3章 「上級悪魔」1
3章 「上級悪魔」
ドーンという大きな音共に、目の前に大きな物体が現れた。
びっくりし、その場にいた三人が固まる。
三人の視線の先には、魔具で遮った領域を軽く越え、恐らく上空から侵入してきた悪魔がいた。
アンジェの蔓は悪魔に踏み潰され、魔法が解けてしまった。
三人は急に現れた大きな悪魔に驚き言葉を失う。
悪魔は全身黒く毛むくじゃらで、ゴリラのような背格好。しかし顔は狼のような顔をし、鋭い牙を見せていた。
「何こいつ……」
アンジェも予想外なことが起きて、動揺を隠せない。
「上級悪魔……普段は森の奥にいて滅多に人前に現れない……この大きさと強さなら間違いない……」
ユーリが声を震わせ、説明した。
悪魔は大きく分けて三つの種類がある。上級、中級、下級だ。
ユーリが撒いた魔具は下級から中級悪魔に利くものだ。それを軽く越えてきたのだから間違いない。
そして悪魔の大きさは強さにも比例する。上級悪魔の大きさは約三メートルはあった。
一メートルから一メートル八十センチが中級、それ以上を上級、一メートル以下を下級と呼ぶ。
強さは想像通り下級が弱く、中級は普通、上級は強い。
「じゃあ、なんでここにいるのよ!?」
「知らない!」
流石にアンジェも危険だと察し焦りを見せた。
悪魔はアンジェたちの様子を窺いながら、一歩近づく。
三人はビクッと反応し後ろに一歩下がった。
「エーデルさん、なんか強力な魔法ないの!?さっきの蔓みたいに!」
レナーナは、目に涙を浮かべ顔面蒼白になっていた。
「そんなこと言われても……何の魔法使えばいいのか……」
「ダメ!攻撃しちゃダメ!逃げることを考えて!上級悪魔は中級悪魔までとは違って厄介なの!」
一応攻撃してみようと杖を構えたアンジェに、ユーリがストップをかけた。
悪魔のことを研究しているからか、ユーリは二人よりは冷静だった。
「どういうこと……?」
「上級悪魔は……中級以下と違って、闇と光魔法が使える」
「魔法が使えるの!?」
レナーナが驚いた大きな声で悪魔がぴくっと反応した。
慌てて自分の口をレナーナは塞ぐ。
悪魔は鼻息を荒くして、飛び掛かろうとするような構えをとった。
ヤバいと察しユーリは咄嗟に魔法を出す。
「ボルーアケージ」
三人と悪魔の間を隔てるように、電気が網目状に流れる壁が現れた。
悪魔は魔法の壁が出来たので、構えを解く。
ユーリは畳み掛けるようにすぐ追加魔法をかける。
「エンディ」
持続魔法だった。
「走って!」
「えっ」
一気に魔法を注ぐと、ユーリは後ろに向かって走り出した。
言われた通りレナーナとアンジェは直ぐにユーリの後に続いた。
後ろでは、悪魔の大きな叫び声が聞こえる。身体に響き、恐怖感が沸き起こる。
「逃げるところまで逃げる!せめてみんながいるところまで!」
「結界張ったし、持続魔法付けたから大丈夫なんじゃないの!?」
「あんなの時間稼ぎよ!言ったでしょ!?上級悪魔は魔法が使えるって、頭悪いけどそのうち魔法解いて追ってくるわ!」
「嘘でしょ!?」
三人は必死に走る。
すると前方に人影が見えた。
ハートンだ。
彼も三人の姿を見つけて、手を振った。
「あ!ライネスさんたち、こんなところにいたんだ!探してたんだよ!術式見つかったから助っ人に来たよー!」
「逃げて!!」
「は?」
「いいから!!」
ユーリの切羽詰まった声と、三人が必死に走って向かって来る様子から、ハートンは何かヤバいと察し言う通り元来た道を走って引き返す。
「何があったの!?」
後ろを気にしながらハートンが叫んで三人に聞く。
「悪魔が…………上級悪魔が……襲って……」
ユーリはへとへとになりながら、答えた。
するとその時、後方から再び大きな雄叫びが聞こえてきた。
それが聞こえた途端、ユーリの血の気が引いた。
「結界が壊された……来る……」
その場の全員が息を飲む。
足を止めることは出来ない。
「もうすぐ、川に出る!……そしたらリンダスさんもいると思う!……他のみんなも戻ってきてるかもしれない!走ろう!!」
ハートンの言う通り、今は逃げるしかない。
人数が多ければ悪魔を退治することが出来る確率が上がる。
4人は走り続けた。
そして前方に川を見つける。
思い切り走って、4人は何とか川まで出ることが出来た。
すぐにシャーナたちを探す。数十メートル先に、悪魔を上手く撒いたらしい排除から帰ってきた者が、シャーナの周りに数人集まっていた。
川を見るとハートンの言う通り岩の排除は終わっていた。
4人はそのまま足を止めずに、シャーナたちのいるところへ走る。
シャーナたちは、勢いよく走ってきた4人に気付いたが、何か様子がおかしいことに気付く。
「なんであいつら走ってるんだ?」
シャーナが怪訝な顔をする。
「何か言ってる」
ソニアが呟いた。
皆は耳を澄ませて聞き取ろうとする。
「……て!!」
「何だってー?」
大きな声でシャーナが聞き返す。
「助けてー!!」
ハートンが大きな声で言い直した。
「は?助けて?」
その場の全員がどういうことか疑問に思った瞬間、走ってくる4人の後方から物凄い衝撃音がした。
一瞬何かが爆発したのかと思ったが、違った。
木が倒され、土煙が舞う。中から現れたのは、大きな悪魔。
