「川の中なら悪魔が、去ったと勘違いして、どこか行く」


ソニアが補足で付け足した。


「はぁ、成る程……ね、……水の、中なら……はぁはぁ、魔力の、匂いはしない……」


ユーリは息を落ち着かせようとしているが、まだ落ち着かない。


「定員オーバーってわけ?じゃあ、シルキーさんの結界で……」

「私、みんな探さないと……」

「え!?じゃあ、どうすんの!?」


レナーナは不安な声をあげる。

それを見かね、ユーリが手を挙げた。皆がユーリを見る。


「私の結界で、……他の水魔法使いの人が来るまでやり過ごすのは……どう?」


ユーリの呼吸が落ち着いてき、冷静で落ち着きのある声で言った。


「襲ってきたらどうすんの!?」

「シャーナとアンジェが足止めしてくれているわ。そんなに早くこっちに来る可能性は低い」


そういえばアンジェの姿がない、と思っていたソニアは納得した。


「不安ならハートンくんの雷魔法と一緒で守るわ」


名前を出され、ハートンはドキッとする。

しかし、優秀なユーリと一緒なら少し安心出来た。


「もちろん協力するよ!」


レナーナはユーリの提案に不安ながらも賛成した。

話がまとまったので、4人は一足先に川へ避難する。ユーリとハートンも雷結界を出す。

ユーリは結界の中に入る前にソニアの耳元で小さく耳打ちした。


「みんなを探すの手伝えなくてごめんね。あの人の性格上、あのままだと避難させろって煩くしそうだったし」


あの人とはレナーナのことだ。

確かに自分が楽するために悪魔排除チームに入ったらしい故に、ユーリはレナーナが少々自己中な気がしていた。

この場で皆を困らせるにはいかないため、ユーリは自分が守ることにしたのだ。

ソニアは一人で探すつもりでいたため、特に気にしていなかった。


「水魔法使いの人探してくる」

「うん、お願い」


ユーリは結界の中に入っていった。

逃げた人達の中にはあと、3人水タイプの人がいる。

できればその3人を先に探せればいいのだが、そう簡単にはいかないだろう。

ソニアは森の中に入ることにした。


(時間がない)


この間にも、シャーナとアンジェは危険な目に合っているはず。

ソニアは少し焦っていた。




※※※※※




ソニアが森の中に入っていき、ユーリたち3人はいつでも川に飛び込めるよう、川岸ぎりぎりのところで雷結界を張っていた。

ハートンと一緒で結界を張っているため、二重で少し安心である。

ハートンとレナーナは疲労と精神的ダメージから、話す気力も無く黙っていた。

ユーリは結界を張りつつ、辺りの物音に耳を澄ませている。二人が大人しいので好都合だった。


(上級悪魔がなんでここまで襲いにきたのかしら……)


ユーリにはそれが謎だった。

上級悪魔は普段は森の奥にいる。

ユーリたちがいる地点は、まだどちらかと言えばコア寄りで、上級悪魔が現れるような場所ではなかった。


(何かに引きつけられてきたのか……)


高校生20人の魔力で悪魔が寄ってくるとは思えない。

何故なら森に入る兵士などは、少なくとも100人で入るらしいからだ。


ユーリは理由を考えるが全く思いつかなかった。


「なんで先生助けに来ないのかな……」


ユーリが思考を巡らしていたら、レナーナが涙を浮かべながら呟いた。

そこでユーリも担任のグレアムの存在を思い出す。

確かに、こんな非常事態なのにグレアムが助けに来ないのはおかしく思えた。

グレアムは見守っていると言っていた。そして余程のことがない限り手出しもしないと。

話の通りにいけば、グレアムは今起きていることを見ていて、まだ“余程なこと”が起きていないと判断していることになる。

それか職務怠慢で見捨てられているか。


(いや、あの先生は生徒を見捨てるような人ではない)

「ホントだよ!岩壊したのに、なんで現れないんだ!?」


ハートンも怒ったように若干声を荒げる。

ユーリはその様子を見て、静かに二人に言った。


「実習が終わっても、先生が姿を現さないということは、普通なら先生の身にも何か起きたと考えるべきよね……」

「……」


二人は黙る。

普通なら有り得ない上級悪魔との遭遇を考えると、何か他にも起こっていると考えられる。


「何が起きているんだ……」


ハートンは顔を青くし、怖がった。


「分からない。でも、今はしっかり自分の身を守るしかない」


自分にも言い聞かせるようにユーリは二人に言った。




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