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ウィザーズ  作者: 緒詞名
1巻「4人の魔法使い」
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序章

序章






目を覚ますと、みんな泣いていた。

お父さんもお母さんも私を抱きしめて泣いていた。

いつも冷静でヒーローみたいなシャーナが、見たことないほど泣きじゃくってた。

なんでだろう?


今でも、私には理解出来ない。






※※※※※




魔法使いの世。

ファントム第一魔法学校、三年A組、ソニア・シルキー。

ファントム国の中心都市『コア』の中でも一番誇る国立学校。

生徒は名門貴族や、社長の子息や令嬢、富豪の子供、頭脳明晰の天才、腕の立つ魔法使い……と、そんな選ばれた人間しか通うことしか出来ない学校にソニアは何故入れたのだろうと今で思う。

ソニアは貴族でもなければ、令嬢でも金持ちでもない。頭は寧ろ人より劣る上に、魔法は友人が発明した道具なしでは満足に出すことも出来ない。

しかし足手まといでしかない彼女は紛れも無く、第一の生徒である。しかも入学してもう二年は過ぎた。

自らこの学校に通うと決めたが、時々自分がここにいる理由を考えてしまう。

特に一人の時は。


「シルキーさん、珍しく一人なんだね」


1時間目の授業が終わり、2時間目の教室に移動している時だった。

いつもなら1・2時間目が一緒の、親友であり幼なじみでもあるシャーナ・リンダスと移動するのだが、途中まで来た時に、シャーナが1時間目の教室に2時間目の教科書を忘れてしまったので、取りに戻ったのだ。

ソニアは自分もついていこうとしたが、

「いや、わりーよ。ソニア先に行ってなー」

と一人で行ってしまったので、言われた通り一人で移動していた。

そういえば一人になることは滅多にないなと物思いに耽っていたら、声をかけられたのだった。

確か一緒のクラスの男子である。

名前は確か……。


「あれ……?もしかして誰だかわかんない……?同じクラスのハートンだよ!」


誰だか思い出すために、顔をずっと見ていたからか、ソニアがハートンだと分かっていないことに気付き自らハートンは名乗った。


「あぁ……」

「3年間同じクラスなのに覚えて貰えてないのはショックだなー」


そう、ハートン……確かそんな名前だ。

しかしソニアにしたらそれがなんだという感じだ。


「何」

「いや、いつもならリンダスさんがいるから、どうしてかなって。ほら二人って目立つじゃん」


目立つ。

確かにシャーナは目立つと思えたが、ソニア自身は目立つとは思えなかった。

たいてい、シャーナの後をついて回っていると自覚しているからだ。


「リンダスさんが赤に対してシルキーさんは青って感じ!」


なるほど。

シャーナの髪色は炎のような赤髪で毛先につれて黒に近い色に濃くなっていく。シャーナはいつも白い花の髪飾りで一本に結っている。

対してソニアは青というよりは水色のショート。

二人並べば対照的である。

ソニアは納得した。


「シャーナは教科書取りに戻ってる」

「あ、そうなんだ」

「じゃあ」


話は終わったと思い、ソニアは教室に向かうため歩き出した。

しかし、ハートンは慌て追いかけ、ソニアの隣について同じように歩き出した。


「?……まだ何か?」

「同じ授業なんだし、教室まで一緒に行こうよ」

「……別に構わないが」


ソニアの頭の中には疑問がいくつも浮かぶ。

何故一緒に行きたいと言うのだろう?

何故話し掛けてきたのだろう?


