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ウィザーズ  作者: 緒詞名
1巻「4人の魔法使い」
11/60

2章 「課外特別実習」5



そして漸く、岩排除に取り掛かる。

ソニアはハートンの仲間の水魔法使いに結界を作ってもらい、川の中へ入っていく。水魔法使い全員が持ち場についた。

水中以外の面から術式を探す人たちも岩を囲うように位置についた。

足が着かないところは草魔法などで蔓を操り、身体を固定する。命綱だ。


シャーナが全員準備が出来たことを確認すると、大きく指笛を吹いた。

作戦開始の合図である。


一斉に魔力を覆った杖で岩を叩いた。

ゴーンという音を立て魔力と魔力が跳ね返る。

この巨大な岩では一回だけじゃ見つからない。

排除チームは黙々と作業に取り掛かった。


一方、ユーリのいる悪魔排除チームは気を緩ませないで、見張りに務めていた。岩から少し離れた場所で森の中である。

5人は四方に分かれていた。男子3人、女子2人で、ユーリともう一人の女子で一緒に見張ることになった。


「ライネスさん、聞きたいことがあるんだけど」


そのチームの一人の女子がユーリに声をかけてきた。

確かレナーナという名前の女子だ。

髪型がボブで茶髪。メイクも軽くしている。ユーリは、アンジェと似たような空気を出すレナーナという人物がはっきりいって苦手だった。

三年間一緒のクラスだが話したことはないに等しい。


「何。ちゃんと見張りしてよ」

「ちょっとだけ。ライネスさんが作った何とか測定器あるじゃない?」

「性質測定器ね」

「そうそうそれ。それなしでも自然のものかそうじゃないかは、今のように杖で叩けば分かるんじゃないの?」

「そうよ」

「なら、なんで測定器使ったの」

「まだその方法は使う時じゃなかったからよ」


どういう意味か分からず、レナーナは首を傾げる。

ユーリは仕方なく、手短に説明することにした。


「悪魔は目と耳は人並みだと聞くわ。けれど魔力の感知はとてつもなく発達しているらしいの」

「はあ」

「だから極力魔力を放出させずに岩を調査する必要があった。魔具なら、魔力は魔具に注ぐからあまり外に漏れないでしょ」

「あ、あのやり方だと杖に魔力覆わないといけないから、悪魔に気付かれるのか」

「そう」

「ん?でも待って」


そこでチームのレナーナは気付く。

表情は硬くなり、血の気が引いたように青くなっていく。

ユーリは呆れるようにレナーナを見た。


「それじゃあ今のやり方って悪魔にバレバレじゃない!?」

「そうよ。だからこのチームにいる女子は貴女と私だけ。みんな排除チームにいったわ」

「地味な作業嫌だから、こっちにきたのに……」


不純な理由だから痛い目を見るのだ、とユーリは情けの言葉はかけなかった。

それにすぐに周りの音に意識がいった。


「分かったら集中して。たぶん、もうすぐ来る……」

「え……」


ユーリの目つきが真剣になった。




※※※※※




術式を探し出して1時間経った。

やっと岩の半分を探したが、まだ見つからない。

魔力を出し続けるのは大変で、疲れている者もいるので休憩をとる。

アンジェは相変わらずケロッとしていた。


「シャーナ、たぶんユーリたち忙しくなってると思うから助っ人に行ってきてもいい?」

「ああ、半分探してもまだ見つからないからな。まだ時間がかかりそうだ。強そうな奴5人引き連れ向こうに加勢してくれ」


シャーナは最初から探して直ぐに見つからない場合は、10人ずつに分けるつもりでいたらしい。


「ユーリが心配だ」

「分かってる。あたしに任せて」


アンジェは休憩している他4人に声をかけ、急いだ。


「あと5分したら休憩終わりだ。作業に取り掛かるぞ」


それを見届けると、シャーナは皆に声をかけた。


休憩が終わり再び作業に取り掛かる。

杖で叩くゴーンという音の他に、周りからは悪魔の鳴き声が引っ切りなしに聞こえてきた。


それから数十分が経ち、岩の四分の一まで探した時だった。


「あったぞー!!」


クラスの男子の大きな声にみんなが一斉に集まる。

シャーナが水中の5人にも聞こえるよう指笛を吹いた。


排除チーム全員が集まると、確かにそこに術式があった。


「良かったね術式が底面で埋まってたり、両岸の側面で隠れてなくて」

「本当にそれだよな」


術式は川底から1メートル程上にあった。

早速シャーナが術式を解くために、どのような術式で構築されているか確認する。

こんな巨大な岩だ。高等魔法だと予測はついている。

複雑な術式だった場合解くにも時間かかるし、もしかしたら解けないかもしれない。

シャーナは身構えた。


「あれ……?」

「どうしたの?」


しかし、シャーナの目に映った術式は意外なものだった。


「これ、たぶん基礎魔法の応用だよ。あたしたちが普段使っているのと同じ……」




※※※※※




「ユーリ、大丈夫?加勢に来たわよー」


アンジェがユーリのところへ行くと、ユーリとレナーナが悪魔と応戦していた。

悪魔避け魔具を周りに撒いている。

雑魚悪魔は魔具の力で立ち入ることは出来ないが、ちょっと強い悪魔は領域を無理矢理かい潜ってこようとする。それを防ぐのに二人は精一杯だった。

魔力が消耗し疲れが出始めている。ユーリは正直アンジェが来てくれて助かった。


「悪魔のデータ取るって言ってたの何処のどいつだったかしら?」

「……る、っさいわね。そんな余裕なんてあるわけないでしょ。見てないで早く助けてよ」

「はいはい」


疲れているせいか、ユーリの口が悪くなっている。

