迷走
デッカーはパラシュートをコントロールしながらなんとか密林の真上に降りることに成功した。
しかし、木に絡まり宙吊り状態になってしまった。
すかさず胸にホルダーで固定してある銃剣を抜き、ワイヤーを切ろうとしたが、いきなり切っては落下してしまう。
しばらく考えた後、一番近くの枝に片手を掛けながら空いた手でワイヤーを切ることにする。
蒸されるような暑さの中、頑丈なワイヤーを銃剣のノコギリ状になった刃で切る。
一本を切り終え、もう片方も切り終えた途端に片手に自分の全体重がかかる。
すかさず銃剣をしまい、両腕で枝をつかむ。細い枝から徐々に太い枝へと移って行き、ようやく太い木の本体へたどり着く。
太いと言っても、熱帯樹木なので両手で抱えることができる。デッカーはそれを利用し、スルスルと降りていった。
見上げると30mはある高木だ。そのまま飛び降りていたら骨折は免れなかっただろう。
デッカーは周りを見渡した。樹木が際限無く生い茂り、頭上は葉で覆われて薄暗い。
デッカーは地面に地図と方位磁針、携帯食料を広げた。そして、一番好きなチョコバーをかじりながら状況を整理する。
敵対勢力の領地へ降りたのなら、すでに自分は見つかっているはずだが、今のところ人の気配は無い。そればかりか、ここ最
近人の出入りがあったとは思えないほど草木が生い茂っているので、まずこのあたりに人は居ないようだ。方角からすると、ど
うやらかなり飛ばされてコスタリカに降りてしまったらしかった。とりあえず、一番近くの山を目指し、空中管制機と連絡を取
らなければならない。
デッカーは地図をしまうと、山がある方角へ歩きだした。
一方、デッカー達ワスプ小隊の所属する基地ではペンタゴンと基地指令官がしきりに連絡を取り合っていた。
「我が空軍のトップガン小隊がたった一機のスホーイに壊滅させられたのか・・・。だが、全員戦死、という訳ではないのだな
?」
国防長官からの問いかけに指令が答える。
「はい。デッカー機が最後にベイルアウトしたのを空中管制機が確認しています。しかし、ジャングルの真ん中へおりたため、
所在が確認できていません。」
「そうか・・・。だが、ベイルアウトする直前に敵を落としたそうではないか。さすが大尉、といったところか。
さてと、明るい話ばかりしても居られない。いま、ロシアの外交官を通じて首相とやりとりしていてな・・・。
どうやら、デッカーが撃墜した相手は、ロシア空軍にとって"かけがえのない人材"だったそうだ。彼女の生還が保証されなけれ
ば、核攻撃も視野に入れた報復を考えるそうだ・・・。」
「そんな!無茶ですよ!所在もわからないんですよ!?」
「君たちにはSEALSが居るじゃないか。彼らに任せればいいのでは?」
「彼らは偵察や捜索など長時間の作戦は得意ではありません。どちらかと言えば海兵隊長距離偵察部隊、リーコンの方が適任か
と思われます。」
「それでもいいな。その件は君に一任しよう。では、私はロシア外相とホットラインで会議しなくてはならないので、これで失
礼する。では、健闘を祈る。」
電話が切れるとすぐに指令は受話器を取り直し、内線につないだ。
「リーコン一個中隊に出撃命令だ。スペクターガンシップに偵察装備で1430時に集合せよ。以上だ。」
そう言うと指令は深いため息をついて受話器を置き、デッカーとロシアのパイロットがベイルアウトした空を窓から見つめた
。