「前から思ってたんだけどシルキーさんって不思議だよね」

「どこが?」

「誰に対しても淡々と話すし、無表情だし、……あ、女子に言うようなことじゃないよね、ごめん!」

「構わない。本当のことだし」


ソニアの無表情、無感情、無関心、は有名だった。ソニアの喜怒哀楽を見たことがあるものはほぼいない。

話す時も、短く何も感情がなく聞こえる。

そして、自分に深く関係のあるものにしか関心を示さないのだ。


「だからなんでかなって」

「わからない」

「……そうなんだ」


ソニアは本当のことなので即答する。

それが相手に冷たく聞こえたとしても、ソニアにはそれすらわからない。


「俺さ、社長の息子だけど、第一に引っ越してきたの高校になってからなんだ。今までは第三。だから成り上がりっていうの?第一と第三の差が凄くて軽くカルチャーショックだったわけ。第一って殆どエレベーターで上がって来た奴らばっかだから、ちょっと庶民じみた俺とは合わないなーって」


魔法の国ファントムは、コアという巨大な街で成り立ってると言っていい。

コアは大きく八つの市に分けられ、住む者や特色が違ってくる。簡単に言えば階級ごとに分けられているのだ。

1番市(多くの者は1番地とも呼ぶ)はコアの中心で城があり、城下町といったところである。金持ち、優秀な魔法使いが多く集まる。

その近くの同じく2、3番地も似たようなところ。

市は数が大きくなるに連れ治安が悪くなる。8番地はごろつきや役立たずのたまり場という話である。


学校は、それぞれ市にファントム魔法学校が一つずつあり、だいたいの者が小学生から高校生まで学校の寮で暮らすことになる。

多くの者は学校のことを第一、第三のように数で呼んでいる。


急にしゃべりだしたハートン。

ソニアはよくしゃべるなと、ハートンの話を半分聞きつつ、なんでこんなこと話すのだろうと考える。


「けど、シルキーさんは違うじゃん!?」

「違う?」

「いや、リンダスさんもだけど」


ソニアとシャーナは、高校は国で一番優秀で普通では入れない1番地のファントム第一魔法学校に一緒に入学した。

二人とも一番地の出身ではないが、高校からもう三年生なので、第一の寮に2年は暮らしている。

ハートンが言いたいのは、二人も自分と同じく第一からの入学だということだろう。


「リンダスさんは魔法とか凄いし本当に実力で入ってきたから、違う意味で違うなって。それにあの優秀過ぎるグループのリーダーだし!」


学校では入学してすぐに、魔法のタイプ、性格の相性、力量など、ありとあらゆる要素から、最も良いメンバーの組み合わせを魔法で占いグループ分けする。

四人一組で、授業も部屋も一緒。高校三年間をその四人で協力して過ごさなければならない。

ソニアとシャーナは同じグループで、他にもう二人いる。

ハートンが言う優秀過ぎるというのは、二人のことを指しているのだろう。


「でもシルキーさんもグループの一員だから、凄いのかなって思ってたんだけど他の三人とは凄いのレベルが違うって言うか……それほどでもないっていうか……ごめんね!酷いこと言ったよね!悪く言うつもりなかったし、こういうこと言うつもりじゃなかったんだ!!」

「事実だから気にしてない」


ソニアは無表情。言い方も無感情。何も感じない。

事実、ソニアは気にしていなかった。

しかしハートンには、ソニアの気持ちを理解するのは難しく、ソニアが怒ってるのではと覗っている。


「何が言いたいのかまだ分からない」

「うん、ごめんね!その、つまり、俺は君に親近感が湧いたんだ」

「親近感?」


ハートンは立ち止まる。つられてソニアも立ち止まった。

ハートンは真っすぐソニアを見る。真剣な目をしていた。

ますますソニアには分からない。感情ない自分にハートンが親近感を湧く理由が見当たらないからだ。

しかし、ハートンの様子からして冗談ではないのだろう。


「つまり、その……」


ハートンはどこにでもいるような男子にソニアには見える。

分からない。

ハートンは今になって何故話し掛けてきたのか。何故ソニアに親近感を抱くのか。


「……俺、君と……」


シャーナがいればすぐに答えてくれるだろう。

しかし今そのシャーナはいない。


「君と……!」


(そういえば、シャーナ遅いなー……何してんだろ?)


「友達になりたいな……って!」




「…………ん?」




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