こういう時はあまり触れないのが身のためだ。

アンジェは悪魔退治に集中することにした。


「プロッジェッド」


呪文を唱え、周りに蔓を何本が地面から出現させる。

悪魔が入ろうとすると、蔓の鞭で悪魔を払い飛ばす。


「これで術式見つけるまでの時間稼ぎになるわね。あんたたち二人は存分に休むといいわ」

「エーデルさんありがとう」

「言われなくても休むわよ」


レナーナはお礼を言ったが、ユーリは照れているのか捻くれたことしか言えない。


「……ユーリ、あんたホントに可愛くないわね」

「どうせ私はアンジェみたいに容姿に恵まれて生まれて来なかったですよー」

「いや、そういう意味じゃないわよ」

「知ってるわよ。皮肉ですー」

「あー、可愛くない!」


ユーリは心配されるのも、助けられるのも、どうしたらいいか分からなくなる。

お礼を言いたい気持ちはあるが、どうしても恥ずかしくなるのだ。


(私が改まってお礼なんて言ったら、アンジェは冷やかすに決まってるわ)


そんなことを考えてしまい、結局お礼を言えなくなってしまった。




※※※※※




「基礎魔法の応用?ということは、これって簡単な魔法なの?」


所変わって、岩排除チーム。

岩の術式を見つけたシャーナたちは衝撃的な事実に驚きを隠せないでいた。


「たぶん、そう。ほら、術式が基礎魔法に、確かよく見る……持続魔法の術式を加えてる」

「あ、本当だ。俺たちが普段使ってるやつだ。これなら解くのめちゃくちゃ簡単じゃん」

「他に術式を追加している様子はないし……」


皆はとても簡単な魔法であったことに安心すると同時に、それが意味する考えられない事実にを察する。


「もし本当に、この岩に持続魔法しか追加していないとしたら……この岩を出現させた魔法使いは、とてつもない魔力を持っていることになる……」


シャーナの言葉に全員が黙る。


基礎魔法はその人の魔力の量と質で決まる。

鍛えれば魔力は増えるし、質も良くなる。強ければ強いほど、基礎魔法は大きさも強さも、持続時間も幅が利くようになる。

なので多くの魔法使いは基礎魔法を鍛えて、自分の限界値を広げたり、プラスして応用魔法を使おうとする。

しかし人間としての限界がある。

どんなに鍛えても、人間が空を飛ぶことが出来ないように、基礎魔法だけでは不可能なこともある。

そう、その例えとしてこの巨大な岩も、普通なら基礎魔法だけでは出現させるのは無理な大きさだ。

どんなに優れた魔法使いでも、この大きさの岩を魔法で出現させるには、数十人の協力が必要だ。

その上できちんと術式を書き、この大きさだといくつもの術式を加えなければならない。

そして何年も保つためにまた膨大な魔力を加えないとならない。


「……この岩っていつからあるんだ?」

「あ、確か10年はあるって聞いたことあるよ」


ユーリに丘の岩のことを教えた女子が、シャーナに教えた。


「10年……」


つまり持続魔法をかける時に、10年分の魔力を一気に注いだことになる。

持続魔法は魔力をかける時、一気にかけなくてはならない。しかし、そのかわりちょっとの魔力でも倍に蓄積することが出来る。

個人差はあるが普通なら長くても一週間、優秀な魔法使いなら一ヶ月は魔法を持続させることが出来る。

魔法が尽きたら、魔法は自然に消える。


「この岩は10年以上あって、まだその魔法は続いているということか」

「誰なんだ……」

「有り得ないよ……」

「悪魔の仕業じゃないの?」

「悪魔は魔法使えないから、やっぱり魔法使いだよ」


皆は信じられず、恐怖が込み上げてきた。


「こえー……化け物かよ」

「……化け物ね」


シャーナはその言葉の意味を考えるように呟いた。


こんなことが出来るのは、確かに化け物じみた魔力を持った者しか出来ない。

人間離れした魔力の多さを持つ者しか……。


一人で巨大岩を形成し、しかもそれは初歩的な基礎魔法。

持続魔法が追加されているが、その持続は10年以上という桁外れな数字。


“あたしの化け物じみた魔力の多さは知ってるでしょ。一日かけて集中して、普通の30倍の速度と量の魔力注げば三年くらいいけるわよ”

“シャーナと価値観違うのよ!あたしの力知った時の反応知っている!?みんな揃えて化け物って言うのよ!?”


身近過ぎる人物がシャーナの頭を過った。


(アンジェの他にも尋常じゃない魔力の持ち主がいるってことか……)


シャーナはその魔法使いが、アンジェの魔力の多さの秘密に繋がる気がしてならなかった。

しかし、その魔法使いの手がかりはこれ以上分からない。


歯痒い気持ちを抑えつつ、当初の問題に向き直る。


「みんな、何がともあれ、あたしたちがやらなくてはいけないのは、この岩を排除だ」


シャーナの言葉で皆も目的を思い出す。


「今からこの岩の術式を解く。一気に川の水が流れると思うから離れてくれ。それか悪魔排除のメンバーの加勢に行ってくれ」


シャーナは水魔法使いの一人に結界をお願いし、術式を解く準備をする。

その他のメンバーはソニア以外の全員が、悪魔排除の助っ人に向かった。

ソニアだけは、シャーナを被害が及ばない離れたところから見ていた。

シャーナは、ソニアもユーリとアンジェのところに行くと思っていたので不思議に思った。


「ソニアは行かないのかー?」


ソニアはこくりと頷く。

何故だろうと思いながら、ソニアだし、と深く考えず、シャーナは術式を解くのに集中することにした。


「ノーマ、エンディ、イレイス」


シャーナが術式を解く呪文を唱えた。




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