恐らく、もの凄いスピードで突進してきたのだ。
皆が4人が何故必死に走ってきたのか瞬時に理解した。
しかし、急な自体に身体と脳は追いつかない。
皆はパニックになり、4人と同じく逃げ出した。
驚いていたがシャーナとソニアだけは何故か冷静だった。
「おい、みんな!落ち着けって!」
シャーナの言葉は誰にも届かない。
「ちっ」
シャーナは、恐怖で逃げ回るクラスメートに舌打ちする。
「ソニア、あの4人がこっちにくるまであたしが悪魔の相手をする。お前は結界作ってみんなを川の中に避難させろ」
「え」
「悪魔の意識をあたしに向けている間に、姿を隠せばいなくなったと思い諦めるだろ」
「でも、シャーナ一人……」
「あたしは平気だ」
「でも、私、魔法……」
「時間がない。やれ。」
「……分かった」
「大丈夫だ。お前は強くなってる、出来るさ。でも絶対無茶はするな。クラスの奴が落ち着いたら、手伝ってもらえ」
シャーナはそういうと、皆とは逆に悪魔の方へ走り出した。
(守りたいのに)
ソニアはシャーナの背中を見つめて、自分の無力を痛感する。
しかし、シャーナが頼ってくれたのだ。魔法が下手なソニアに皆の命を預けたのだ。
「結界張る……」
出来るだろうか。さっきだって一人でできなかったのに。
同時に何か他の魔法を出すわけではないから、一つに集中出来るが、ソニアは不安だった。
皆の分の結界。
一つずつ作り持続魔法をかける方法しかソニアには出来ない。
(時間がない……)
ソニアは腕輪を摩った。
※※※※※
「あれ?なんでシャーナ、こっちに走ってくるのよ!?」
アンジェが逆にこちらに向かってくるシャーナに気付いた。
4人とシャーナがすれ違う瞬間、シャーナがアンジェに言う。
「アンジェ、逃げんな!フォローしろ!」
「は!?戦うの!?」
シャーナの言葉にアンジェは足を止めた。
三人はアンジェたちを気にしながらも、走り続ける。
「正気!?あれ上級悪魔なのよ!?しかも野生!学校のとは違うわ!」
「皆パニックになってる。あたしらしか戦えるやつはいない」
「魔法使えるのよ!?あれ!」
「知ってる」
「え、知ってるの?なんで?」
アンジェでも知らないことを何故、シャーナは知っているのか。
ユーリは悪魔を研究しているから納得出来るが、シャーナが知っているのは意外だ。
「今はそんなことどうでもいいだろ。あたしが攻撃するから、アンジェは奴の攻撃があたしに当たらないようにフォローしろ」
「もしかして、直接攻撃するわけじゃないでしょうね!?」
「遠距離魔法で攻撃しても防がれるだろ。防御魔法張ったにしたって、相手も魔法使えるんじゃ直ぐに壊される」
「危険よ!!」
「だからフォローしろって言ってんだ!その底無しの魔力なら何も怖くねぇだろ!」
「……呆れた。無茶苦茶だわ。全力でフォローするけど、こんなのあたしじゃないと死ぬわよ」
「だろうな。でも、あたしより今から頑張るやつがいるから、こんなのたいしたことない」
「……どういうこと?」
「…………ソニアに魔法使えって言った」
「…………あんたが?」
アンジェは疑う。
シャーナがソニアを誰よりも守ろうとしているのを知っているからだ。
なのにソニアに魔法を使わせたのが理解出来ない。
「ソニアだって成長している。それに腕輪があるなら大丈夫だ」
「……ならいいんだけど」
アンジェは不安だった。
しかし会話を続ける時間はなく、二人が会話をしている間に悪魔は目の前まで来ていた。
「任せたアンジェ」
シャーナは真っ正面から悪魔に立ち向かっていった。
走りながら、杖を前に構えて呪文を唱える。
(契約魔法……)
契約魔法は魔具に魔法をかけておき、魔具に名をつけ、呼び寄せる魔法である。しかし、契約魔法だけで呼び寄せると、本来そこにないものを出現させるので、魔法の持続時間も性能も本来の物より劣ってしまいすぐに消える。
普通は、杖にも契約魔法を記録しておき、杖がよりしろになって魔具を呼び寄せる。すると消えずに魔具を扱える。
シャーナの杖にもある魔具が契約されている。
「トレジサイン」
呪文を唱えると杖を全体的にさっと撫でながら、魔具の名を呼ぶ。
「焔」
すると、杖が剣に変化した。
シャーナ愛用の剣である。
シャーナは剣で悪魔と戦うつもりなのだ。
シャーナが剣を出したのを見て、アンジェもすぐに魔法を唱えさっきよりも太くて丈夫そうな蔓を、悪魔とシャーナの周りに出す。
「グラスァケージ」
悪魔が近づいてくるシャーナを魔法で攻撃しようとする。しかし、アンジェが伸びた蔓を手で遠隔に操り、シャーナを防御する壁となる。
悪魔の攻撃は禍禍しい黒い球を口から放っていた。
悪魔は力押しでシャーナを立て続けに攻撃しようとする。その度にアンジェが瞬時にシャーナを防御した。
そのおかげでシャーナは悪魔に急接近する。
まずは悪魔の左足に剣を刺した。
グサッ。
(浅い……!)
しかし、思っていた以上に毛むくじゃらの体毛の下は頑丈で、剣があまり入らなかった。
シャーナは直ぐに慌てて剣を抜き、後ろに飛び退き悪魔から距離をとる。
悪魔の剣が抜かれたところからは赤い血が流れていた。しかし叫び声も出さない様子だと、悪魔にしたらたいしたことないのだろう。
その反応にシャーナはイラッときた。




